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超絶人気の生徒会長が拗らせた中二病軍団と戦っていくお話。  作者: 涼海 風羽
第一話:目安箱と謎の黒組織
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激闘!生徒会VS血涙軍団

 樫井高校(かしいこうこう)南棟の三階にあるあの部屋は、他の教室の雰囲気とはやはり違う。その部屋が入り口を構えているのは日当たりがいい廊下のつきあたりで、ただの白塗りのドアなのに我が校の長老のような風格でたたんでいる。それほどに古めかしい。昼間、日光の当たり方によっては、ドアみずからが光っているように見えることもあると聞く。

 長老様のドアをくぐれば、たちまち正面の窓が爽やかな風と陽光を接待に迎え入れてくれる。


 さて、部屋の中を見渡せば会議室のような風体だと一目でわかる。年季が入った板張りの床に長テーブルが三台の字で並べられているのがまず目に入る。その机上には、書類がうずたかく積まれて山脈をなし、かたわらに三角席札が十個きちんとすえられている。入ってすぐ右の黒板に連絡事項や議題内容などがチョークで多彩に書かれ、左の壁際には数多くの資料参考文献をファイリングした冊子がオフィスキャビネットに所狭しと詰まっているあたり、部屋の役割は充分に果たしているらしい。


 特別教室棟の最上階にあるこの一室は、本当、静かな時間が流れる空間と言っても過言ではないが、長年をかけて染みついた微かなほこりっぽさとカビ臭さには毎日訪れている身であっても……なかなか馴染めない。


「よし、間に合った」


 ドアの前に立って学校指定の肩掛けカバンを床に置くと、左腕の時計を一瞥(いちべつ)した。

 時刻は十二時二四分、ぴったりですね。

 二五分に鳴るチャイムと同時に入室するのはいつもの習慣だ。学ランの襟元のホックが閉まっているか、再確認。よし、ちゃんと閉まってる。


 廊下の窓外では街路の銀杏が枝を広げまるで一本のレールのように樫井の街を黄色く走っていた。それはとても色鮮やかで晴れ渡る秋空の淡青と良くマッチし白秋の落ち着きを感じさせる。

 十月の気候は過ごしやすいものです。


 そしてもう一度腕時計を見る。

 よし、行くとしますか。


 建て付けの悪いドアを慣れた手つきでこじ開けた。中から風が吹いてきて僕の髪をさらう。同時にチャイムが校舎内で鳴り響いた。


 ──キーンコーンカーンコーン


 響くチャイムの中、僕は足を踏み入れる。木の甘い匂いが僕の体を包んだ。


 ──キーンコーンカーンコーン


 颯爽と自分の席に到着。ネームプレートの横にカバンを置き、僕はチャイムの音が鳴りやむのを待っ


 ──キーンコーンカーンコ、ブチッ


「最後まで鳴らせてあげてよ!?」

「うおぉ!? ななな、なんだどうした菅原!?」

「あっ会長、おはようございます」


 弾かれるように飛び上がった男子生徒と、静かに微笑む女子生徒。二人とも右腕に赤い腕章をつけており「樫井生徒会」と書かれてある。

 そう、ここは樫井高校生徒会室。僕のネームプレートに刻まれているのは「菅原翔太(すがわらしょうた)」という名前と、「生徒会長」の四文字、僕の役職だ。


 窓辺のカーテンが風にあおられ、運動部の快活な声がここまで届いてくる。今日は土曜日だ。生徒会室にいるのは僕を入れて三人。他のメンバーは部活動やら家庭の事情やらでお休みになっている。

 まあ、土曜日はいつもの事です。


「ふあぁ~……菅原ァ、今日はアレの日だろ? やるのか今月も」


 体育委員長の野中雄大(のなかゆうだい)が、坊主頭をボリボリ掻きながら眠たそうに言った。制服の第一ボタンは外されて、そこから紺色をした野球のアンダーシャツが野中の肩幅広で引き締まった身体を強調してみせている。


「ああ、もちろんさ。白木さん、取ってきてくれませんか?」

「〈目安箱〉ですね。はい、わかりました」


 一年副会長の白木茉奈美(しらきまなみ)さんはにこやかに返事をした。セーラー服が振り返ると、後ろで一つにまとめた黒髪がさらりと肩の高さでなびく。彼女は部屋の外から赤い塗装の小さなポストを机の上へ持ってきてそのまま箱裏の小窓を開いた。


「どうですか白木さん?」

「えぇと……あっ、入ってます!」


 中身があることを白木さんは軽くゆすって、紙の擦れる音で示してくれた。手を入れて探ろうとしてるけど箱の中が暗いのか、白木さんはついには持ち上げて色々角度を変えて光を取り込もうとしだした。

