4:魔族、襲撃す その6
◇
アンザークはグレンフォードの後を追おうとしたが、足を止めて南を見た。
「あっちが臭いな」
つぶやいて飛び上がろうとしたところで動きを止める。
「飛ぶわけにもいかんか」
今ここで飛べば正体がバレてしまう。面倒だなと思ったところで、いいアイディアを思いついた。
「シルヴィア! 来い!」
アンザークはケンタウロスの名を呼んだ。
蹄の音が聞こえてくるまで、ほんの数秒。大きな黒馬にしか見えないケンタウロス(呪いつき)が鼻息も荒く駆けつけた。
「ずっと会いにきてくださらないから、厩舎を蹴破るところでしたわ、我が主よ」
「オレも忙しいからな。南へ向かえ」
アンザークは頭を垂れるシルヴィアに跳び乗った。
「魔界にお戻りに?」
「いや、なにかイヤな予感がする。急げ」
「承知しました。でも、首に腕を回すのは、今は……やめてください、我が主よ。たてがみにおつかまりください」
シルヴィアはそう言うと、なぜか顔を赤らめたように見えた。
「よし、行け」
アンザークがたてがみをつかんで合図を送ると、シルヴィアは一声上げて猛然と駆け出した。
と、その前に人影が飛び出してきた。
その後ろには剣を振り上げた兵士が迫る。
人影がジークリットだとわかると、アンザークは腕を伸ばして抱きかかえると、後ろにストンと乗せた。
シルヴィアは兵士を体当たりして駆ける。式典会場から外に向かう間、警護兵が暴れ回っているのが見えた。
「あ、アンザーク!? ありがと」
ジークリットが驚いた声を上げたのは兵士の群れを突っ切ってから。一瞬のことでなにが起こったのか理解できなかったようだ。
「あの兵士はなんだ!?」
「いきなり襲ってきたのよ!」
「いきなり?」
「えっとね、そうだ! さっきの爆発の後!」
「魔法だな。爆発で発動するようにかけたか」
「どこに行くの!?」
「魔力が――」
そう言いかけてアンザークは口をつぐんだ。
「いや、イヤな予感がしてな。とにかく、行くぞ! シルヴィア!」
「きゃっ!」
振り落とされそうになったジークリットはアンザークの腰に腕を回して背中にしがみついた。
◇
「なんですか、これは?」
寮の用事を済ませてようやくパーティに顔を出そうとした寮長があ然と口を開けていた。
警護兵たちが会場にいた生徒たちに斬りかかっている。何人かは斬られて倒れている。
「私が預かる生徒たちになんという無体なことを! 生徒諸君、こちらへ参られよ!!」
寮長は腰に吊した長剣を抜き放った。儀礼用などという代物ではない。ギラギラと刃が輝く物騒な得物だ。
「ジジイ、腰を痛めるぞ!」
冷やかし声の方に視線を向けると、グラッドが引きつった顔で兵士に真鍮の燭台を突きつけている。フランツたち一〇人くらいの生徒を守っている。貴族の子弟もその中にいるようだ。
「なんの、まだまだ大丈夫ですとも!」
軽口に言い返し、寮長はグラッドたちの方へ駆け寄った。兵士の剣を一撃で叩き落とし、拳で黙らせる。
「老いたりとて若造には負けんぞ!」
「口調が戻ってるよ、寮長」
「今は戦場だ! 寮長ではなく、隊長と呼べ!」
フランツは怒鳴りつけられて首をすくめた。
「魔王が攻めてきたのかな?」
寮長改め隊長の肩が震え始めた。
「魔王!? あの、傲岸不遜なヤツめ! 許さぬぞ!!」
「ジジイ、なんかあったのか?」
あまりの剣幕にグラッドは思わず訊く。
「アヤツは斬りかかったワシには一顧だにせず、前線に突っ込んで行きおった!」
「ああ、相手にしてもらえなかったのか……。まあ、そりゃ腹も立つよな」
「今こそ見よ! ワシの恨みの太刀筋を!」
「いや、それ王国の兵士だから斬ったらマズいって」
「さあ、かかってくるがよい!」
グラッドの言葉など耳に入らない寮長は啖呵を切った。




