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2:淫魔、奉仕す その1

予定変更! ちょっとっづつでも毎日更新!

ようやく魔王の学園生活スタートです。

2 淫魔、奉仕す


    1


 翌朝、アンザークは寮長から渡された制服とかいう衣服を身につけた。最後のネクタイとかいうヒモを首に回すのに手まどっていると、見かねた寮長がごつい手でグイッとヒモをグイッと締め付けた。


「貴様、やはりオレを魔王と知って殺す気か!?」

「ネクタイはきついくらいがいいのです。魔王ならネクタイくらいで死にません。あやつは……あやつめはぁっ!」


 寮長はいきなり顔色を変えてアンザークの首をギリギリと絞め始める。


「わかったわかった!」


 もがき出たアンザークは苦しそうに襟を直すと、寮長と一緒に食堂に降りた。

 すでに数人の寮生がテーブルに就いて、アンザークにチラチラと興味津々な目で見ている。


「朝食を食べたら学校へ!」


 寮長が運んできたのは湯気の立つスープとパン、山盛りのマッシュポテト。


「またマッシュポテトかよ」


 数人の寮生がブツブツ言う中、アンザークはフォークですくったマッシュポテトをかき込むように食べていた。


「旨いぞ! こんな料理は食ったことがない!!」

「そうですか」


 寮長はいかつい顔でうなずくが、口元が嬉しそうにほころんでいる。


「どこで育ったのかな……」


 隣りに座った金髪の寮生が呆れた顔をする。彼に向かって、アンザークはフォークを突き出す。


「いらんのか?」


 自分が食われると思ったのか、寮生はマッシュポテトの皿を押しやった。


「あ、あげようか?」

「見上げた心がけだな」


 それもぺろりと平らげ、満足そうにアンザークは席を立った。


「よし、行くぞ! いざ、リア充にならん!」


 猛然とダッシュしていくアンザークを、残された寮生たちは呆気にとられて見ていた。


「なんだか、おもしろい人が来たね、グラッド」


 金髪の少年が向かいに座った茶髪の少年に声をかけた。ふたりともアンザークよりは少し年上に見える。


「まあ、おまえが好きそうなヤツだな、フランツ」


 グラッドは一回り体が大きいし、がっしりした体格だ。


「自分だって同じように思ってるくせに」

「まあな。あの勢いと世間知らずっぽいところだと、面倒なことになるんだろうな」

「どうするの?」

「おもしろいヤツなら手助けして味方に入れる」

「ダメだったら?」

「放っておいても逃げてくだろ」


 グラッドはニヤリと笑って言い放った。


    ◇


 登校時、これほど気が重いのはジークリットにとって初めてだった。もちろん昨夜のことだ。

 いきなり女子寮の個室に現れたアンザークに、誰にも見せたことのない裸を見られてしまった。思い出しても顔面真っ赤だ。

 どんな顔してあったらいいんだろ。ホントにアンザークを学校に呼んだのは正しかったんだろうか。あれほど常識が欠如した子を入学させて、責任問題になったりしないだろうか。もし、そうなると王都に呼び戻されてしまう。形式張って居心地の悪い王都での生活がイヤで、自分で責任を取りますと啖呵を切って飛び出したのだ。それ見たことかと、父親が勝ち誇った顔をするのは目に見えている。

 頭の中がグルグルする。


「はあっ……」


 深い深いため息をついたその時、


「ジークリット!」


 心構えができてないうちに問題の元凶から声をかけられて、ジークリットはビクンと肩を震わせた。


「……アンザーク」


 振り返って目に入ったアンザークは朝から元気いっぱいだ。


「どうしたのだ? 顔色がオーク並みだぞ」

「違います!」


 ジークリットは反射的に声を上げた。


「わたしの気持ちも知らないで……」


 ムッとしてつぶやいたジークリットはポンと背中を叩かれた。


「顔色がよくなったぞ」


 アンザークはそう言うと、校舎に向かって足早に歩いていった。学校に行くのが楽しみで仕方ないという感じだ。


「……わたしだけ気にしてバカみたいじゃない」


 その背中を見送ったジークリットはため息をつく。


「わたしの体ってそんなに価値ないのかな」


 自信なさそうにつぶやき、胸を見下ろす。


「そりゃ、胸はアーニャより小さいし、背が高くてフランソワみたいに可愛くないけどさ……」

「ジークの体がなんだって?」


 いきなりアーニャの声が背後から聞こえた。


「なっ、なんでもない!」


 慌てて口をつぐむ。この娘はホントにネコのようだ。


「ホントかな~? アンザークくんが気になるんじゃないのっかな~」

「どうしてアンザークが出てくるの?」

「運命の王子様かもよ?」

「そんなわけないじゃない」

「みすぼらしい身なりの青年がお忍びで外出してた王子様だった! とかさ。読み物の定番じゃない」

「まさか。だいたい、殿下の顔くらい知ってるし」

「あ、そっか。じゃあ、隣の国?」

「ザングラン帝国とかトーランス共和国の? そんなバカバカしい小説みたいな話、今時ないわよ」


 苦笑しながら肩をすくめる。


「さすがに無理か~。だよね~」


 アーニャもあははと笑い出した。


「それより、そろそろチャイムよ。遅刻は厳罰だからね」

「それは勘弁して、生徒会長様!」


 拝むような仕草をして、アーニャは身を翻して駆けていく。ジークリットは周囲を見回して、のろのろ歩いている生徒に声をかける。


「もうすぐチャイムです! 急いで!」


 生徒会長として理想的に見えるように凛とした声。指摘された生徒たちは慌てて駆け出す。

 と、チャイムが甲高い音を響かせる。

 ジークリットはもう一度周囲を確認してから自分も校舎に向かって急いだ。

 ふと、アンザークが問題なく教室に行ってるだろうかと心配になった。


    ◇

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