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1:魔王、入学す その1

商業で5冊(2シリーズ)出しましたが、はじめて《小説家になろう!》投稿にチャレンジです。

週末にまとめて更新予定で、1ヶ月で完結(1冊分)するつもりです。

明るくて、元気で、ちょっとHなファンタジー。お楽しみください。


訂正→週末の予定を毎日に変更します!

1 魔王、入学す


    1


 夕刻というにはまだ早い頃――。

 ボーダータウンの大通りを少年が歩いていた。

 初めてこの通りを歩くように目を輝かせ、落ち着きなく右を見たり左を見たり。すれ違う通行人とぶつからないかと心配になるほどだが、ひょいひょいと器用にすり抜けていく。

 左手にはくしゃくしゃになった紙切れ。


 ――この秋お薦めの完璧なデートプラン

    これであなたもリア充に!

    副都ロレールの街を完璧案内


 そんな言葉がかろうじて読み取れる。他には細かなリストが列記されている。食べ物からアクセサリーなどの店の名前がびっしりだ。しかし、ずいぶん古そうなのが気に掛かる。

 ふと立ち止まった少年は周囲を見回す。その様子を見て、道ばたの小さな店から主人が声をかけた。


「どうした、ボウズ? 道に迷ったか?」

「オレのことか? ボウズなどではないぞ」


 少年はそう言うと、屋台に歩み寄り、道の先を指さした。


「ロレール中央公園ってあっちか?」

「ああ、そうだよ」

「そうか!」

「おっと! だがな、あそこは――」


 主人は追加説明しようとしたが、すでに少年は声の届かない距離まで駆けていっていた。


「速ぇなぁ……。まあ、いいか」


 副都ローレルがボーダータウンと名を変えて復興が始まって、まだ一年。戦争の爪痕はあちこちに刻まれている。そんなことは説明しなくてもわかっているだろう。実際、この店も壁が崩れ、隣の店は屋根が崩落している。そんなことは見ればわかるはずだ。

 ところが、少年の目にはそんな被災した光景は入っていなかった。目に映る物すべてが新しく、輝いて見えていた。はやる心を抑えきれないように次第に足を速めていく。

 目の前に目印となる大きな門が見えた。白い石造りの門がそびえ、その向こうには公園があるはずだ。


「これでリア充だな、オレも。見ていろ、勇者め!」


 目を輝かせて駆け込んだ途端、少年の足は凍りついたようにピタッと止まった。

 公園は巨大な瓦礫置き場と化していた。

 華麗な彫刻がある噴水池。

 その向こうにあった白亜の美術館。

 様々な形に剪定された植え込み。

 大きな木の下にあるベンチ。

 そんなものがすべて破壊され、ひとまとめにして瓦礫の山として積まれていた。


「……だっ、誰がこんなことしやがった!?」


 愕然とした顔で少年は非難の声を上げた。


「ホントにひどいよねえ。昔は綺麗な公園だったんだけどねえ」


 声に振り向くと、瓦礫の上に腰を下ろした老婦人が編み物をしていた。


「おい! いつ、こんななった!?」

「いつって、そりゃ戦争の時に決まってるだろう?」

「戦争……」

「もちろん三百年戦争さね」


 さも当然のように老婦人は答えた。


 三百年戦争――。

 人間と魔族の間で三〇〇年もの長きにわたって続いた戦争である。

 元々、地下の魔界に棲み、人間界にはたまに出没する程度だった魔族が三〇〇年前に大挙して地上に現れたのが発端だった。出現したのは大陸から突き出した半島。その中央にそびえる火山――グランディナ山だ。元々は島だったが、大昔に噴火した火山から流れ出した溶岩が大陸とつなげてしまったと言われている。

 あふれ出た魔族はまず半島を占拠し、内陸へと侵攻した。一時は前線が内陸に広がり、矢面に立っていたレンディール王国は国土の五分の一を占領された。しかし、友好国である東のトーランス共和国、さらには敵対していた西のザングラン帝国が参戦したことによって、終盤五〇年ほどは人間側が優勢となり、魔族を半島の付け根にまで押し返した。そして、二年前、ついに休戦協定が結ばれたのだ。

 かつてはロレールと呼ばれ、王国の副首都だった美しい街は、緩衝地帯ダブルボーダーにあるボーダータウンと名を改めた。そして、人間と魔族双方が出入りできる街として、一年前から本格的な復興の手が入ったのである。


「戦争のせいでこんなにボロボロになったのさ。特に最後に魔王が放った火炎弾がひどかったね。この公園に直撃さ」


 老婦人はバーンと効果音付きで手のひらを派手に広げる。


「……お、オレか? オレがやったのか?」


 少年はうつむいたまま、小さくつぶやいた。確かに最後に一発景気づけに派手な魔法を放った記憶があるような……。


「まさか、あれが!?」

「おやおや、どうしたんだい?」


 怪訝に思ったおばさんが心配そうに尋ねた時、少年は海老反りになって叫んだ。


「オ、オ、オ……オレの大バカ者がーっ!」


 自分が参戦できなかったことに悔しがっているんだろうと、老婦人は慰めるように少年の肩を叩いた。


「おまえさんがいくら強くても魔王にゃ敵わないよ。勇者が一騎打ちでようやく致命傷を負わせたっていうくらいだからね」

「ま、まあ、ちょっと頬を切られたくらいだったけどな」


 少年は左の頬に走る刀傷を指でなぞった。天族由来の神聖武具だったのか、傷は治らずに痕が残ってしまったのは不名誉なことだった。


「おかげで休戦協定も結ばれたんだし、ホントに勇者様々だね」


 老婦人は編み物に忙しいのか耳が遠いのか、少年のつぶやきが聞こえていないようだ。

 そこで少年は持っていた紙を突きつけた。


「文字は読めるか? これはどうなってる? 知っているものはあるか?」

「バカにしないどくれよ。まだまだ頭はしっかりしてるよ。どれどれ?」


 老婦人は少年の差し出した紙を手に取ってみた。


「……ああ、ずいぶん昔の観光案内だねぇ。こいつは全滅だよ。わたしが爺さんとデートした頃の話だから、魔王の攻撃のせいじゃないけどねぇ」

「ぜ、全滅……だと?」


 少年は老婦人の言葉を最後まで聞かずに言葉を失った。


「さて、あたしはそろそろ行こうかね。店番があるからね。あんたはどうすんだい?」


 老婦人は少年に声をかけたが、返事はない。よほどショックだったんだねえと、懐から取り出したアメを握らせて歩き去った。


「博物館も美術館も全滅だと? 我が軍はどれだけ完璧に破壊したのだ……。優秀すぎるにもほどがあるではないか……」


 少年はリストを目で追いながら、わなわなと肩を震わせる。


「ここに書いてる場所を巡るデートというものをすればリア充とかいう完全存在になれるはずなのだ。それなのにすべてないとはどういうことだ! これではリア充になれんではないか! くそう、オレの強大な力と有能なる我が軍め!!」


 少年は紙を一瞬で短冊切りに裂き、パアッとまき散らした。


「くそう……オレは勇者にバカにされたまま終わるのか……」


 がっくりと肩を落とし、歯を噛みしめて呻く。

 降り注ぐ紙吹雪が悲惨さを強調している。

 そんな背中に心配そうに響く声がかけられた。


「ねえ、キミ、大丈夫?」と。


    ◇

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