 頭の上まで掲げたところで投書はようやく箱から出てきて、白木さんの顔に落ちた。


「ぷぇっ」

「大丈夫ですか白木さん」


 のけぞった白木さんに手をかして支えてあげたら彼女は色白な頬を紅くして、


「かいちょっ……ありがとうございます……」

「ん、なにか言いました?」


 段ボールの箱を抱きながら口ごもるものだから聞き取れませんでした。


「あっいえ、そのっ! ありが」

「うっはぁ、やっぱ入ってたかぁー!」


 嘆息混じりの声が生徒会室に響いた。野中は机上に広がった五、六枚の投書を前に眉尻を落としながらテーブルに上半身を投げた。


「野中、そう言うんじゃないよ。困ってる人の数に多いも少ないもないからね」

「そりゃあ分かるけどよ、だってこれ」

「野中先輩、会長の言う通りです。イヤがるんだったら顧問の先生に言いつけますよ?」

「ゲェッ!? よっ、よっしゃあ頑張るぞ! 二人とも早いとこ取りかかろうぜ!」


 野中は急に元気になり席を立つと二つ折りの投書を手に取った。まぁ額の中心に赤く残る制服の袖ボタン跡と、口元のよだれ跡の件については後ほど詳しく伺うとしましょう。


 〈目安箱〉というのは、校内の生徒達から学校をよりよくするための案を募るいわば意見箱で、一般生徒と生徒会のコミュニケーションをとるために設置されている。僕が生徒会長になる前にも同じ目的の目安箱はあったのですが、なぜか六月の選挙で生徒会役員が改選されて以来、ここに投函される投書はぐんと増えたのです。


 しかしまぁこの目安箱に寄せられる内容は、言うなれば無茶ぶり。そんなものがとても多い。時には生徒会に関係ないものまで含まれてます。野中がさっき投書を開きたがらなかった理由はこのためです。まったく、生徒会を便利屋か何かと思ってるのでしょうかね。


「会長、先月依頼してきた生徒さんからお礼の手紙も入ってますよ」

「そうですか、嬉しいな」

「人助けって、気持ちいいですね」


 白木さんは花が咲くような笑みで返す。いつ見ても癒されますね。

 生徒会としてはやはり学校に貢献するのは本望のこと。どんな難問でもみんなのために役立てるなら喜んでやろう。その心づもりで僕達は月に一度、第三土曜日にまとめて依頼を受けることにした。

 実績として今のところ受けた依頼はすべて達成。

 我ながら、誠実なのかお人好しなのか分かりませんね。


「しっかし菅原ァ。お前はいつも簡単に依頼こなしてるけど、俺にはあんな風には出来ないぞ?」

「野球部とラグビー部のグラウンド敷地問題の解決や、トイレの清潔の徹底、はたまた柔道部顧問の御利羅先生のご機嫌取りに、会長は何でも解決して本当にすごいと思います」


 二人が僕をおだてる。ふふふ、まあ、悪い気はしませんね。


「いやいや、偶然にも事が良く運んだだけだよ。二人のサポートの賜物さ」


 そう、今まで生徒達からの無茶ぶりな依頼を穏便に解決してこれたのは二人のサポートがあったからこそ。白木さんは一年生でありながら僕の右腕としていつも助けてくれるし、野中も渋々なテイを装っているけど、生徒会の活動となれば大好きな野球部の活動よりもこちらを優先して全力で尽くしてくれる。二人とも頼もしい仲間たちです。


 たまに生徒達が「爆発せよ、リア獣」なんて言ってくるけど……はて、シェイクスピアはそんな作品も書いてましたっけ?


「それで野中先輩、手紙の内容はどうと書いてありますか?」

「おう、待ってろ」


 野中が手に広げた投書を持って顔をしかめる。


「……えぇと、『近頃、夕方になると無人の筈の放送室から変な物音がたまに聞こえる。不気味だから調べて欲しい。』だってよ。何だこれ? 気味が悪いなオイ」

「本当ですね……会長、どうしますか?」


 そう言うと白木さんは少し眉根を寄せて首を傾げる。


「ふむ……よし、調べてみようか。田浦、他には?」

「お、おう」


 そう返事した野中はもう一枚、折りたたまれた投書を開いて読み上げた。


「……『食堂のメニューに海老天饂飩(えびてんうどん)を追加して欲しい。』」

「完全に投函先を間違えてるね」

「しかも何故か筆書きですね」


 しらけかえる生徒会室に涼しい秋風が吹き抜けた。


「はあ~、またですか」


 困りものですが、こういうのはよくある事なんです。要望があれば取り敢えず生徒会へ……なんて。頼られるのは良いんですが、これはどう考えても食堂に出した方がいいでしょ。一応当事者に届けはしますが……それにしてもよく「饂飩」なんて難しい漢字を書けましたね。


「あ、下の方にまだちっさく書いてあるぞ! しかも今度は黄色の鉛筆で」


 野中がやや興奮気味に声を上げる。どうしてわざわざ書き方を変えたんでしょうか。


「面倒な事をしますね……なんて書いてありますか?」

「読みにくいな……『二年生の全教室の備品である懐中電灯の寿命が、極端に短くなった。原因を調べてください。』」

「先輩、それも明らかに事務の先生宛ですよね」

「そうだな。んだよ、こいつ。生徒会を伝言板とでも思ってんのか?」

「二年生の、ですか……」


 何やら意味深長な表現ですね……それに二年生と言ったら僕達の学年じゃないか。これは調べてみる価値があります。


「ありゃ、残りの依頼も同じ内容だ。後はどれもワープロで打ってるみたいだな」

「はぁあ……それじゃイタズラか何かみたいじゃないですか。ではこちらは事務の先生に届けておきますね」

「待ってください白木さん。その懐中電灯の件、僕達で調べてみましょう」

「え、マジかよ菅原」


 野中がやや狼狽する。中学生の頃からの付き合いですし、頭が切れる方ではないのは知ってたけど、やはり突拍子な発言過ぎましたかね。


「放送室の怪音に二年教室の懐中電灯の件、それと同じ内容の投書が四枚。目安箱を開くのは月に一回だから、単純計算で先月から週に一枚これは投書されていたことになる。一度にこうも大きな不自然が起こるのは変だとは思わないかい?」

