3:、妹、来襲す その7
(ついて来ちゃった……)
ジークリットは自己嫌悪に陥って頭を抱えていた。
しかも、場所が校舎の屋根の上。どうやってここまで来たのか、よく覚えていない。アンザークに担がれて廊下を走ったのは覚えているが、その後は上へ下へと揺さぶられて、目をつむってしまったりしたのでどこをどう進んだのかわからない。気がついたら校舎の屋根にぺたんと座っていた。
「ここなら邪魔は来ないだろう」
満足そうに言うと、アンザークはジークリットに振り向いた。
「さっきの授業は本当か?」
「えっと、魔族の話?」
「そうだ。魔族は卑劣で薄汚くて仲間内でも裏切りが当たり前で休戦も信用できんという話だ」
「うん、まあ、そういうことになってるみたい」
ジークリットは戸惑いながら答える。
「おまえはどう考えているのだ?」
「魔族? 正直、よくわからないのよね。会ったことないし」
「そ、それは……そうだな……」
「でも、公園とか図書館とか壊したのは許せないな」
「それは……連中も後悔しているだろう……」
「もっと早く図書館に行けてたら、勉強もできたかもしれないよね」
「まったくだ!」
ギュッと握りしめられた拳で、アンザークが心底からそう思っているのが感じられた。ホントに本が好きなんだなと、ジークリットは思う。
「でも、どうしてわたしだけ? 他のみんなからも訊けばいいのに」
「あいつらは考えもなしに好き勝手言いそうだったからな」
「わたしは違うって?」
「授業の時、おまえは疑問がありそうな顔をしていた。他の連中は魔族をバカにしていたのが見えていたからな」
そんなところを見ていたのかとジークリットは驚いた。確かに、魔族について疑問があったのは確かだ。
「うん、ちょっとね。魔族だってお父さんお母さんから生まれてくるんでしょ? だったら、親が殺されたら怒るし恨むんじゃないかなって」
「お父さんお母さんか……。オレは知らんな」
つぶやいたアンザークに、ジークリットは思わず口を覆った。
「あ! ごめん。気が利かなくて……」
「気にする必要はない。いなくても問題なかったのだからな」
「小さな頃に育ててくれたのは誰なの?」
「爺だ」
「そっか……」
施設の老人みたいな人がいたんだろうなと、ジークリットは思った。
「その人は?」
「爺か? 元気だぞ。口やかましいのが玉に瑕だがな」
「お元気なのね」
「ふん、殺したって死なないヤツだ。オレがこっちに来る時も仕掛けをしてとどめを刺すようにしたのに、連絡したら平然としていたからな」
「なにイタズラしてるの! ダメじゃない!」
ジークリットは一喝した。
「な、なんだ?」
「わたしも一緒に行くから謝って来なさい」
「それはいかん。向こうに行って、おまえが爺に会うのはマズい」
「どうして?」
「爺が勘違いするではないか」
「なにをどう勘違いするの?」
ジークリットがアンザークに詰め寄った時、ドンッと爆発音が響いた。
「え!? なに!?」
ジークリットは爆発音の方に顔を向けようとした瞬間、いきなりアンザークがのしかかってきた。
「ちょっと、そんなに迫ってこないでって――」
押し倒されたジークリットは真っ赤になってアンザークの背中を叩く。その手が止まった。
サナラが空に浮かんでいた。
「またか!」
アンザークは忌々しそうに吐き捨てた。
「あれ? サナラちゃん!?」
「んなわけあるか!」
ジークリットの問いにアンザークは全力で否定する。
「そうよね、空飛んでるし……」
ジークリットはアンザークの勢いに流されて同意してしまった。
「捕まっていろ!」
アンザークにそう言われて、ジークリットはアンザークの首に腕を回してしがみつく。
「どっどうするの!?」
「舌を噛むなよ!」
アンザークが叫ぶ。
うなずくだけで精一杯のジークリットはアンザークがジャンプした瞬間、視界が真っ暗になって意識を失った。
◇
「ジークリット、大丈夫か?」
ジャンプして校舎から高々と舞い上がった後、アンザークは抱えたジークリットに声をかけた。が、返事はない。
「気を失ったのか? 人間とは弱いものだな。まあ、ちょうどいい。こんなところを見せるわけにはいかないしな」
アンザークは空中で停止したまま、サナラに振り向いた。
「目標捕捉。追撃」
無感情な声と共にサナラが空中で軌道を変えて追ってくる。
「今度こそ息の根止めてやるしかないな」
「お兄様、私以外の女にうつつを抜かすなんて、なんて破廉恥なのですか!」
「真面目な顔をして言うな!」
「第二撃発射準備」
サナラは右腕をアンザークに伸ばした。
「やはり、心中するしかありませんわ。さあ、私と共に耽美な夢の中に参りましょう!」
「ワケのわからんことを強制するな!」
「発射」
腕がパカッとふたつに割れ、中から真っ赤な光線が発射された。
アンザークはジークリットを抱えていた右腕を離し、手のひらで攻撃を受け止めようとした。
「っつ……」
手のひらに当たった光線が弾かれて、近くの建物の屋根に穴を開けた。アンザークは赤くなった手のひらを見て舌を打つ。
「本気のようだな。もう容赦せ――」
ビシッと決めようとしたアンザークのセリフに割り込む緊張感のない声。
「うわぁ、命令と妹設定がごっちゃになっとるな~」
いつの間にやって来たのか、エロイーズが黒い翼を広げて飛んでいた。
「見られて大丈夫なのか?」
「一応、魔王はんのために結界張っといた。えらいやろ?」
「ご苦労。それはそれとして、なんとかならんのか!?」
「う~ん、ゴーレムは水に弱いらしいで?」
「水か……」
アンザークは眼下を見下ろし、不敵に笑った。
「ふん、ちょうどいいものがあるな」
そこにサナラが光線を放ちながら突っ込んできた。
「お兄様、そんなみだらな女など放り出して、私と目標殲滅」
「みだら?」
アンザークがジークリットを見ると、制服のボタンは外れ、裾は焦げ、スカートはめくれ上がっていた。飛び回っていた上に、直撃ではないとはいえ攻撃を受けていたのだから当然だ。
「邪魔だな」
攻撃をかわしながら、千切れてぶら下がっていたジークリットの上着を無雑作に破り捨て、アンザークはサナラに向かった。
「お兄様、ようやく私に振り向いてくださっ――」
「食らえっ!」
アンザークのパンチが歓喜の表情を浮かべたサナラの顔面に炸裂した。真下の寮に向かってサナラは墜落していく。
「どうだっ!? 今度こそ終わりだっ!」
高笑いを放つアンザーク。
その時、足下から鎖が伸びてきてアンザークのくるぶしにからみついた。
「お兄様も一緒に堕ちましょう」
「なにっ!?」
グイッと引っ張られたアンザークはジークリットを抱えたまま、寮に落下していった。
◇




