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お嬢様は神様です!  作者: 明日葉充
獣人宗教国家ミラゾワ編
112/135

笛吹き男はどこにいる?②


「ソヘイルのお母さん、美人さんだったね」


マイリがなんだか楽しそうに言った。ソヘイルは少し驚いた顔をしてから微笑む。


「そう……なのか。でも、二人とも優しそうな人だったな。」


ソヘイルにはそう知り合いが多くないし、世間一般の美的感覚という意識も低い。なので、自分の母らしき人を美人と言われて驚いたのだろうか。アシュレイは二人のやり取りを見ながらそんなことを思った。


「そうですね。ソヘイルはお父さん似のようですが、そちらも整った顔立ちで」

「アシュレイ様が一番美しいですよ」


「そういうのいいんで」


アシュレイが、笑顔で軽口を叩いたアルドヘルムを軽くバシッと叩く。夕日に照らされてオレンジ色になった風景の中を、5人で歩いて宮殿に戻った。


普段通りの様子のアシュレイは、いつも通りに自室に戻って、ベッドに仰向けに横たわって天井を見上げた。そして、険しい顔になって「うーん」と考え込む。


「彼ら」の言葉が理解できるからこそアシュレイは感じた。


ソヘイルの両親は本当にソヘイルの成長を見て喜んでいること、それはむしろ安堵の表情と言ってもいいかもしれない。そして、ごくごく普通の人間だった。ソヘイルという自分の名付けた名前で、父親そっくりの顔の男に出会えて嬉しいという、ごくごく普通の感覚で、反応のように思えた。だからこそアシュレイは不思議だった。


ミサキは、ソヘイルが親に捨てられたのだと断言した。アシュレイはミサキは友人だと思っているし、無意味な嘘をつく人間ではないと認識している。ましてやソヘイルに関してなんて、嘘をつくメリットが感じられない。ソヘイルが捨てられたと知っていることについては、詳しく聞きもせずに信じていたが、ミサキは実際にそれを見ていたのだろうか。


ミサキがミラゾワという国や、国王のムスタファに向ける嫌悪感を見るとミサキはこの国を昔から見ていたような気がする。なぜ手を出さなかったのか不思議だが、ミサキはそこまで正義漢という感じでもないし、「うわ、アイツ最悪」とだけ思って特に手出ししなかったということなのかもしれない。


アシュレイが生れた時からずっと見ていたと聞いていたし、24時間365日ではないにせよ、あの天界の自分の世界から頻繁に人間の世界を見ていたわけだ。アシュレイが生まれる前に他の国を見ていてもおかしくはない。どちらにせよ、アシュレイに確かめるすべはないし。アシュレイが仰向けに寝たまま眉間に皺を寄せ、目を閉じて考え込んでいるとすぐ上から声が聞こえた。


「本当に誘拐されたのか気になるか?」

「!!」


「うわっ!!」


アシュレイがあまりに驚き勢いよく起き上ったため、アシュレイの上に空間の穴を開けて待機していたミサキと頭がぶつかり合って、鈍いが凄い音がした。痛みで二人とも頭を押さえる。


「何をするんだ。ちょっとだけ痛いだろうが」

「目の前にでてくるからびっくりしたじゃないですか!」


「普通に声をかけようと思ったんだがお前がえらく考え込んでいたようだったのでな」

「そうですね。気になります。」


アシュレイが、空間から顔を出しているミサキに手を伸ばした。ミサキが慣れた様子でその手を掴み、自分の世界に引っ張り込む。部屋で騒いでいると人に気づかれそうだし。アシュレイはいつものミサキ宅、一人暮らしには大きすぎる机の前の、こじゃれた椅子に腰かけた。すぐに用意していたのか、最近のアシュレイのお気に入りのウーロン茶が出てくる。ちなみに気に入っている理由は健康に良さそうだからである。


「さて、さっきの話だが。お前はハーメルンの笛吹き男、という話を知っているか?」


話の本題に入ったミサキの言葉に、アシュレイは少し考えてから思い出したように手を打った。


「ああ、ドイツの。童話でしたよね、実際に起こった伝説という説もありますが」

「まあ、そうだ。」


〝ハーメルンの笛吹き男〟とは、ドイツの古い伝説である。ネズミの被害に苦しんでいた街の人々は、街の外からやってきた、ネズミを追い払えるという笛吹き男にネズミを退治してもらう。報酬を払うと約束したうえで笛吹き男はネズミを退治したわけだが、街の人たちは約束を破って報酬を払わなかった。すると笛吹き男は笛を吹いて子供達をかどわかし、130人の子供が行方不明になってしまったというお話だ。


「あれってたしか、本当は笛吹き男は奴隷商で、街の人たちが貧しくて子供を売った説とか、笛吹き男が黒死病の象徴という説とか……中には、新しい街を作るために子供たち自ら街を出たという説もあるんですよね。流石にミサキも生まれてないほど昔ですし、真相は闇の中ですが」


子どもが居なくなる話、ソヘイルと共通しているのはそのくらいだろうか。アシュレイはミサキがこの話を出して何を言いたいのかがはっきりわからず、ミサキの次の言葉を待った。