「それもそうだが、調べて何か分かるのか?」

「確かに野中の言う通り、何か有るのかは分からない」

「じゃあさ」

「これは僕達に来た依頼だ。先生に報告する前に一度くらい、調べてみても良いんじゃない?」

「たしかにその通りだが……」


 それに、と付け加えて一呼吸おき、二人の目を見る。


「その人も先生より先に僕達を頼ってくれた事実に変わりはない。それだけこの生徒会は、生徒達から信頼を預かっていると思えないかな?」


 静かに微笑んで僕は続ける。


「僕は嬉しく思う。皆から信頼されて、人の役に立つことができて。野中、僕がいつも言ってる事を覚えているかい?」


 野中は引き締まった口元で低く言った。


「……やるからには、全力で」

「頼まれたからには一度は全力でやってみよう。これでも僕達は、生徒会役員だ」


 僕の人生のシアワセは人の役に立つこと。それ以上もそれ以下もない。ただ僕はみんなの笑顔が見たい。だからこそ僕は生徒会長という役職に就いたんだ。

 野中は数秒悩むしぐさを見せ、うんと頷くと納得した様子で言った。


「わかった、俺はお前を信じるよ。長い付き合いだしな」

「私は会長の言う通りに従いますよ。だってなんだか面白そうですし!」


 さっきまでつまらなさそうな顔をしていたのに、活き活きとして白木さんは肩を竦める。あれ、白木さんってこんな弾ける笑顔の持ち主でしたっけ?


「それに……会長のお役に私も立ちたくて」

「え、何か言いましたか?」

「えっあ、いや、何でもないです! とにかく会長に賛成です!」


 首を縦横にブンブン振って白木さんはとりあえず賛同してくれた。そんな大袈裟にやらなくてもいいのに、どうしたのでしょうかね?


「二人ともありがとうございます。では放送室の件は夕方に、まずは懐中電灯の方を調査しよう」


 しっかりとした目つきで二人は頷く。いつも頼りになりますね。


「よし……行こう!」


 そう言って僕は生徒会室のドアに手を掛けた。開かない。


「ぬっ……くうっ、このドア、建て付け、悪過ぎィ!」

「締まりませんね会長」


 ──グラウンド

『放送室の物音ねえ、ごめんなさい。何も知らないわ』


 ──中庭

『懐中電灯……? そんなの知らないねえなあ、悪りい』


 ──渡り廊下

『はん、知るかよそんなの。クソッ、今日も……!』


 ──校舎裏

『うほっイイ男! えっ、あ、うーん……お、俺は何も知らないぞ。そんなことより、や・ら・な』


「だーめだ、誰も知ってる人がいねえな」

「本当ですね……先輩、そのタコ焼き一つください」


 その後僕達は部活動で来ている生徒達に聞き込みをすることにした。しかし結局のところ何も情報が得られずじまい……。すっかり疲弊した僕達は中庭に面した売店横の食堂で一息つくことにした。


「まさかガセだったのか?」


 野中が売店で買ったタコ焼きを頬張りながら呟いた。


「けど嘘の依頼にして妙にリアルじゃないですか? それと先輩、タコ焼き一つください」

「それもそうだね。依頼に書いてあった通りなら、いつ放送室で物音が起きてもおかしくはない。少なくともそれだけは今日の内に確かめよう」

「あぁ分かってるよ。だがよ何なんだろうな、その変な物音ってのは」


 そして野中はまた一つタコ焼きを口にする。


「どうなんでしょうね……あと先輩、一つください」

「もうすぐ夕方になります。そろそろ件の放送室に行くとしましょう」

「ああ、そうだな」


 そう言いながら野中は残りのタコ焼きを一気に爪楊枝で串刺しにし、ガバッと口に放り込んだ。


「あ~~っ!」

「ふぅごっそさん」

「うぅ、タコ焼きぃ……」

「んだよ白木、タコ焼きくらい自分で買って食えばいいだろ」

「か、買い食いはしない主義なんです!」

「お前それ学校の売店で言っちゃう?」

「でも私、入学してから売店を使うなんて本当に初めてなんです! ここのタコ焼きなんかも初めてみました! ソースの甘い香りが熱っぽいきつね色の球体をつつみ、マヨネーズの白格子と青のりと混じり合う姿はまるで反転世界の牢獄に降る粉雪のよう!」


