1:魔王、入学す その3
ジークリットに誘われて学園に入学することにした魔王(アンザークに改名)だが……
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「アンザーク! こっち!」
自分の名前を呼ばれたんだと気づくには、少しばかり時間が必要だった。
名前を呼ばれるのは生まれて初めてだ。これまでは名前などなくても困らなかった。なんといっても、物心ついた時には魔王だったし、魔王はひとりだけだったのだから。
ただし、アンザークの方が周りの部下の名前を覚える必要があった。軍の指揮官やら、魔法統制官・魔法執行官、懲罰省、拷問官などなどバカバカしいほどの人数がいた。名前を忘れた時に頼りになるのは世話係の爺だった。
「なんだ、ジークリット?」
ジークリットはメガネをかけた髪の白い人間と話をしていた。老人というヤツだろうとアンザークは推測した。爺に似ていなくもない。
「学園長、こちらがアンザークくんです」
「やあ、初めまして」
メガネをかけた老人が手を差し出してきた。魔法攻撃でもしてくるのかと思ったアンザークだが、握手という人間の挨拶なのを思い出した。軽く握り返してやる。
「うむ、初めてだな」
手を痛そうに引っ込めた老人がアンザークに尋ねる。
「入学志望だそうだね。文字は書けるかな?」
「ああ、勉強したぞ」
リア充になるために人間の文献を読む必要があった。だから、まず文字を覚えた。残念ながらそこにはリア充についての説明などなかった。よほど高度な秘密なのだろう。だから、なおさら知る必要があったのだ。
「ここに名前を書いてくれるかな?」
魔王と書こうとしたアンザークだが、それはマズいかと、さっきジークリットがつけてくれた名前を書く。
「ふむふむ。いいでしょう。ご両親は?」
「いないぞ」
「では、誰かキミの面倒を見てくれる人は?」
「爺がいたのだが、今はいないな」
アンザークは少し考えてそう答えた。魔界から出てくる時、爺に見つかりそうになって思わず流星弾をぶちかましたのだ。追ってこなかったが、まあ、大丈夫だろうとは思う。丈夫さだけが爺の取り柄だ。
ズズッと妙な音がするのでジークリットを見ると、目が赤くなり、水が垂れている。
「どうした? 目から水が垂れてるぞ? 病気か?」
「そんなんじゃ、ないから!」
ジークリットは慌てて顔を背けてしまった。
「ジークリットさんはあなたの境遇に同情しているんですよ」
学園長とかいう老人が言う。
「なんだ、それは? オレのことはオレの問題だぞ?」
アンザークは首をひねる。理解不能だが、それが人間というものか。
「まあいいでしょう。暫定的に入学を許可します。問題があれば、その時点で処理するとしましょう」
「ありがとうございます!」
目を腫らしたジークリットが頭を下げた。
「では、まず寮に案内してあげてください」
「わかりました。アンザーク、ついてきて」
「おう」
手招くジークリットに鷹揚に応え、アンザークは歩き出した。
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