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エピローグ

エピローグ


 騒々しい記念式典から三日が過ぎた。

 門での騒動は酒に酔った兵士同士のケンカが大きくなっただけという説明で、休戦協定がどうこうという問題には発展しなかった。もちろん、裏では色々な交渉があったのだろうが、表に出ることはない。

 代わりにと言っていいのか、学園には変化があった。


「今日から本学園の教師として新しく赴任されたおふたりだ。くれぐれも粗相のないように」


 担任教師がかしこまって言うと、ふたりの教師が入ってきた。


「クラリスだ。魔法学を教える」

「剣術を教えるグレンフォードだ」


 王女と勇者が自己紹介すると、教室は歓声に包まれた。

 ひとりだけ仏頂面でふたりをにらみつけたのはアンザークだ。


「おまえら、どういうつもりだ!?」

「こらっ! 恐れ多い……」


 担任教師が慌ててアンザークを押しとどめようとする。


「いいのだ」


 クラリスが教師を制止する。


「この学園がとても気に入った。生徒も興味深い」

「まあ、よろしくな」


 クラリスとグレンフォードが。


「オレ様の野望を邪魔しようというのか?」

「あのな、ここでそういうことを言うのか?」


 グレンフォードがそう応じると、アンザークは不機嫌に聞き返そうとした。が、問いを発するより早く、グラッドたちが周りを取り囲んだ。


「スゲぇな、アンザーク!」

「勇者と知り合いなの?」

「王女様に紹介して!」


 貴族の子弟たちも悔しさをかみ殺すしかない。マーカスたち田舎貴族の子弟には王族とのコネなどあるわけもない。

 が、せっかくのアピールの機会に、アンザークは素っ気ない。


「勝手に話してこい」


 ジークリットの背中をじっと見る。

 クラリスはジークリットの記憶を消したと言っていたが、そのせいで決めかねていたことがひとつあった。

 放課後になってアンザークは意を決したように席を立ち、ジークリットの前に向かった。


「ジークリット、ちょっといいか?」

「う、うん?」


 どこか緊張したようにジークリットはうなずいた。


    ◇


 瓦礫置き場と化した中央の公園に、アンザークはひとりでたたずんでいた。

 ジークリットと待ち合わせ場所だ。

 少し前まで老婦人がいたが、待ち合わせをしていると聞くと、『若い者の邪魔をしてはいかんねぇ』とか言いながら帰っていった。


(なんだったのだ、あれは? 意味がわからん)と、アンザークが首をひねる。


「アンザーク、お待たせ!」


 ジークリットが手を振って駆けてきた。


「先生に用事を言いつけられちゃって。ごめんね」


 息せき切って言うと、ジークリットは拝むように手を合わせた。


「で? なんか用事? あ! クレープが食べたいとか?」


 どこか興奮したように早口になるジークリット。


「そうではない」


 アンザークはそう言うと、隣に座れと示す。


「約束したから、説明してやる」

「約束って?」


 ジークリットはきょとんとした顔でアンザークを見た。


「いいから聞け。おまえが覚えていなくても、オレはおまえに言うと約束していたことがあるのだ」

「え? なに?」


 ジークリットの頬がなにかを期待したようにほんのりと赤く染まる。


「オレは実は――」

「ちょ、ちょっと待って! わたしは生徒会長だし、アンザークも大人じゃないし、まだそういう関係は早いと思うの!!」

「オレは魔王だ」

「だから、そういう関係は――え? 魔王?」

「そうだ。オレは魔王なのだ」


 ジークリットはムッとして頬を膨らませ、爆発したような声を浴びせる。


「バカーッ! こんな時に冗談なんて、最低!」

「こんな時ってなんだ?」

「こんな時はこんな時よ! もうちょっと雰囲気とか考えたっていいじゃない!!」

「わけがわからん! なにを期待していたのだ?」


 アンザークが問い返すと、ジークリットは急に口ごもってしまった。


「それは、その……、えっと……。なんでもない! 忘れて!」


 ジークリットはアンザークに背を向けて、空に向かってささやいた。


「魔王はともかくとして! わたしはアンザークが何者だって気にしないから」


 そう言うと、ジークリットはこつりとアンザークの肩に頭を当ててきた。


「な、なんだ?」


 妙なことをするなと思ったが、跳ねのけられない。それどころか、伝わってくる体温が心地いい。


(なんだ、この姿勢は?)


 アンザークは戸惑いながら、ベンチの背もたれにもたれかかった。


「ええ雰囲気やなぁ」


 不意にエロイーズの声が聞こえたかと思うと、反対側の肩に負けじとエロイーズがすり寄る。背後からはシルヴィアが頭をアンザークの頭に乗せる。

 その体勢でアンザークはつぶやいた。


「わからんっ! リア充とはどうやればなれるのだ!?」


 背後からその様子を見ていたグレンフォードが古の呪いの中で最上位とされる呪文をぼそっとつぶやいた。


「リア充爆発しろ」


    ◇


「自信満々だったせくに失敗しおって」


 闇の中に燠火のような輝きがひとつ、吐き捨てる。

 魔王の補佐官ゲルナーである。


「申し訳ありません」


 震える声で平伏しているのはクルツ。這々の体で魔界に戻り、失敗を謝罪しているのであった。


「無粋なことをしたものですね」


 不意に声が割り込む。


「誰だ!?」


 ゲルナーが誰何の叫びを放つ。ここには結界を張っている。許しを得ていない者が入ってこられるはずはなかった。

 やがて暗がりから歩み出たのは


「おまえは魔王の……」


 ゲルナーは名前を思い出せずに口ごもる。先代魔王からずっと側についていた老人、確か侍従だったかなにかだ。


「あなたにはペナルティーを課しておきましょうか。勝手に動き回られては色々と台無しになりますからね」

「魔王の腰巾着風情がなにを言うか!」

「ええ、腰巾着風情が言うのですよ、黙れ、とね」


 爺はゆっくりとゲルナーに近づき、顔をのぞき込むように見た。

 ゲルナーの表情が徐々に強ばっていく。一気に一〇年ほど年を取ったように顔にシワが走った。


「……貴様はいったい何者だ?」

「ただの陛下おつきの爺ですよ、ええ」


 爺は笑った顔のままゲルナーから離れると、ひとりごとのようにつぶやく。


「先代魔王は脳みそが筋肉でしたから扱いやすかったのですが、人間界を潰してしまっては意味がありませんからね。今の魔王にはもう少し魔王ゴッコを楽しんでいただきましょう」


 爺はにっこりと笑ってゲルナーを振り返った。


「そういうことですから、反乱などはもう少し待っていただきましょうか」


終わり?

お読み頂いた皆様、ありがとうございました!


とりあえず、文庫で言えば一冊分ちょっと少なめで、終わりということに。まあ、まだ全然終わってませんというか、引きまくってますね(^_^;) 続きについては準備中!


感想などありましたらご遠慮なくお書きください。よろしく!

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