 さすがにその比喩表現はひどいと思いますが。


「ふふふ、白木、お前には分からないだろうが何を隠そうこのタコ焼きは……揚げタコだ」

「はひぃ!? あ、あ、あ、揚げタコぉ?」

「よんで字のごとく、外はカリカリ中はトローリ」

「カリカリ……トロトロ……あわぁ……」


 白木さんの目がすごく潤みだした。半開きになった口からは今にも涎が滴りそうだ。(本当に垂らさないあたり白木さんは流石ですが。)


「ふん。くいたきゃ自分で買いな。俺はそこらへん厳しいぞ」

「あぁ~……ぐすん……」


 しょんぼり眉をハの字にして小動物みたいに肩をすくめる白木さん。野中の言うことはごもっともですが。


「そこまでタコ焼きが好きなら、これが終わったらごちそうしますよ」

「喜んでッ!」

「おいおい菅原ァ、あんま後輩を甘やかすなよ」

「まあまあ良いじゃないか」


 弾かれるかのごとくパアッと表情を明るく一転させる白木さん。白木さんって意外と食べることが好きなんでしょうか?


「さて来ましたね、放送室」


 西日が差し込む窓を背に、僕達三人は放送室のドアを前に立った。


「ああ。白木、鍵は持ってるか?」

「はい先輩、マスターキーがここに」


 そこには全ての教室の鍵が一つの輪に繋がれたマスターキーが。どうしてそれが白木さんの手元にあるのは謎ですが、まあクルクルと鍵を回す仕草が愛らしいから良しとしまょう。


「では、行こう」


 僕は白木さんから鍵を受け取り、ドアの鍵穴に挿した。

 ……ここで起こるというポルタ―ガイスティックな出来事は本当にあるのだろうか。この学校にもまさか七不思議なるものがささやかれるなんて、さすが伝統校と世間様に呼ばれるだけありますね。


 妙な緊張感が胸の鼓動を高鳴らせる。あぁ、ドキドキする。隣に立っている野中は両手に握り拳を作って固唾を飲み、白木さんは僕の後ろに隠れている。二人の表情を確認し、頷きが返ってきた。鍵を回した。


 ガチャリとドアノブから音がした。ゆっくりドアを引くとその軋みながら開く音が誰もいない廊下に響きわたった。ドアの先は真っ暗で、足元に僕の影法師が橙色の中に伸びている。放送部の人達には失礼だとは思いますが……こんな所に入りたくないですね。


 けど学校のためと勇気を振り絞ってゆっくりと、ゆっくりと、僕は足を踏み入れた……。


「おじゃましまぁぁあああす! 誰もいませんよねぇぇええええええええ! 分かりましたぁぁぁあああああああああああ! それでは失礼しましたぁぁあああああああ!」


 僕はそっとドアを閉めた。


「いや何やってんのお前」


 野中に怒られてしまいました。気を取り直して、もう一度ドアを開く。


「ムウウグググググガガガァッ!」

「ふぉぉおおお!?」

「うおっ!? ななな、何だ今の声!?」


 その時、何かが狂乱しているような声が放送室の奥から聞こえてきた。以前にも放送室へ来たことはあるから、部屋の造りは覚えていた。この声はさらに奥にある控えブースからだ。それは分かった、んだけれども。


「いきなり抱きつかないでくれるかな……野中。離してくれ」


 声に驚いてがっちりホールドしてきた野中に僕はそうこぼした。かなりの力で、凄く、苦しいです。


「あ、いや、その……すまん……」

「野中先輩って男性がお好きなんですか」

「待てえ白木ィ!? 俺は健全な男子高校生だぞ!?」


 合点の様子で頷く白木さんの発言を、求愛するゴリラみたいに激しく否定する野中。そう言えばゴリラってこんな求愛の仕方なんですかね?


「ムガグゴゴゴゴゴゴ!!」

「うおっ!?」

「ひゃっ!?」


 野中と白木さんのやりとりが激しい物音で打ち消された。


「ブースからだね、この声」


 我ながら非常にどうでもいい事を考えていました。反省。一先ず放送室の蛍光灯を点けて明かりを確保し、改めて物音のする方を見た。ドアに手をかける。


「二人共……行くよ」

「お、おう」

「どうぞ……!」


 激しく高鳴る鼓動を抑え、僕は思い切りドアを開け放して部屋に飛び込んだ。


「てやああぁぁーー! ……って」


 ドアの先にいたのは……


「え……?」

「ムガッムギギギギガアアア!」


 目隠しと耳栓と猿ぐつわとロープで全身を拘束されたジャージ姿のゴツい中年男性だった。


「この人って」


 続いて入った野中が驚きに上ずった声で言った。御利羅先生……何してるんですか。


「先生! どうされたんですか! 助けに来ましたよ!」

「ムゴアッムギグムオオオ!」

「うわ!?」


 ダメだ、僕達の存在に気づいていません。暴れるせいで目隠しや耳栓も安易にとれそうにない。せめて先生に僕達の存在を気付かせることができたら……。


「そうだ」


 結論はすぐに出た。


「菅原?」

「会長?」

「先生、失礼します!」

「まそっぷ!?」


 とりあえず先生にビンタしてみた。この策は奏功し、のたうち回るゴリラ先生の動きを止めることに成功した。野中と僕で手足の縄を解く。


「うぅ、お前らは……生徒会か。助かった、ありがとう」

「いえいえ……それよりも、どうしてこんな目に?」


 僕達は拘束具を解きながら、首をゴキゴキと鳴らす先生にたずねた。


「それが……柔道部の練習を終えて宿直の支度をしていたら、突然何者かに襲われてな。抵抗したが相手は箒やら竹刀やら持った三十人近くで、素手じゃ流石に敵わなかった……」

