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お嬢様は神様です!  作者: 明日葉充
獣人宗教国家ミラゾワ編
106/135

時には歴史の話をしようか①


さて、色々な人々の記憶が色々とうやむやになったりもしたが。


その日の晩は、ミラゾワ国王と数人の官僚、それとアズライト帝国からの賓客である第三王子エドウィン、その側近である公爵家のホリー26歳独身男、公爵家のアシュレイ、侯爵家のアルドヘルム、伯爵家のアルフレッド先生の5人の合わせて10人がともに食事をとった。


王侯貴族のための宴だけあって皿やら燭台が豪華な造りだったし品数はとても多かったが、料理はタイのようなインドのような何とも言い難いものが多く、ボソボソなナンのようなものに、カレーのような見た目だが豆を煮たもので味は甘いものなど、アシュレイにとっては食べたことのないものばかりだった。きっと質問すればちゃんとした料理名があるんだろうが。


風景は中国寄り、料理類はインド寄り、人の名前や物の名称はアラブ寄りな感じがする。ムスタファ、もアラブっぽいし。文字は漢字ともアラビア語とも言えない全く別のものだが、読みだけは元の発音のままというものは、なんだか不思議に思える。本を読んで世界が滅ぶ前の各国の文化を浅く広く知っているアシュレイは、本当に色々な文化が混ざり合って国が出来ているんだなあと感心する。


色々な人種の人間が近くに放り込まれ、言葉も通じないので、互いにどうにかして意思疎通を図ろうとする。文字も、相手の読みやすいように、伝わりやすいように、自分にわかりやすいように、変わっていった。言葉も相手と混ざっていって、きっとそれらは人間同士の気遣いが生んだ文化なのではないだろうか。


果物もアズライトのものとは違ったものばかりで、気候の違いかな、なんてアシュレイは思う。アズライトは冬がとても長く空気は乾いていて、ミラゾワは四季が比較的分かれており、湿気が多い。アズライトではリンゴやナシのようなものが多いが、ミラゾワでは今夏なのでスイカのようなものや桃のようなものもあった。


料理は豪華なんだろうが、正直食べ慣れた自国のもののほうが美味しいと感じる。が、しかし。果物はミラゾワのほうが美味しいかもしれない……なんてアシュレイは思った。桃が好きなのである。


食事中、ふとアシュレイと目が合ったムスタファがにっこりと笑ったのを不思議に思った。さっきミサキといがみ合っていたことは、特に気にしていないのだろうかと。気にしていないようである。流石に年寄りの王様だけあって心が広い感じがする。


そうして、深夜。


「さて、ミサキ先生の深夜授業、本日はミラゾワという国家について学ぼう!のコーナーです。渡した資料の2ページ目を開いてくださいね、エインズワースさん!」

「はーい先生!」


皆が寝静まった後、自室の鍵を閉めたアシュレイはミサキの家でミーティングのようなことを始めた。いや、ミサキがムスタファと3人での会談の後に「今晩ミーティングするからな」みたいなことを言っていたから待機していただけなのだが。


アシュレイは渡された手書きの資料を見て、「日本語かよ?!」と驚いていたが、だいたい読めるので良しとする。字がフォントのように綺麗だが、シャーペンで書いたらしく少し手で擦れたような跡があった。というか、説明するためにわざわざ資料を作成してくるなんて真面目か。やっぱ先生に向いてるなこの人、とアシュレイは思った。


「実はこの国は昔アジアがあった地帯……ではない!一見して分かる通りアジア感がすごいが、別に場所はアジアじゃない。オーストラリアあたりだな」

「全然違うじゃないですか!!こんな完全アジアテイストになっちゃって、オーストラリア人は居なかったんですか?!」


アシュレイが世界地図と現地図を見比べて驚く。ミラゾワ王国は「アズライト帝国から西」と、それくらいしか認識していなかったのである。温暖で湿気の多い気候だし、風景はアジアそのものだし、人間も白人ではなく黄色人種に近かったからオーストラリアという発想は全くなかった。インドとかかな?とアシュレイは思っていた。


