3:、妹、来襲す その2
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なにやら急いで駆けていったジークリットに鷹揚にうなずき、アンザークは串に刺した焼きカエルの足にかぶりつく。
「どうして、これほど旨いものばかりなのだ? いや、逆か。魔界にはマズい物しかなかったのか。戻ったら、まずは料理人の腕を上げねばならんな。この辺りから数人の料理人を引っさらっていくか。いや、それよりもこのマーケットごと転送した方が面倒がないか。爺に相談だな」
などと魔界の料理事情改革について真剣に考えていると、
「標的発見」
どこからか静かな声がした。
直後、頭上からアンザークの脳天を狙って銀光が走った。
アンザークが横っ飛びにかわした直後、入れ替わるように降り立ったのは小柄な女だった。長剣を振り下ろし、膝立ちになった姿がスッと立ち上がる。
「殺気も感じさせないとは、なかなか訓練されているな」
アンザークは感心した。
見たところアンザークよりも年下の女の子だ。小柄で、ショートカットにした黒髪は活発な印象。
「魔王の命、もらい受ける」
感情のない声で長剣をアンザークに突きつける。
「刺客か? 誰が放った?」
「問答無用」
刺客の女の子は長剣を構えることなくアンザークに飛びかかる。
アンザークはジークリットの姿が見えないのを確認して駆け出した。
「逃がさない」
着地するや刺客はアンザークの方を振り向きざまに長剣を一閃。
アンザークの背中に向けて目に見えないなにかが飛んだ。
殺気を感じたアンザークが振り返って左手を伸ばす。
手のひらになにかが当たってパンッと弾け飛ぶ。アンザークが顔をしかめた。
カマイタチと呼ばれる攻撃だ。目には見えないが、これに触れれば切り裂かれる。人間にはなにが起こっているのか見えないだけに、単にアンザークが通行の邪魔をしているくらいにしか感じていない。しかし――。
「危ないヤツだな」
道路の真ん中を走っていたからよかったものの、店や通行人がいれば巻き添えを食って真っ二つになっていたところだ。料理人が死んでは困る。それ以上にここで騒ぎを起こして魔王であるとバレてしまえば、アンザークにとってリア充になるという大きな目的が果たせない。
「どこのどいつか知らんが、オレがリア充になっては困るヤツがいるのだな。仕方ない。人気のないところに誘い込むか」
アンザークは猛然と駆け出した。
◇
「あん、もう! なにしとるんや、魔……やないアンザークは」
エロイーズは柱の陰に隠れてアンザークとジークリットの様子をうかがっていた。
「もっとくっつかなあかんやんか。ほら! 今や! ああ……あかん」
じれったいなと両手をわなわなと震わせ、ガックリと肩を落とす。
「なにやってんだ?」
グラッドはエロイーズの脇から身を乗り出した。
「こら! バレるやないの。静かにしとき」
エロイーズはグラッドの首根っこを捕まえてグイッと押さえつけた。
「いや、俺はさ、いいんだけどよ、このままでも」
エロイーズの胸に顔を押しつけられたグラッドは首まで真っ赤になった。
「あ……。あんたらを堕としたらあかんかった。あっち行ってか」
我に返ったエロイーズはグラッドを追い払う。
「わっ、そんなもったいない……」
グラッドが頬に当たった胸の感触を名残惜しそうに追うように、真っ赤になった顔でエロイーズに迫ろうとする。
「おっ俺、実は、おまえのことが――」
「なんや、あれ?」
エロイーズはそれどころではないと、グラッドを押しのける。アンザークの上に何者かが降ってきたように見えたのだ。
「女かいな。また面倒な……」
その女が長剣を構えてアンザークに斬りかかる。
「危ないやっちゃなぁ」
魔王に敵うわけはないとのんびり構えていたエロイーズだが、女が攻撃態勢に入ったのを見て顔色を変えた。
「やばっ! 伏せてっ!」
エロイーズは慌ててグラッドとフランツに飛びつき、押し倒した。
その頭上を衝撃波が飛び去っていった。すぐ上に置かれてあった木箱が両断され、中身の野菜がこぼれ落ちてくる。
「大丈夫か?」
エロイーズはふたりを見下ろして、失敗に気づいた。
「エロイーズ、俺、俺、もう我慢できない……」
「ねえ、ボクも体が熱くて……」
ふたりともエロイーズの体臭をかいで発情モードに入っていた。
「ああもうっ!」
エロイーズはからみついてくるふたりからもがき出る。
「ふたりで盛っといてか!」
そう叫ぶと、エロイーズはアンザークと刺客を追って駆け出した。
残されたグラッドとフランツはとろんとした顔をして互いを見つめ合っていた。
◇