「大勢対一人なんて、いくら御利羅先生相手だからって……酷い」


 微かな怒気を含んだ白木さんの声が放送室の防音壁に吸いこまれた。

 先生は悔しそうに頭を掻きながら続ける。


「奴らは黒いマスクを被っていて統率も見事だった。十人は倒せたが数には敵わんで、流石にやられっしもた」


 黒マスクの集団か、危険な存在ですね。この樫井高校にそんな物が潜んでいるとは……。何としても早い対処をしなければ。


「先生、黒マスクの集団は何か手がかりを残して行きましたか?」

「あー、確か……【なんとかジュウ】やら【なんたらクハかんたら】みたいな言葉をブツブツと掛け声の様に言っておったな」


 ダメだ、何を言ってるんだこの人。何かしらの呪文でしょうか。


「いや……もう良いわ。生徒会と言えど、これ以上恐ろしい事に人を巻き込む訳にはいかん」


 武装した人を十人も素手で倒した先生も充分恐ろしいと思いますよ?

 待てよ……先生は今、『これ以上』と言った?


「先生、もしかして以前も黒マスクに関する事件が?」

「……守秘義務が課されている」

「どうしてもですか?」


 黙って頷くゴリラ先生。やはりそうだ。ならばそれを聞き出すのみ。僕は軽く咳払いをし、「先生一ついいですか」と注目させた。

 さあ、早口言葉の時間です。


「つかることをお伺いしますが先生は樫井高校の校歌の一節をご存知ですよね。先生は此処へ赴任されてから今年で十年経ちますものね。その中で一番の後半の歌詞である『自由・独立・誓い』と言うのは生徒達の自立心と学び舎への思慕と平穏へ向けての宣誓だと思うのですがいかがでしょうか。あってますよね。生徒会規約第三条にも同じ文言が載っているのですから。それと食堂のタコ焼きは美味しいですね。加えて校訓にもそれを思わせる所があります。日本は法の元に民が暮らす法治国家です。その日本の公立高校もまた校則や校訓の元に生徒が過ごすべきであります。この事は我々樫井高校生にも一個人として先生と同等の存在として事件に携わる権利を有すると私は解釈しますが如何でしょうか。先生もタコ焼き好きですか。今度ご一緒しましょう。ところで問題です。僕は何回“です”と言ったでしょうか」


 この間十三秒。息継ぎ無しで言い切りました。小さな声で白木さんが「……七回」と呟いた。先生はきょとんとした顔で、目を泳がせまくっている。おそらく理解しきれなかったのでしょう。これを好機として白木さんに目配せをした。すると彼女は、先生の前に立って長身の先生を見上げながら……


「私達じゃ……ダメですか?」


 この一言。


「全て話まちゅ」


 鼻の下を伸ばしながら先生は親指を立てた。これで素なのだから、白木さん、おそるべしです。


 放送室を後にした僕達は、もう一つの調査をするべく、紺色に染まる二年生の教室の廊下を歩いている。先生は校内を見て回ると言って木刀を片手に武道場の方へ向かった。


「……ここも無くなってる」


 右手にマスターキーを持つ田浦が二年三組の教室の備品棚の中を指さして言った。


「これで二年生は全クラスですか」


 備品である懐中電灯が無くなっているのだ。

 先生の話によると、黒マスク達の事件は先月から起こりだして宿直の先生が襲われ放送室に監禁されるようになった。だが彼らは先生達に直接的な危害は加えず夜の七時頃には解放すると言う。校内が荒らされた形跡は無く、校区内の治安の変化もないので事件自体は教員内の秘密事項として調査しているらしい。毎回突然の襲撃のため対策はまだ挙がっていないのだと。


