4:魔族、襲撃す その12(終わり)
「なんや、ひどい目におうたわ……。魔王はん、助けてぇな~」
エロイーズがフラフラと飛んでくると、アンザークの前に落ちて来た。
「こっちもおまえのせいでひどい状態になったぞ」
「え? なんかしてしもた?」
「おまえがボロボロになって落ちて来たから、魔族が人間のせいだと勘違いして、まだ殴りあってる」
「ああ、ウチって罪作りな女やなぁ。みんな、この体が悪いんや」
そう言って、胸を両手で持ち上げてアンザークに見せる。
「魔王はん、もっとよう見てぇな。ついでに、精力吸わせてくれたら、もっと凄いご奉仕するで?」
が、アンザークはそんなものには興味はないとばかり、まだ意識を失ったままのジークリットを示した。
「エロイーズ、ジークリットをつれて学校に戻れ」
「魔王はんは?」
「オレはケリをつける」
「うわ、怖いわぁ。ほな、お気をつけて~」
「シルヴィア、こいつらを連れていけ」
「私はおそばを離れるつもりはありません」
「邪魔になるから行け。いいな?」
「……わかりました」
エロイーズがジークリットをシルヴィアの背に乗せると、シルヴィアはそのまま歩き去った。
「さて、邪魔者はいなくなったぞ?」
シルヴィアの蹄の音が聞こえなくなると、アンザークはパンパンと手を叩いた。
「お兄様、私と遊ぶ約束、忘れてましたね」
サナラがいつの間にかアンザークの前にたたずんでいた。
「やはり来たな」
「さあ、誰もいなくなったことですし、ふたりっきりでイイコトしましょう、愛しいお兄様」
「今度こそ、たっぷりつきあってや――」
アンザークが言い終えるより早く、サナラが動いていた。
「うぐっ」
アンザークが呻く。
目にも止まらぬ速さでサナラがアンザークの腹に頭突きを見舞っていた。
「あら、お兄様、これくらいで呻くなんて、日頃の鍛錬がなってませんわね。やはり、妹の私自ら鍛えて差し上げないといけないようですわね」
「いらんお節介だ!」
アンザークはサナラの背中に肘を落とした。ドンッと音を発してサナラが地面にめり込む。
「ああ、妹に容赦なく手を上げるなんて、やっぱりお兄様ったらドSの変態さんね」
土ぼこりを巻き上げて立ち上がるサナラ。
「いつまでも遊んでいられると思うな」
アンザークが魔法を使おうと腕を伸ばすと、サナラは甲高い笑いを上げながら高速で回り込み、背後から膝蹴りを食らわした。
「うごっ」
アンザークはつんのめって地面に顔面をめり込ませた。サナラは背中に乗っかってドンドンと飛び跳ねる。お子様の遊びのようにも見えるが、想像以上の衝撃なのは、サナラが着地する度にアンザークの体が地面に埋まっていくのでわかる。
「そろそろいいでしょう!」
勝ち誇った笑いと共に、小柄な男がどこからともなく現れた。
シルクハットをかぶり、まるで道化かと思えるような軽い身のこなしでアンザークの前に跳んでくる。
「……やっと現れたな。ゲルナーの腰についてるサイフめ」
「それを言うなら腰巾着ですよ、魔王様。クルツでございます。名前くらい覚えておいてください」
小馬鹿にしたような仰々しいお辞儀をすると、クルツはサナラに指を突きつけた。
「さあ、ゴーレムよ、魔王様にとどめを刺して差し上げなさい!」
「とどめってなに?」
サナラはアンザークに馬乗りになって頭をつかみ、エビ反りにしながら首を傾げる。
「なんですか? 機能不全ですか。仕方ない。とにかく、動かなくなるまで痛めつけてあげなさい。終わったらスクラップですね、まったく」
クルツが使えないねとため息をつきながら首を振る。
アンザークはサナラにいいようにやられながらニヤリと笑った。
「オレ様がズタボロになれば姿を現すと思ったぞ」
「死にかけの魔王様になにができましょうか」
クスクスと嘲笑を漏らすクルツ。
「いや、オレ様がやるまでもない」
アンザークは組み敷かれたサナラを見上げると神妙な顔で言った。
「ひとつおまえに謝らなければならないことがある」
「あら、お兄様、それはなんですの?」
「オレはおまえの兄ではない!」
「なんです!?」
「おまえの本当の兄はそこにいるヤツだ!」
アンザークはクルツにアゴをしゃくる。
「なにを言っているのです、お兄様? あんな貧相な男がお兄様のワケがありませんわ」
「ウソではない。妹にいけない想いを抱いてしまったヤツは間違った記憶をおまえに植え付け、おまえを縛りつけて喜んでいる変態なのだ!」
「変態……」
「おまえの中にある兄の記憶は俺ではない。そこにいるヤツだ」
「お兄様、そうだったのですね!」
サナラはアンザークから降りると、クルツに向かって一歩踏み出した。
「やめろ、来るな! この変態ゴーレムめ!」
「お兄様ったら、かわいい妹を変態だなんて。許せない目標殲滅」
いきなり口調が機械的に変わったかと思うと、サナラはクルツに向かって飛んだ。
「やめ――!?」
クルツの甲高い悲鳴と同時にゴツンガツンとなにかにぶつかる音の連打。
「最強の戦闘用ゴーレムにたっぷり可愛がってもらうがいい!」
立ち上がってほこりをはたくと、アンザークは高笑いを放った。
数分後――。
「やっぱり、これはお兄様じゃないわ」
ズタボロになったクルツをおもしろくなさそうに見つめたサナラは不満たっぷりな顔で放り投げた。
「お兄様はもっと遊び甲斐があって、どんなことをしても許してくださるのに、これは下品でうるさいだけ」
アンザークはボロ切れと化したクルツの前に歩み出ると、指をボキボキと鳴らして凄んだ。
「ヒッ!」
「さあて、どういうことか説明してもらおうか?」




