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4:魔族、襲撃す その7

    4


 学園の敷地を出てボーダータウンの中心街を南へ直進する。街は夕刻の喧噪に包まれ、大通りを行き来する人の姿が多い。その中を黒馬は猛然と駆けた。


「すぐに門です。どちらに?」


 アンザークはシルヴィアの問いには答えず、周囲の空気の臭いをかぐように鼻をひくつかせた。


「左だ」


 シルヴィアは道を左に曲がった。

 ジークリットはその様子を見て感心した声を上げる。


「アンザークって馬と話が出来るみたい」

「こいつは特別に賢いからな」


 そう言ってアンザークはシルヴィアの首をなでる。シルヴィアは甲高い甘えるような声を出す。


「なんだか……色っぽい声だね」


 困ったようにジークリットは身をよじらせる。


「かわいいもんだろ?」

「……そんな、魔王様、人目があります」


 シルヴィアはあえぐように言う。


「なにか声が聞こえなかった?」


 ジークリットが不審そうな顔をする。

 と、その時、兵士の一団が行く手を横切って早足で通り過ぎた。真っ直ぐに門へと向かっている。


「なんだ、あの兵士は?」

「式典にもいた警護兵だけど、どうしてこんなところにいるんだろ?」


 アンザークの問いに答えると、ジークリットは身を乗り出して声を上げる。


「あなたたち、なにをしているんですか!?」


 反応がない。ジークリットはもう一度声を張り上げた。


「わたしはジークリット・フェルトバーン! この時間は王女殿下の警護任務のはずです! 部隊の責任者はどこですか?」


 ジークリットの詰問にもまったく反応がない。

 アンザークはシルヴィアを兵士たちに併走させた。間近で様子をうかがう。


「魔法をかけられているな。魅了か」

「魅了っていうと、サキュバスとかかな?」


 ジークリットのつぶやきに、アンザークは思わず声に出してしまった。


「まさか、エロイーズが……」

「いくらエロイーズが色っぽくても、それはないよ」


 冗談だと思ったジークリットは笑って受け流した。

 失言に気づいて、アンザークはホッとしながら『そうだな』と相づちを打つ。


「こいつらは門に向かってるな。その向こうは――」

「魔族の街……」


 ボーダータウンは東西に横断する壁で分断され、ひとつの門でのみ行き来ができる。北は人間、南は魔族。いずれ壁はなくなるかもしれないが、まだお互いに腹の探り合いという段階だ。


「こんな時に警護兵が壁を乗り越えたら休戦協定は……」

「また戦か。それは困るな」

「なんとかしなくちゃ!」


 ジークリットが考えている間に警護兵たちは門に達した。門は開いたままだ。基本的に出入りの監視はするが、よほどのことがない限り制止されない。それはどちらの側も同じだ。おかげでアンザークも堂々とここを通ってこられたのだ。本来なら魔王を通してしまうなど大失態だ。

 しかし、この事態は魔王が通るよりも大きな問題だ。


「誰の命令でここに来た?」


 門を守る隊長が警護隊に向かって詰問する。しかし、返答はない。なにかに憑かれたように真っ直ぐに門へ向かって行く。


「止まれ!」


 門を守る部隊は槍を構えた。しかし、警護隊は止まらない。

 どうするか守備隊長が決断を下せずにいるうちに警護隊は門に達していた。


「やむを得ん! 攻撃――」


 攻撃命令を下そうとしたその時、


「なにか落ちてくるよ?」


 ジークリットが空を指さした。


    ◇


「さあ、お行きなさい、よい子の兵士さんたち。あなたたちの王女様がキケンよ」


 遠くから聞こえた爆発音を耳にして楽しそうな声を上げるのは、漆黒の翼を背中に畳み、ほとんどなにも身につけていない少女である。幼女と言ってもよいくらい、胸は見事なくらい真っ平ら。

 魔族からはヴァレンティナと呼ばれていた少女である。


「これで魔王様もきっと目をお覚ましになるわ!」


 守備隊のいる門からさほど離れていない塀の上で、踊り出しそうなほど上機嫌で笑う。

 が、その笑みが曇る。守備隊は持ち場から動こうとしないのである。


「どうして行かないの? あなたたちの王女様が危ないのよ?」


 ヴァレンティナは怪訝そうに守備隊を見る。


「もう来ちゃったじゃないの! グズグズしてるから!」


 大通りを警護兵が隊列を組んでやって来る。それを見てヴァレンティナは癇癪を爆発させた。


「こうなったら、こいつらも魅了して動かして――」


 両の瞳が危険な赤い輝きを宿す。

 と、警護兵の隊列の脇を黒馬が駆けてくるのが見えた。


「あれは!? まさか、魔王様!?」


 ヴァレンティナは乗り手に気づいて嬌声を上げた。瞳の輝きが元の色に戻る。

 が、すぐに不機嫌な声になる。


「ケンタウロスの女と……人間の女? どうして魔王様に人間の女ごときが触れられるの? わらわでさえまだ触れたことがないというのに!」


 一旦は戻った瞳の色がまた赤く染まった。


「あの女の首に牙を打ち込んで、干からびるまで血を吸い尽――」


 その時、空から大きな放物線を描いて飛んで来た黒い影がヴァレンティナに向かって落ちて来た。

 爆発で飛ばされてきたエロイーズだった。

 エロイーズのプリンとしたお尻がヴァレンティナの顔面に激突した。


「くれりゃぁっ!?」


 ヴァレンティナは奇声を上げながら、壁の向こう側――魔族側に飛ばされた。


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