 依頼の放送室の物音は閉じ込められた先生の助けを呼ぶ音で、昼間のチャイムが途切れたのはきっと、暴れる中で機材のスイッチが落ちてしまったのでしょう。

 そして先生が監禁されていたとなれば今日が黒マスク達の活動日。そして無くなった大量の懐中電灯……どうやら二つの事件は関係性があるようです。


「会長、どうしますか?」


 白木さんが顎に指を添えて眉間にシワを寄せる。愛らしいですね……って、そんな場合じゃないか。


「そうですね……」


 僕が頭を掻こうと左手を上げたその時、視界の隅に明らかに不自然な光が走ったのが映った。


「誰だ!」


 廊下奥の階段へ向かっていち早く野中が反応した。


「チッ、人がいたか!」


 懐中電灯を持つ人影は階段を駆け下りていった。


「逃がすか! 追うぞ!」

「はい!」

「勿論だよ!」


 彼らが樫井高校を脅かそうとする存在でしょうか。何はともあれ、追うしかありません。


「この中に入って行ったぞ!」


 先に着いていた野中が武道場のドアの前で興奮気味に立っていた。確かに磨りガラスの向こうからは光が僅かに確認できる。


「分かった。まずは先生に連絡しよ」

「行くぞオラァァァアアアア!」

「ちょ」


 僕の言うことを聞く前に野中は──近くの道具箱から取ったのであろう──短い箒を片手に武道場のドアを乱雑に開けて突っ込んで行った。


「やれやれ……白木さん僕達も行こう」

「はい!」


 武道場に入ると僕と白木さんは柱の影に隠れた。そこはいたる所に置かれた懐中電灯が薄暗い部屋を照らす中、学ランを着た大勢の黒マスクが集会を開いてる最中に野中が突っ込んだ……と言う状況が簡単に分かった。

 学ランと言うことは、樫井の生徒ですか。


「何だ!?」

「神聖なる議中に曲者か!」

「誰だ貴様は」

「俺は生徒会体育委員長、野中雄大! お前達、何をしてやがる!」

「生徒会だと……?」

「いったいどうやって我々を!」


 田浦の咆哮に武道場内がざわめき出す。


「ほう……生徒会が何の用でしょうか?」


 すると最奥部に立つ、赤いトサカが装飾されたマスクを被る男が野中に向かって口を開いた。


「ここにある懐中電灯は……二年生の教室の物で間違いないな?」

「その通り」

「そして御利羅先生を監禁したのもお前達だな?」

「いかにも。それがどうしたというのですか?」

「お前達を校舎備品及び施設の無断使用、また教師不敬の校則違反で指導する!」

「ほう、威勢がよろしいようですね……邪魔です。皆さん、やってしまいなさい」


 「御意」と揃った声と共に武装した黒マスク達が一斉に襲いかかる。野中は箒を手に、一人その中へ突っ込んだ。


「うおおぉぉおおおおお!」


 野中はとても強かった。

 左から振り下ろされた竹刀は体を捻じることで紙一重で躱し、右手に握る箒で黒マスクの手首を狙って叩き落とす。そして胸ぐらと左袖を掴むとそのまま大きく回転し、周囲の黒マスクを巻き込みながら思い切り床に叩きつけた。

 『野中流喧嘩殺法・トルネード背負い投げ』……見事だ。

 この恥ずかしい呼称は彼が中学時代によく作っていた技名です。


「てやあ!」

「消えろ!」


 今度は二人の黒マスクがテニスラケットとバドミントンラケットで左右から殴りかかった。


「なに!?」


 一瞬、野中の姿が消えたと思えば、なんとしゃがみ込んで二者とも同時に箒で受け止めていた。


「甘いな……売店のカスタードまんじゅうより甘いなああああ!」

「なふほぉッ」

「おぶふっがあっ!」


 野中は二人の腹部にもぐりこんで強烈なラリアットを叩き込んだ。


「安心しな。鳩尾は外しといた」


 ゆらりと立ち直りそう言い終えると、二人の黒マスクは膝から折れて畳に沈んだ。ちなみにこれは『野中流喧嘩殺法・サブマリンかまきり』という技らしい。


「もう一丁!」


 猛然と走り出す野中。両掌(てのひら)を顔の高さに掲げて、細かく手首のスナップで前後させる。

 野中の周囲には大勢の人がいる。人ごみの中でこんな動きをされたら、どんな結果が待つのかは明らかだ。


「アババババババァッ!」

「イビビビビビビィッ!」

「ウブブブブブブゥッ!」

「エベベベベベベェッ!」

「オボボボボボボォッ!」


 『野中流喧嘩殺法・キャタピラ張り手』が決まった。もう少し何とかならなっかのかなこのネーミング。

 とにかく、野中のビンタを喰らった黒マスク達は畳の上で悶え転がり、戦闘不能になっている。


「な……っ」

「無理だ……強すぎる!」


 あっという間に味方が大勢やられ、野中を囲む生き残り達がたじろぐ。


「ほう、流石は体育委員長。なかなかやるようですね」

「なーに、昔取った杵柄ってやつさ」


 そう言えば野中って中学生の頃はこれらの技を使って、他校の不良達としょっちゅう喧嘩してましたっけ。たしか……全戦全勝だったような。あっ、あの一戦以外で。


「さて、と……怪我したくない奴は道を開けろぉおオッ!」


 咆哮をあげながら奥へ突撃して行く野中。それに対して一人の男が笑いながら躍り出た。


「ククク……面白い。皆さん、ここは私にお任せを」

「あ、あの方が出るぞ……!」

「「「うおおおおおーー!!」」」


 黒マスク達の士気が一気に上がる。そう、最奥部に佇んでいたトサカ頭のリーダーが立ちはだかったのだ。すさまじいカリスマ性だ……いったい彼は何者でしょうか。


「そして皆さんは、この場に紛れ込んでいる虫さんの片付けをお願いします」


 そしてリーダーは人差し指を武道場の入口の方へ向けた。

 誰かが後ろに……?


