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3:、妹、来襲す その1

3 妹、来襲す


    1


 休日である。

 アンザークはジークリットとふたりきりでボーダータウンを歩いていた。

 こうなったのには理由がある。

 昨日の放課後に窓から外を見ていたアンザークの一言だった。


「そういえば、まだ街を回ってなかったな」と。


 魔界を出て、一直線にボーダータウンの半分を突っ切って公園に向かったので、他の場所はまったく見ていなかったのだった。


「あれ? アンザークって、この街育ちじゃないの?」


 偶然それを聞いていたジークリットは不思議そうな顔をした。


「いや、ええっと、そうだ、隣り街だ」


 苦しまぎれに口走ったが、嘘はついていない。魔界の入り口がある火山までの間に他の街はない。つまり、隣だ。


「それじゃマインツ?」


「まあ、そうだな」


 曖昧にうなずき、アンザークは話を切り上げようと立ち上がった。


「それじゃ明日は休みだし、街に出てみる?」


 ジークリットの提案にアンザークが応じるより早く、アーニャがニヤニヤしながら首を突っ込んできた。


「デートだね!」

「そ、そう言うわけじゃないわ!」

「照れなくてもいいって」

「照れてないの!」

「そーゆーのを照れてるていうや」


 ジークリットの赤くなった頬を指さしてエロイーズが冷やかす。


「じゃあ、みんなで行けばいいよ」


 苦笑しながらフランツが提案する。


「そうそう、初デートみんなで行けば怖くないってね」


 アーニャがそう言い、意味ありげに笑った。

 そんなわけで、揃って街に繰り出したはずなのだが……。


「みんなどこに行ったんだろ?」


 ジークリットは周囲を見回す。さっきまで一緒に歩いていたアーニャ、エロイーズ、グラッド、フランツの姿がない。


「まあ、いいだろ。オレを案内するのに他の連中はいらないからな」

「……それは……そうなんだけど……」


 それじゃデートになっちゃうじゃないとは言えないジークリットだった。


「よし、行くぞ。最初はどこだ?」

「え? ええっと……。どこか行きたいところあるの?」

「そうだな……」


 アンザークは首をひねった後、ひとつうなずいた。


「うん、この街の人間の生活がわかるところがいいぞ」

「それじゃ、マーケットに行ってみる?」

「なるほど。それはいいな。よし、行くぞ!」


 張り切った声を上げ、アンザークは歩き出す。ジークリットは助けを求めて周囲に目を走らせたが誰もいない。仕方なく、アンザークの後を追って小走りになった。


    ◇


 ブラックゲートマーケットはその名のとおり大きな黒い門が入り口になっている。この街の胃袋を一手に引き受ける大きな市場だ。

 魚や肉、野菜、さらには調味料や調理道具など食に関するものなら手に入らないものはない。さらにはここから内陸にある王都へと魚介類を加工して運ぶ役割も担っている。

 それだけではなく、惣菜を扱う店や屋台も点々と並んでいる。そのせいもあって、


「旨そうな匂いがするな」とアンザークがしきりに鼻をクンクンさせ、ふらふらと歩き回る。

「あれはなんだ?」


 屋台で鉄板の上でなにか焼いている。


「クレープね」

「なんだか妙な匂いがするな」


 きっと甘いお菓子なんて食べられなかったんだろうなと、ジークリットは思った。


「食べたい?」

「いや、いい。金がないからな」


 素っ気ない答えだが、未練があるのは視線でわかる。


「あれくらいなら出してあげるわ」

「施しは受けん」


 どことなく意地を張ってるようなニュアンスを感じ、ジークリットは作戦を変えた。


「そっか。わたし、食べたいんだけど、ひとりじゃ格好悪いし、困ったわね」

「食べたいのか?」


 ジークリットを見上げるアンザークの目がキラキラ輝いていた。


「仕方ないな。では、オレも一緒に食べてやってもいいぞ」

「悪いね。つきあわせちゃって」


 ジークリットはペロッと舌を出して屋台に向かった。


「まいど! 嬢ちゃん、デートかい?」


 店の主人が冷やかす。


「そんなんじゃないの!」


 ジークリットはオーソドックスなものをふたつ注文して、先に出来た方をアンザークに差し出した。


「はい、アンザーク」


 受け取ったアンザークは不思議そうにクレープを観察した。小麦粉を水でのばして焼いた皮で、果物とチーズとハチミツを包んであるようだ。ジークリットが一口食べたのを見て、同じようにかぶりついた。


「旨いな、これは!」


 目を輝かせて声をあげるアンザークに、ジークリットも釣られて笑みを浮かべた。


「でしょ? 前に一回だけ誘われて食べたことがあるんだけど、すっごく美味しかったの」


 歩き出したジークリットについていこうとしたアンザークだが、なにか忘れたように屋台の主人に振り向いた。


「店主、旨かったぞ。次はこの辺りを攻撃せんから安心しろ」


 アンザークはそれだけ言うと、ジークリットの後を追った。残された店主のぽかんとした顔は次の客が来るまでそのままになっていた。

 クレープを食べ終えたふたりは市場を歩き続けた。といっても、アンザークが興味を示すのは食べ物ばかりで、必然的につまみ食いになってしまう。

 よっぽど満足にものが食べられなかったんだ。

 ジークリットはそんなことを考えて、ついつい買ってしまう。アンザークがなにを食べても美味しそうな顔をするせいもある。

 なんだか、ペットに餌をあげてるみたい。

 そんなことを考えて、クスッと笑ってしまう。


「楽しいな」

「そうね」


 アンザークの笑顔に反射的に応じてから、ジークリットは驚いていた。

 あれ?

 ジークリットは戸惑った。

 わたし、ちょっと楽しいって思ってる?

 そういえば、普段は生徒会長らしくしようと思って買い食いなどしないし、新鮮なのは確かだった。でも、それだけじゃない高揚した気持ち。

 アンザークのせい?

 ちらっとアンザークを見て、頬がほてるのを感じ、慌てて声を上げる。


「そ、そうだ! ちょっと喉が渇いたから、お茶買ってくるね」


 ジークリットは逃げるように駆け出した。

 これじゃ、まるでホントのデートじゃないの!

 頬を手のひらで隠し、ジークリットは内心で悲鳴を上げていた。

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