「神は助けた人間を適当に地上に返した。ちゃんと元の場所に戻した神もいたが、大抵は本当に適当だな。中国人をロシアあたりに置いたりアメリカ人をオランダあたりに置いてみたり。それにまあ厳密にはオーストラリア〝周辺〟というだけで、地形も完全に変わっていて大陸になってるしほぼ無関係だ。家族丸ごと助けられても全員バラバラの場所に配置されたケースもあるしな」

「生き別れとか一番嫌じゃないですか、なんて無責任な……」


地形がめちゃくちゃになっているとはいえ、あまりにも適当すぎる。絶滅するはずだった人類を保護して生き残るようにしただけ優しいとも言えるが、神とはどうしてこうも昔から、好き勝手なのか。言葉が通じなくて争いだして大変なことになったらどうするんだ。いや、言葉が通じても戦争で滅んだから同じか。


「地球は更地になった後、植物の神々が土地ごとに一気に森を作ったり川を作ったりしたんだ。どこもはじまりは森と川と海。言葉が通じないという以外はどこに落とされても条件は同じだ」

「……ま、まあ確かに地形も違いますもんね……自分の故郷の場所にいてもコンパスがきゃわかりはしないでしょうし。あっでも星とか見れば分かるんじゃないですか?星読みは今も居るじゃないですか」


「前にも言ったが今の地球は昔と違う。星が見える位置も、自転周期も。私のように太陽の神、とか各星座に作られた神たちが無理にそれを捻じ曲げて一年を365日に保って、以前のままにしているんだ。今昔の知識で星を読んでも全く別のおかしなことになるだろうよ。」

「あなたは人間としても生活してるのに、そんなことまでしてて大変ですね。ありがとうございます、ノーベル賞ものって感じです」


「ノーベル賞ごときで済むか。何千年やってやってると思ってる」


ミサキが呆れた顔で言う。


「でも、戦争で更地になったのに人間を住まわせる前に森とかを作り終えたんですね。なんだか、魚を買うときに事前に水槽を整備しておくみたいな」

「まあそれに近いものはあるな」


「どのくらいかかったんですか?世界が滅んでから人間を住まわせるまでに。木って生やそうとして一気にズオォーッ!って生えてくるもんなんですか?神だから出来るか」

「1週間くらい……まあ、つまり7日だ。」


「えっ!それ、完全に……」

「聖書のようだな、笑えてくる。気に入った人間だけ避難させて他は皆死ぬ、というのも完全に〝ノアの箱船〟だしな。まあ、戦争は人間が勝手にやったことだが。だから今も〝聖書のようなもの〟には世界は7日で作られただのと同じようなことが書かれているんだ」


「もしかして、滅ぶ前の地球もそうやってはじまってたりして……あ、でもクロマニヨン人とか、ネアンデルタール人とか、原始人は今の人間と違うから」

「わからんぞ?いくら過去を解析して調べたって、こんなファンタジーな世界〝本当に何が起こったか〟なんて調べようがない。私も生まれる前のことは知らないしな」


「世界がスタート地点まで整備されてる間、保護されてる人間はやっぱり各神の固有世界にいたんでしょうか」

「いや、まあ植物の神のところは食い物もあるだろうし良いが、ほとんどは時の神の元で時間を止められて7日後に放流されたな。」


「餓死しちゃいますもんね。なんか、冷凍カプセルで生き残るアレみたいですね」

「アレみたいだな」


そういう映画あるよね、冷凍カプセルで人間を何百年も眠らせて目覚めさせるみたいな。そう考えると、時間を止められるのはかなり便利な能力なんじゃないだろうか。先ほどのミサキの能力は「洗脳して記憶をうやむやにしている」だけで、時間を操作しているわけではないからだ。


「うーむ。話が脱線してすみませんでした。ミラゾワのことについてでしたっけ?」

「そうだな。なんの話をしはじめていたか……ああ、ともかくミラゾワはアジアの文化中心に発展していった、オーストラリアあたりの国ということについて話したな。次は、この国の歴史についてだ」


「なんでも知ってるんですねえ」


そうして、ミサキによる詳しいミラゾワという国の説明がはじまった。



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