「……いないね」

「そうですね」

「お前らだよ菅原ァ、白木ィ!」

「ホワッツ!?」


 野中の声に反応するのも遅く……なんてことでしょう。隠れていたはずの僕と白木さんも黒マスクに壁際まで追い込まれちゃいました。



「おい、あいつらに手は出すな!」

「何を言う、生徒会は我ら『ブラッディ・ティアーズ』の敵。敵に口出しされる筋合いなど無し!」


 リーダーが口にした痛い名詞はおそらく黒マスク達のユニット名(?)でしょう。それはともかく……


「か、会長~……囲まれてますよ~!」


 僕の腕に涙目でしがみつく白木さんをどうにかしたいです。うーん、出来ればこの場は平和的に解決したいんですが……。


「きっひひひ、我らの最終滅殺対象の生徒会長が直々にお出ましとは……」

「おい、副会長の白木様もいらしてるが……あのクソ野郎に抱きついてるな。よし、あいつ殺す」

「消毒、消毒だ……汚物は消毒ゥウウウウウウ!」

「うほっイイ男。や・ら・な」


 めちゃくちゃ物騒な言葉が耳に入りまくってる時点で難しそうですね。


「か、かいちょ~……」


 今にも泣き出しそうな顔で一層腕を掴む力を込める白木さん。普通に痛いです。困りました……でも仕方ない、こうなったら。


「白木さん。少しの間だけ目と耳をふさいでてください」

「会長?」

「大丈夫ですよ」

「えっ……」


 怯える白木さんの頭にポンと手を置いて、耳元で囁いた。


「僕が守りますから」


「お、会長さん女の子に目を瞑らせるなんて紳士だねぇ。そんなに自分がボコられる姿を見せたくないのかぁい?」

「なぁに、彼女は最近寝不足だそうだから休んでいただくのさ。だから出来るだけ静かに済ませてもらうよ」

「この野郎、舐めやがって……」

「ぐしゅしゅ……あの体育委員長に比べたら弱そう……ぐしゅしゅ」

「俺はノンケだって構わず食っちまうぜ?」


 ザッと構える“男子生徒達”を前に、僕は表情を崩さず左足を出して軽く拳を握る。


「さ、何処からでもかかって来てください。なるべく痛くしないように頑張りますから」

「こんのやろぅ……行くぞてめえらあああ! リア充はぁぁあああ!?」

「「「 爆 発 じ ゃ ぁ ぁ あ あ あ あ あ ! 」」」


 謎の掛け声と共に飛びかかる無数の学ランによって、僕の視界は黒一色に包まれる。

 この感覚……懐かしい。


 ──ちょっとだけ、本気だそうかな。


 僕がそう思った時だった。


「待てぇぇええええいィ!」


 武道場に響く野太い声にその場の全員が動きを止めた。


「ひでぶっ!」


 奇怪な声が聞こえ、そちらを見ると……


「御利羅先生!」


 右手に木刀。左手に泡を吹いて伸びているトサカ頭をそれぞれぶら下げた、ジャージ姿の鬼神が武道場の壁に影として浮かび上がった。

 最奥部にて威圧感を放ちながら君臨する狂乱の鬼神は、真っ赤な眼まなこで雷鳴にも勝る轟音を放った。


「貴様らワシのシマで何しとんじゃゴラァァアアアアアァッ!」


 闇の中、懐中電灯の光が作る幾つもの白い円に、おびただしい数の逃げ惑う影が往来する。

 その後……武道場は修羅と化した。


「先生、どうして此処が?」

「誰もいない学校であれだけ大騒ぎしてたらそりゃあ分かるわ。それよりも、こいつらの正体が分かったぞ」


 ふん、と鼻を鳴らして先生は、武道場の隅で無惨にも山積みされている黒マスク達を顎で示す。


「こいつらは、えぇ……俗に言うアレだ。何だっけか……ピ、ピカチュウ……?」


 あらやだ可愛らしいですねゴリラ先生。


「何だそりゃ?」

「ワシにはわからん。なんでも恋人がいない奴を指す……とか?」

「先生、それってもしかして非リア充ですか?」

「あ、それだ」


 ズバリ言い当てた野中を指さす。


「こいつらは生徒会の人気の高さに嫉妬心を抱く連中の集まりだそうだ。そこらに盗品の懐中電灯がある理由は『雰囲気がカッコいいから』だとさ」

「はあ……?」

「あぁ……ハハハ……」


 なんですかそりゃ。ポカンとする僕と白木さん。野中だけは納得した様子で苦笑いしている。


「しかしよ、なんで先生がそれを知ってるんすか?」

「職員室に戻ったら匿名の生徒から手紙が来てたんだ。色鉛筆で書いた読みにくい字でな。内容は今言った通りで、後は大きく……『ゴボ天饂飩が食べたい』と筆書きで書いてあった」


 そこまで伝えると先生は「あ、ちょ、まずい、血圧が……」と言って水を飲みに退場した。


「色鉛筆……筆書き……饂飩……?」


 今の先生の言葉で僕達三人の表情が一変した。


「会長、それって……」

「間違い無いな菅原」

「うん……依頼をよこした人だ」


 だとしたら依頼主は黒マスク集団・ブラッディティアーズを知る人物だ、と言うことか。


「どう言う事でしょうか会長……」


 白木さんが腕を組んで小首を傾げる。萌えますね。

 でもこの手紙と言うのは何なのだろう。ただの偶然でしょうか? 内部からの密告? それとも……その人に踊らされている?


