2:淫魔、奉仕す その9(終わり)
◇
翌日――。
「おう」
教室に入るなり、アンザークはマーカスたちに手を上げて挨拶した。が、全員だるそうに唸っただけだった。いつものようにケンカを売ってくるような様子もない。
「あいつらはどうしたのだ?」
マーカスたちの萎びた野菜のような姿を見て、アンザークはフランツに尋ねる。
「さあ? なんか疲れ切ってますね」
「俺たちには勝てないって悟ったのさ」と勝ち誇った顔のグラッド。
「グラッドが勝ったわけじゃないよね」
「だから『俺たち』って言ったろ」
言い訳がましく言うグラッド。
「ホンマどないしたんやろなぁ」
鼻歌を歌いながら教室に入ってきたエロイーズ。
「おまえは元気そうだな? 肌がツヤツヤしてるぞ」
「え? いややわ、アンザークはん。そない言うて口説いたらあかんで!」
エロイーズはバンバンとアンザークの背中を叩くと、上機嫌で自分の席に歩いて行った。
「エロイーズ、どうしたんだ? なにかいいことがあったのかな?」
グラッドがエロイーズの方をチラチラ見てつぶやく。
「気になるの?」とフランツ。
「ま、まさか!」
グラッドは声を上げて笑い、視線をエロイーズからそらした。
「怪しいね」
フランツのつぶやきに、アンザークとジークリットが同時に声を上げた。
「なにがだ?」
「え? なにが?」
ふたりのまったくなにも感づいていない様子に、フランツは力ないため息を漏らす。
「いえ、いいです」
と、そこにちょうど教師がやって来た。
「さて、今日は我が国の誇る文学作品『カンタンベリー物語』をやるぞ! 教科書を出して!」
気合いの入った教師の言葉にだるそうな呻きが幾つも上がった。




