4:魔族、襲撃す その2
明日に迫った祝賀パーティの準備は生徒も教師も総動員で行われた。
「なんで俺らがやらなけりゃいけないんだ?」
グラッドが庭園にイスを運びながら不満をぶつける。
「その分、授業が減るのは助かるけどね」
「よくないぞ!」
フランツのなだめるような言葉に突っ込んだのはアンザークだ。
「せっかくの授業が勇者ごときのために削られるとは!」
「別に勇者様のためじゃないよ? この学校のお祝いなんだから」
ジークリットはそう言うと、付け加える。
「それにクラリス王女様も来られるって」
「王女って美人なのか?」
さっそく食いついてきたグラッドだった。
「聡明で美しい方よ。帝国の王子も求婚してきたって。わたしもお目にかかったことはないんだけど」
「それなら大歓迎だな!」
グラッドが途端に張り切ってイスを担ぎ上げた。
「現金だね、男ってさ~」
人一倍やる気のない声でエロイーズが言うと、グラッドは大慌てで言い訳をし始めた。
「い、いや、やっぱり王室の方々には敬意を払わないとな!」
「ほな、ウチの分まで頑張ってや」
「頑張らせていただきます!」
「あはは、おかし」
エロイーズはイスをまとめて担ぎ上げたグラッドを見て、からからと笑った。
と、そこにやって来たのはサナラである。
「お兄様!」
サナラの声にアンザークは距離を置いて身構える。
「な、なんだっ!?」
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですわ。私とて時と場所という言葉は存じておりますから」
「本当か?」
「ええ。続きは夜中に裸でベッドでしょう?」
「え?」
その場にいた全員が声を上げ、全員の視線がアンザークに集中した。
「ちょっと待て! 裸は時でも場所でもないぞ」
「お兄様がかわいい妹に劣情を催し、鼻息も荒くひとりでいたしているということくらい理解していますわ。本当にお兄様は妹をこんな風に便利に使う変態さんで困りましたわ」
「すまんが、こいつがなにを言っているのかまったく理解出来ないのだが? おまえわかるか、フランツ?」
「……えっと、ボクにも理解出来ません……」
顔を真っ赤にしたフランツが首を振る。
「ジークリット、わかるか?」
「わかりたくありませんっ!」
頬を染めたジークリットがうつむいた。
「だそうだ。誰もわからないことを威張って言うな」
「仕方ありませんわね。この際、いかにお兄様が変態か皆様にわかっていただきましょう。さあ、思う存分、私をお抱きになって!」
サナラが両腕を広げてアンザークに迫って来る。
「おまえはオレを変態にして評判を悪くしたいのか!?」
「ええ。そうすればお兄様は私の元に戻って来てくださいますわ」
「おまえの方が変態ではないか!」
「はい、兄妹ですから仕方がありませんわ。私も覚悟を決めました」
「オレはそんな覚悟など必要ないからな」
「小心者のお兄様。ご覧になりたいのでしょう? ジークリットお姉様のは穴が空くほどご覧になっていたでは――」
クスッと笑うサナラは胸元をチラ見せする。
「サナラちゃん、そんなはしたないことしたらいけません!」
足早にやってきたジークリットがピシリと言うと、強引にサナラを連れていった。
「エロイーズ、あのゴーレムはやはりどこかのネジがひとつかふたつ跳んでるのではないか?」
アンザークは通りがかったエロイーズに小声で耳打ちする。
「そうかもしれんなぁ。どないしましょ?」
「オレに訊くな!」
「けど、この前みたいに戦闘アンドロイドとしての命令はごっちゃにしてへんし、マシなんとちゃう? そのうち、『お兄ちゃん、私を好きにして』なんて迫って来るんとちゃう?」
「おまえ、まさかと思うが、他人事だと思って楽しんでいるのではないだろうな?」
「まさかやで、魔王はん」
あはははは~と豪快に笑い飛ばして、エロイーズは逃げるように駆け去った。
「やはり、早々に始末すべきだったか……」
が、それも今となっては面倒な話だと、ジークリットたちと話すサナラこと戦闘用ゴーレムを見てため息をつくアンザークだった。