「ああ! 分からない!」

「うおぉ!? どうした菅原ァ?」

「大丈夫ですか会長!? もう事件は解決したんですよ、もう安心です!」


 頭を抱える僕を白木さんが支えてくれる。


「……私がついてますから」

「え、何か言いましたか?」

「あっ、い、いえっ、そそそ、空耳ですよっ! あは、あはははは!」


 火が出そうなくらい顔が真っ赤になり、手と首をブンブン振って白木さんは否定する。そこまでされると逆に僕の心が痛いです。


「クッククク……」

「…………ッ!」


 突然、武道場の奥で力尽きている筈のトサカマスクがフラフラと立ち上がりながら声を発した。


「はぁ……はぁ……ハッハッハッハ! 甘い、甘いぞ生徒会のリア充共よ! 私を倒したからと言って喜ぶのはまだ早い。私はブラッディティアーズ四天王の中でも最弱……」

「言いたいことを早く言え」


 野中が威圧感を放ちながら言った。黒マスクは動じず淡々と続ける。


「この私を倒せたとしても、残りの三人が我々の最終目的……【リア充撲滅計画】を果たすであろう……ハーッハッハッハげふげふごほぉ!」


 高笑いをするも、途中で痰が絡まってむせるブラッディティアーズ四天王の一人。辛いならやめればいいのに。


「げふっ……はぁ……ふぅ、そして菅原翔太。私は貴様を決して許しはしない」

「……何のことですか」

「ククク……この顔を忘れたとは言わせぬぞ!」

「君は……!」


 黒マスクの幹部は自らマスクを外して素顔を露わにした。その顔に覚えがあった僕は絶句した。


「そう、あの日、決選投票で貴様に負けた男さ……」


 確かに彼は、この前の生徒会選挙で僕と会長の座を争い、僅差で落選した生徒だ。


「どうして君がこんな組織に! 以前は快活で学年でも人気者だったじゃないか!」

「黙れ! 貴様に教える義理など無い。俺は生徒会長、貴様に復讐するためにこの組織に入ったのだ」


 最近見ないと思ったらまさかこんな事になっていたなんて……。


「覚えておけ。貴様に恨みを持つ連中がいる事を! 夢を奪われた憎しみを持つ者がいる事を! 必ずや、リア充をこの学校から滅ぼしてみせよう! 覚えてやがれバーカバーカ!」

「あっ、待て!」


 無理矢理作ってるのか、キャラが安定していないブラッディティアーズの幹部は部下の山積みを崩してバリケードに変えると……よろめきながらも勝手口から普通に出て行った。


「チッ逃げられたか……」

「追うのはよそう、野中。彼らとは再び対峙することがあるよ」

「……そうだな。ブラッディティアーズ、か。リア充を撲滅させるなんてあいつら何を考えてんだ」

「そ、そんな事させません! もしされたりなんかしたら私は……」

「何言ってんだ白木?」

「はわわっ、野中先輩のばかぁ!」

「んな!?」


 野中がまたもやゴリラよろしくなリアクションを披露していると、背後からゴリラ先生の声がした。


「ガッハッハッハ、楽しそうだな、どうした生徒会役員共」

「あっ先生! 黒マスクの幹部に逃げられました!」

「何!? ……まあ良い。今回の件はよくやってくれた。今後の事はワシ達に任せておきなさい」

「しかし!」


 反論しようとする僕達を「だが」と先生は制止する。


「勿論、生徒会の力も借りる。なんせ奴らは樫井高校の生徒なんだからな。尻拭いはワシら教員と……生徒会の役目だ」

「それって……」


 先生は厳つい顔を更に引き締めた。


「協力してもらおう……これは学校からの依頼だ」

「……はい!」


 神妙な面持ちで受け止める僕は大きく頷いた。

 そうだ僕は生徒会長として、いや、樫井高校の生徒会役員として、学校の平和を守らなくてはならない。重々しく頷いた先生は急に表情を緩めてニヤリと笑った。


「さあて、ならその前金として何か奢るぞ。お前ら何か食いたいか?」

「タコ焼き! ……あっ」

「ぶふぅっ、白木ィお前食い意地張りすぎだろ!」


 脊椎反射かの様に素早く反応する白木さんに野中がツッコんだ。


「い、今のはジョークです。それにタコ焼きは会長が買ってくださる約束です!」

「えっ、あぁはい」


 そう言えばそのような約束してましたね。失敬失敬。


「ガハハ! お前ら仲が良いな。樫井高校を頼んだぞ?」

「はい!」


 三人揃えて力強く返事をする。

 やってやりますとも。学校の為なら例え火の中水の中……までは難しいですが、課せられた依頼はこなします。こなしてみせます。


「だって『僕』『私』『俺』達は……」


 三人笑顔で互いに見つめあって、互いにうなずく。そして拳を高々と突き上げた。


「生徒会だから!」




 *続く*


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