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兵士と魔女の物語

悪魔の兵士

作者: ひこゆき

とある日とある王国で、王国を治める王が敵国の刺客によって毒殺された。

その時既に王妃は他界しており、重臣達はまだ若い娘の姫に王位を継がせる事を決めた。

そして、一年も経たずに国の腐敗が始まった。


姫に跡を継がせた重臣達は姫に代わって政治を取り仕切り、民からの無理な徴収を繰り返しては、自分達は贅沢な生活を送った。

姫は何度も重臣達に非道な行いを止めるように訴えたが、その訴えが聞き入れられる事はなく、お飾りだけの王位継承者という立場となっていった。

しかし、事情を知らない民は王が死に、姫が国を治めてから国が腐敗したと……姫を恨むのだった。




…………一人、城の庭で涙を流す姫の姿があった。

此処は昔、両親である王と王妃と共に楽しく過ごした思い出深い場所だった。


「私は……どうしたらいいの……」


毎夜、苦しむ民が夢に現れる。夢から覚めても城の外では民の苦しみ訴える声が響いている。まるで覚めない悪夢だった……。


「どうなさいました? 姫様」


と、突然声を掛けられて顔を上げるとそこには見知らぬ男が立っていた。鎧を着ている所を見ると、城の兵士だろうか。整った顔をしており、鎧を着るにはやや華奢な風に見えた。


「貴方は……?」

「え、あ!もしかして不審者だと思ってます? 僕はちゃんとこの城の兵士で見回りの最中なんですよ!」


と、おどけた態度で話す兵士に、思わず泣いていた姫から笑みが零れた。その笑顔に兵士もにこりと笑ってみせた。


「僕は質問に答えましたから、今度は姫様の番ですよ?」

「私は…………色々悩み事があったから……」

「悩み事ですか」


小首を傾げた兵士は、少し考えた後に遠慮なく姫へと近寄り、


「僕が姫様の力になりましょう」

「え……?」


「だから、僕に誓って下さい……」


兵士は姫の耳元で“秘密”を囁いた。





城の庭での出来事から数日後、好き放題に権力を振るっていた5人の重臣の内3人が行方不明となった。

それから更に2日後、残った2人の重臣は姫に早急な謁見の機会を求めてきた。……それもその筈、行方不明となっていた3人の重臣が今朝方死体で見付かったのだ。しかも、城の塀に首が並べられるという惨い状態であり、どの顔も苦しみ抜いた背筋も凍るような表情を浮かべていた。


「一体誰がこんな事を……」

「というより、どうやって3人を殺したのだ……城の警備は厳重であろう?」


重臣二人が滑稽に話し合う姿を無言で姫は見詰めていると、二人の視線が姫へと向けられた。


「城内に手引きをした者が居るのやもしれませんな……」

「姫様……御心当たりは?」


それを訊くのが謁見を求めた一番の理由だろう、重臣二人は圧力を掛ける様に姫を見詰めている。


「おやおや、まさか姫様を疑って掛かるとは何と言う無礼」


と、そこに飄々とした態度で現れたのは、あの時庭で会った例の兵士であった。


「な、何だ貴様は?!」

「部屋の扉の前には見張りを立てた筈では……?!」


騒ぎ立てる重臣を気にせず、兵士は玉座に座る姫の傍らへと歩み寄り、


「この人達も殺しましょう」


と、微笑んで言った。


「お願いするわ」


そう返した姫の微笑みは恐ろしく冷たく、怯える重臣二人を容赦の無い斬撃が襲った。




王国を腐敗させていた要因である重臣達が消え、再び王国に平和な日々が訪れるかと思われたが…………王国に迫る脅威があった。それは王の命を奪った敵国であった。敵国と通じていた重臣が居なくなり、ついにこの国をその手に収めようと動き出したのだ。

王国の民は迫る敵に恐怖したが、姫は全く恐怖など感じていなかった。


そして、敵国が王国へと近付いた時だった…………敵国の兵へと雷が落ち、敵兵達は一瞬の内に死に、生き残った者は雷によって起きた炎によって火だるまになって死んだ。全滅だった。


「もう大丈夫。何も怖いものなんて無いわ。私がみんなを護ってあげる」


その姫の言葉は民を安心させるものには……ならなかった。


「あの雷、姫が起こしたんだろ? 恐ろしい……」

「俺、重臣達の死んだ生首を見たけど恐ろしい顔で死んでたよ……あれも姫がやったんじゃないか?」

「なあ、こんな恐ろしい事が出来るのって……」

「この国の姫は魔女なんじゃないか」


噂は瞬く間に王国に蔓延していった。


「やれやれ、折角姫様が救って下さったのに、民は姫様に感謝の一つもしていない」

「………………」

「ねえ、姫様。姫様を愛してくれない存在なんてこの国には不要じゃないですか?」


兵士の囁きに姫は「そうね」と一言返した。




あの日、兵士と出逢った時に囁かれた秘密は、


『僕のものになると誓って下さい。そうしたら姫様には、この国を護れる強い力をあげます』


あれは本当に悪魔の囁きだった。

それに気付いたのは恐ろしい力を手に入れ、魔女となってからだった。

けど、後悔はなかった。

だって、私を愛してくれる人が傍に居るから。


「姫様、僕だけは貴方をずっと愛していますよ」

「私も貴方だけを愛してるわ……私には貴方だけ居ればいいの」






いつか誰かが辿り着く事があるだろうか…………かつてどの王国よりも栄え、見るに耐え無いまで廃れてしまった王国……今は魔女と悪魔だけが存在する王国に。









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― 新着の感想 ―
[良い点] 童話、と呼ぶには、人間の闇の部分が描かれていて、とても生半可な者には読めない気がします(昔むかしの童話はそうだったかも知れませんが) だからこそ面白かったです。 みんな自分の幸せを願って…
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