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お嬢様は神様です!  作者: 明日葉充
獣人宗教国家ミラゾワ編
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ソヘイルくんの親探し①


ミラゾワに到着した翌日、エドウィンは王宮でミラゾワのことについての説明を受けつつ話し合いを始めることになった。どこへ行っても話し合いが落ち着くまではエドウィンはとりあえず缶詰状態なのである。王子と言うのも面倒な立場だな、とアシュレイは思う。とはいえ遠征期間は三か月。航海の期間が往復で一か月と少しだとして、この国に少なくとも1か月以上は滞在することになるので、後半にもなればエドウィンとも出かけたり話したりできるだろう。


そして、アシュレイたちは当初の一番の目的通りにソヘイルの両親を探しに行くことになった。一応、他国からの客人として来ているアシュレイたちが勝手に歩きまわるのも悪いかと思って、アシュレイは朝ムスタファに国内を回っていいか質問した。とはいっても、別にアシュレイが個人的にムスタファの元を(たず)ねたわけではない。


アシュレイが朝6時に目が覚めたので、着替えてそのまま一人で廊下を歩いて窓の外を見ていたら、ムスタファが歩いてきたのである。なぜそんな時間に廊下を歩いていたのか不思議だが、老人は早く起きてしまうと聞くし、そういうものなのかもしれない。ちなみに昨夜は、歴史の授業の後に“奴隷の話をして胸糞が悪くなった”という理由で夜中の三時まで気分転換にミサキと古き良きテレビゲームをしていた。ので、アシュレイは三時間くらいしか寝ていない。


「こんな時間に散歩か?」


「おはようございますムスタファ陛下。あ、そうだ……今日、ぜひ国内を見て回らせていただきたいんです。異文化交流と言いますか、私は外国に来るのは初めてでして、大変興味があるんです」

「構わん。行ってくるが良い。自由に我が国を見て回ることを許す。あの暴力男はさておき、珍しい同類としてお前には興味があるからな。なんならこの国に残って暮らしても構わんぞ」


「はは、ありがとうございます。」


いかに親切にされようと、昨日ミサキにこの国について聞いているアシュレイのムスタファへの好感度は0のままである。王子に迷惑がかかるといけないので表に出す気は無いが、心は一切許していない。


「ムスタファ陛下は普段、ずっと王宮にいらっしゃるんですか?」

「まあ、そうだな。祭典などの際には外にも出るが、基本的には私はこの王宮から出ない。結界を張っていると言っただろう?結界には呪いを国内に抑える効力もある」


「呪いですか?」


昨日呪いのこともミサキに聞いたが、とりあえずとぼけておく。


「私が母神を殺したと昨日言っただろう。神を殺すという行為には、そもそもかなりのリスクが伴うものなのだ。その中でも私の母は元は狐、珍しい実体を持つ神であった。母の首を断った直後、まだしばらくは生きており首から上だけの状態で死に際、この国と私に呪いをかけた。」

「どんな呪いですか?」


「……素直に怖気ずに聞いてくるな、お前は。気に入った。教えてやるからちょっとこちらに来い」

「あ、はい」


長い話だったら嫌だなあと失礼なことを思いながら、アシュレイはムスタファの後について行く。確かに真面目な話をするのなら人に見つかるとアシュレイには不都合なのだ。なぜなら、アシュレイとムスタファはお互い別々の言語で話していながら会話が成り立っている。アシュレイはミラゾワ語が分からないし、ムスタファはアズライト語が分からないのだから、それはおかしなことに他ならないのだ。


思えばアシュレイはミハエレとも、ゾルヒムとも、海の神とも初対面から言語の壁無くして対話することが出来た。この力は、半神や神の神性から来ているのかもしれない。便利は便利だが、人にはバレるわけにいかない能力だ。


「そこの椅子に座れ」

「はい」


玉座の間の横の談話室のようなところに辿り着いたアシュレイは、ムスタファに促されるままに椅子に座った。ムスタファは立って窓の外を眺めながら話を再開する。


「呪いと言うのはな、街を見ればわかるが生まれる人間がすべて獣の体と混ざって生まれてくることだ。それと、神殿に封じてある母神の遺骸(いがい)に引き寄せられて、邪悪な獣の雑魚霊が寄ってくる。結界が無ければ人々は邪悪な獣の魂に食い荒らされ、死に絶える。封印が解ければ女狐は今度こそこの国を食い尽くし、滅ぼすだろう。」

「殺したんじゃないんですか?」


アシュレイが聞くと、ムスタファがアシュレイのほうを見た。


「普通の神なら実体がないから殺せば終わりだが、私の母は肉体を持つ狐が信仰を得てそのまま神になった特異な例だ。今も肉体には(けが)れが残り、怨念だけがそこにある。私がここに居るのはそれを見張り、収めるためだ」