「この国の街は貧しく、その話に近い。説としては〝子供を奴隷商に売った〟という内容のな」


「聞きたいのはその話です。あの両親は誘拐されたと言っていましたよ、売ったんじゃ無さそうです」

「ああ。それは半分本当で半分嘘だ。」


「具体的にお願いします」

「実際に子供を売っていたとして、なぜ伝説では〝連れていかれた〟だの〝子供たちが笛吹き男にかどわかされた〟だのと記されているのか?それは、まあ平たく言えば体裁が悪いからだな。」


「……?」

「例えばだ。このミラゾワもそうだが、貧乏人で子供を育てられそうにない家庭があるとする。だが、子供を売りに出すほど非情になる勇気もない。そうなった親が子供を家から追い出す方法はなんだ?」


家から追い出す。感じ悪い言葉にアシュレイは少しムッとした顔になった。それから、少し考えて言った。


「……誘拐されてるのを知ってて、見逃す……とか?」

「正解だ。偉いな、クッキーをやろう」


「夕食前なので今はいいです。ソヘイルの両親は、ソヘイルが誘拐されたのを知っていて見て見ぬ振りをしたということですか?」

「そうだ。その行動の中には、〝自分たちと暮らしても飢えて死ぬだけ、そうなるくらいならどこかに連れていかれたほうが豊かに暮らせるかも〟……なんて期待もあったかもしれないがな。」


自分たちと貧しく暮らすよりは他国に流されて裕福に暮らせる可能性に賭ける……ということだろう。それでもアシュレイには納得できなかった。


「子どもを育てられるあてもないのに、どうして産んだりするんでしょう……売る気もないのに。何のために……」

「まあここらには娯楽もないからな。子供を作るほかにすることもないんだろうよ」


「もっと他に言い方ってもんがあるでしょう……ミサキは、実際に彼らがソヘイルを見捨てるところを見ていたんですか?前にもはっきり断言していましたが」


アシュレイはようやく出されたウーロン茶を飲み、一息つく。


「ああ。一時期、複数の国の色々な場所を見て認識処理する訓練をしていた時期にな。集中すれば15か所くらいなら同時に見ることが出来るぞ」

「聖徳太子じゃないんですから……」


聖徳太子もそんなことしないが。


「まあ見捨てたのは母親の方で、父親は何も知らないようだが」

「……そうなんですか。じゃあお父さんはソヘイルを本当に……」


それならいい、と思ってからアシュレイは「何がいいんだろう」と自分で思い返した。母親がソヘイルがさらわれるのを見逃したせいでソヘイルは20年も暗い洞窟の奥、牢屋の中に閉じ込められて過ごしたというのに。それを知って怒っていいのもソヘイルだけだと思うが、知らないほうが幸せなこともある。


ソヘイルは事実を知らなければ、「自分が両親に愛されて生まれてきたのだ」と思っていることが出来る。そのほうが幸せなのに違いない。今更自分が母親に見捨てられたと知って何になるというのか。


「ソヘイルには言うのか?」

「言いません。あなたを疑ってはいませんが、知らないほうが良いこともある。私がその立場なら真実を知りたいと思いますが、誰しもがそうとは思いません。それにソヘイルはマイリと一緒に私たちの国に帰るんです。もうこの国に戻ることもないでしょう。20年も前のことですし、まあ他人事ですから、意地悪する理由はありませんよね」


というのが結論であった。ミサキはふーんとつまらなそうに聞いていたが、アシュレイの前にさっき言っていたクッキーの皿を滑らせる。アシュレイはそれを見て、話も区切りがついたので無言でクッキーを一枚とって食べた。もぐもぐとクッキーを食べているアシュレイをじっと見つめながら、ミサキは頬杖をつく。


「お前は私を本当に、まったく疑わないんだな。」

「あなたは友達ですから」


ミサキは少し驚いた顔をして、今度はすごく「呆れた」というような顔をした。アシュレイは呑気な顔で二枚目のクッキーを手に取る。


「……馬鹿だな、前に求婚しただろう」

「数百年後の話でしょう?もう忘れましたんで、300年くらいして私が生きてたらまた言ってくださいよ。その時に検討しますから」


どうやら「何百年もしてアルドヘルムが死んでも自分が生きていることがあれば、いずれ」という意味らしい。アルドヘルムに決めたからもう、今は一直線らしい。ミサキはまたつまらなそうな顔をした。実際、まだミサキ自身もアシュレイに恋愛感情を持っていないが、ここまで相手にされないのも複雑な気持ちだ。


「アルドヘルムより私のほうが美丈夫(びじょうぶ)だろう」

「そうですか?顔面のレベルから行けば大差ないですよ」


「そんなことはないだろう」

「このクッキーおいしいですね、チョコですか?」


「夕食前なのにそんなに食べていいのか?」

「夕食時の公爵令嬢様は日中暑い中を歩きまわったため、食欲があまりないんですよ」


「そうか。だがお前の部屋のドアがノックされたぞ?早く戻って鍵を開けないと怪しまれるんじゃないか」

「そういうことは早く言ってくださいよ!」


慌てて自室に転がり込んだアシュレイは、慌ててドアを開けて、夕食の知らせに来たアルドヘルムについて広間に向かったのであった。


知らないほうが良いこともあるという話。

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