六夜
ニュクスの享楽が始まる。
ある夜、彼女は一人で屋敷を出た。暗い闇が辺りを包む。ニュクスが闇に怯える事は無い。この闇は彼女にとって逃げ場。居心地の良い揺り籠なのだ。
「・・・どこ?」
彼女は探していた。彼女の癒し、たった一つの憩い。それは、絶対に許されるものでは無いけども。
「姫」
彼女を姫と呼ぶのはある共通点を持つ男達だけだった。彼女に癒しを、憩いを与える者達。その内の一人を見つけたニュクスは嬉しそうに駆け寄る。
まるで、少女の様な微笑みだった。
男は駆け寄るニュクスを優しく抱き締めた。その様子はまさに恋人。
ニュクスが彼の名前を呼ぶ。それが、夜の始まる合図。
噂は直ぐに広まった。不名誉なそれは様々な思惑をもって広められたのだ。だが、当人は涼しげな顔をしていた。
「あら?それが如何しました?」
噂を責められたニュクスはそう答えた。その態度に皆が愕然としたのは記憶に新しい。彼女は自身が悪いと思っていないのだ。
周囲はアトラスに求めた。彼の最初の妻との離縁を。妻ならば、アイギーナが居る。しかも、アイギーナはアイアコスの母だ。彼女だけで、妻は充分だろう。
だが、アトラスは渋った。元々、ニュクスとの結婚が果たした意味は莫大な資産だけだは無かったのだから。他の移動民族がニュクスに遠慮してエリシオンとの争いを避けたのだ。ニュクスの父は移動民族の中でも名の知れた存在だったから。
それにより、エリシオンが出来たのは国力の増加。作物を貯め、子供が育つ。
アトラスはそれを当たり前にしたかった。しかし、それにはニュクスの存在が必要なのだ。
彼女との縁が切れれば、遠慮はいらない。ニュクスの娘が居ればいいと言う者もいたが、それは無理だろう。エレボスは娘に愛情を持つ事は出来ても、見た事も無い孫に愛情は持てない人だった。アトラスは愛娘を危険に晒したくは無いのだ。それは親としての感情であり、将軍としての判断はしていない。
アイギーナはそれを聞いて笑った。ただ、アトラスらしいと微笑んだ。
そんな二人を見たクリソテミスは涙が出そうになるのを必死に耐えた。彼女はエリテュイアの世話をした事がある。直ぐにニュクスによって遠ざけられたが、僅かな暇を見て様子を見に行くのが常であった。だから、知っているのだ。娘である彼女の想いを。