「……狐を殺してから400年以上、ほとんどずっとこの王宮から出ずに暮らしているんですか?」


ムスタファは悪い国の無能な王。昨日のミサキの話を聞いてそう思っていたし、今も思っていないと言えば嘘になる。だが、ムスタファは何百年もずっと呪いを抑えるために自由に外出も出来ず、死ねないから王をやめることも出来ずに生きている。


「そうだ。私には跡取りが居ないからな。かといって跡取りを作っても隠居は出来まい。半神だからこそ私はこの国を治める能力があり、血が薄まれば同じ力がある保証などない。そうなれば国は滅ぶだけだ。」

「これからもずっとそうするんですか?永遠に?」


「なに、私だけではないだろう。あの男、あれだけの力があるのなら私より更に長く生きているだろうしな。何かの神なのだろう?“自分の代わりが居なければ人間が大勢死ぬ”という点では、我々は同じ存在だ。お前もそのうち自分の親の神を殺すことになるだろうしな」

「いえ、私は……向こうから来なければ、殺す気はありませんよ」


そう答えながらも、アシュレイはミサキのことを考えた。


“自分の代わりが居なければ人間が大勢死ぬ”


これは、ミサキが一番背負っている重圧なんじゃないだろうか?ムスタファが背負っているのは“ミラゾワの国民の命”だが、太陽を管理しているミサキはある種“全人類の命”を管理しているわけだ。それも、5千年もの間ずっと誰にも頼らず一人であの天界に暮らして、感謝もされず。正しく働いている自分と、一つの国すらまともに統治できていない愚かな王。確かにミサキがムスタファを嫌悪してしまうのは、仕方のないことなのかもしれなかった。


常々ミサキが何を目的として自分に色々教えてくれるんだろうかとアシュレイは思っていたが、もしかしたらそれは、「一人で居るのが寂しくなった」とか、「太陽の管理人を引退するために跡取りがほしくなった」とか、ごくごく単純な理由なのかもしれない。むしろ5千年もの間一人で黙々と働いていたのだから、褒められてしかるべきだ。ムスタファはまさか、ミサキが太陽神であるなんて思いもよらないだろうが、なんとなく言わないでおく。


アシュレイはその後、ムスタファに挨拶して部屋に戻った。戻るとアシュレイの部屋の前に、ドアに寄りかかってミサキが立っていたので驚いた。ミサキは見たことが無いほどに無表情で、アシュレイは少し肩をビクッと震わせる。


「あまり一人で出歩くな」

「あ、ああ。すみません、なんか目が醒めちゃって」


「歩きまわるのなら私か……アルドヘルムを連れて行け」

「アルドヘルムですか?なんで……」


「……」


ミサキはドアの前から退くと、そのまま自分の部屋に行ってしまった。ミサキの雰囲気が異常だったので、アシュレイは何を聞き返す気にもなれなかった。


何か引っかかるものがある気がするのだが、アシュレイにはそれが何なのか、なぜだか思い出せない。他のみんなと同じように自分でも気づかないうちに、ミサキに都合の悪い記憶を消されていたりもするのかな、なんてアシュレイは思った。それでもミサキに何か言う気にはなれないのが不思議である。


「ねえ、ねえアシュレイってば!」

「……あ?!え?!ああ、何マイリ」


「なんか眠そうだけど大丈夫?」

「滞在期間はまだまだあるし、俺の親探しは今日じゃなくても大丈夫だぞ。長い船旅で疲れたんじゃないのか?」


昼、マイリとムスタファ、アルドヘルムとミサキとアシュレイの5人で街を歩いていたが、アシュレイはぼんやりしていたらしい。我に返ったアシュレイは、慌てて二人に笑顔を向ける。


「すみませんぼんやりしてて。なんだか気温が高くて湿気ているので頭がモヤモヤして。」

「ああ、それはなんかわかる気がするな。昨日と違ってこんなに青空で晴れてるのに、空気がジメジメしてるっていうか、ヘンな感じ。」


「アシュレイ様、どこかで涼んでいきますか?」

「大丈夫ですアルドヘルム。ありがとう、あなたは暑くありませんか?」


「私は普段から鎧でしたから、軽装でむしろ涼しいくらいです。湿気はすごいですが……」

「ミラゾワは山に囲まれていて海も近く、天気が変わりやすいのでそのせいでしょうね。」


「アルフレッド先生はアシュレイの学校の先生なんですよね?こんな遠い国の言葉もペラペラですごいなあ」

「ハハ、元から人に何かを教えることが好きだったので」


マイリたちの前でも先生キャラなんかい!とアシュレイは突っ込みたかったが、アシュレイはアルドヘルムといちゃつかなければならないのでそんな暇はない。というか、ソヘイルの親探し、気が重すぎるなとアシュレイは思う。事情を完全に把握しているミサキが同行していることが唯一の救いだが、心の中で「見つからなければいいのに」と思ってしまう自分が嫌いだ。


アシュレイは掴めそうなほど立体的にそびえ立つ入道雲と青空を見上げ、風景に不釣り合いな空だと、眩暈(めまい)がした。


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