4:魔族、襲撃す その3
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今日は王立学園ボーダータウン校の開校式典当日である。
本来なら開校時に盛大な式典を開くところだが、街の復興の進み具合や生徒の集まり具合、さらには王族のスケジュールなどがからみ合って、開校と式典がずれてしまったのだった。
アンザークたちは前日から会場の設営に狩り出され、当日はパーティの準備で椅子を運んだりこき使われた。パーティ会場では自由に立食スタイルで食事をすることが出来る。要は餌で釣って生徒を働かせようということだ。
王族として王女が臨席しての式典は滞りなく進んでいた。学園長や一部の教師、それに生徒代表としてジークリットが出席した。
「あれが王女か。その隣は勇者だな」
アンザークは主賓席を見た。
王女クラリスは小柄で清楚、どちらかと言えば地味な感じだった。目立たないことが美徳とでも言うように主賓であるにもかかわらず、まったく華がない。逆にジークリットの方が長身のせいもあって目立っていたほどだ。
さすがにここで貴賓席に突進していくつもりはない。ここで話せば他の人間にも聞かれてしまう可能性がある。それはマズい。
王女が自分を見ているような気がして、アンザークはにらみ返してやろうかと思った。
その時、頭上でパアンッドオンッと爆発音が何度も弾け、体を震わすような重い音がアンザークに叩き付けてきた。
「なぜなにもいないのに空を攻撃しているのだ?」
アンザークは不思議でたまらんと空を見上げる。千切れた雲がポツポツと浮かぶ青空に煙がたなびいている。
「あれは花火よ」とジークリット。
「花火だと?」
「お祝い事があるとああやって打ち上げるの」
「無駄なことをするものだな。あれでは攻撃されてもわからんではないか」
「戦争中はやってなかったから、久しぶりなのよ」
ジークリットが嬉しそうな顔をするのを見ていると、アンザークは妙な気分になってきた。戦闘をしているわけでもないのに心臓が速く動いている。おかしいと思う間もなく、口走っていた。
「初めて会った時、オークかと思ったと言ったな」
「そうよ。失礼なんだから」
「あれは取り消す。シルキーみたいだ」
「シルキーって家を守ってる妖精だっけ?」
「そうだ。見た目に油断してると手強いヤツだ」
「どうして魔族ばっかりに例えるのよ? すっごく微妙なんだけど……褒めてくれてるんだよね?」
「当たり前だ」
「まあ、一応、シルキーって女だし……。ちょっとアンザークの美的感覚が不安なんだけど、お礼言っとくね」
ジークリットは苦笑した。
「で、会場というのはどこだ?」
「校舎の横にある芝生のコートよ」
「飯の準備は?」
「校舎一階の調理室よ」
「招待客はどこで待機しているのだ?」
「校舎二階の貴賓室に――」
「そこに勇者がいるのだな!」
「ちょっと、アンザーク!?」
ジークリットが止める声を振り切って、アンザークは校舎の一角に猛然とダッシュした。
◇
エロイーズが女子寮を出て会場に近づくと、叫び声が耳に飛び込んできた。
「勇者はどこだ!?」
「ありゃ、魔王はん?」
エロイーズはこっそりと物陰から様子をうかがう。
「会わせろ! オレはヤツに会わねばならん」
「そんなの無理よ」
後から追ってきたジークリットが腕をつかんで引き止める。
「ええい、止めるな! オレは行く!」
「いい加減にしなさい、アンザーク!」
ジークリットはアンザークの襟首をつかんでズルズルと引きずっていく。
「ジークも大変やなぁ。引きずってるんが魔王はんやて知ったらどんな顔すんのかな?」
ふたりの様子を見ていたエロイーズはニヤニヤする。
「ホンマに勇者が来てるんか~。最後の決戦のやり直しが見られるんかな~」
ニヤニヤしていたエロイーズだが、ふと真顔になった。
「そういえば、なんで負けたんやろ、魔王はん?」
勇者といえどたかが人間だ。魔王ほどの力があればどんな相手でも勝てるはずだ。
「ま、ええか!」
速攻で考えるのを放棄する。サキュバスはその時の快楽を優先する性癖だけに、面倒なことを考えない。
「ほな、誰か美味しくいただけそうなイケメンを探そっと。美味しそうなクラスメイトがよおけいるのに手ぇ出せへんし、欲求不満やわ」
会場に向けて歩き出したエロイーズを警備の兵士が制止した。
「申し訳ございませんが、こちらは関係者以外立ち入り禁止です」
「そうなん? ごめんな。迷ってしもて」
舌打ちしたエロイーズだが、兵士の顔を見てにっこりする。
「ところで、お兄さん、カッコええなぁ。ウチの好みやわぁ。ちょっとあっちに行かへん?」
エロイーズは兵士の目を真っ直ぐに見上げた。
「……少しなら、いいよな」
とろんとした目になった兵士がつぶやく。
「決断力のある男の人って好きやわぁ」
エロイーズは兵士の手を取って自然な様子で物陰に移動した。
「う……うあっ……」
感極まったような男の呻き声が聞こえた後、エロイーズが生気にあふれた表情でスキップして出てくるには五分ほどの時間がかかった。
◇




