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楽園夜話  作者: 如月瑠宮
本編
5/11

五夜

 ニュクスは最悪な場面を生み出した。

 彼女がした行為は許される物では無かったが、アトラスは温情を与える事にした。

 それは彼なりの罪滅ぼしだろうか。尤も、ニュクスには意味の無い物だったが。そう・・・意味など無かったのだ。

 彼女にとって、優しさは偽りとなっている。そんな物は無意味だったのだ。しかし、周囲は気付く事が出来ないだろう。何故なら、理解への道は既に閉ざされたのだから。

 そして、彼女自身も理解を求めなかった。分かり合う事に価値を見出せなかったのだ。

 彼女はただ笑う。

 笑って、笑って・・・壊れていく。崩壊は止まらない。


「こんなに美しい赤子は初めて見ましたわ」

 ニュクスの耳に入った声。声の女性をニュクスは見た。柔らかに微笑むアイギーナが居る。

「・・・美しい?そのが?」

 有り得ないと口外に言うニュクスにアイギーナは笑い掛ける。そして、侍女が抱くエリテュイアに目を向けた。そこに有るのは、実の母親よりも母親らしい優しい温もり。

「ニュクス様、宜しいですか?この()は貴女とアトラスの子供。美しくない訳がありませんわ。私の息子等、及ばぬ美貌。エリシオンの宝玉はこのエリテュイア様」

「・・・・・・」

「そうであるのに・・・母君であるニュクス様はご理解なさらない」

 まるで、我が子を自慢している様だと感じた。確かに、ニュクスは娘を可愛がる事など無かった。しかし、だからと言って他の女に母親面される筋合いは無いのだ。だが、ふと思う。

「そんなにこのを美しいと思うならば・・・貴女が母になられたら?」

 冷たい声で紡がれるのは、酷い提案。結局はニュクスが母親になる事は無いのだ。母となる事さえ放棄してしまったのだから。

 それは罪なのだろうか?

 ニュクスは娘を残して立ち去った。

「・・・・・・やはり、無理でしょうか」

 アイギーナの呟きに侍女は眉を寄せる。侍女の腕の中に居る赤子を見たアイギーナは溜息を吐く。

「こんなに・・・お美しいのは、貴方の血を引くからでしょうに」

 残念そうな声は望む人の耳には入らなかった。


 ニュクスはある日、聞いてしまった。その言葉を。

「ニュクス様も困ったもの」

「せめて、もう少し優しければな」

「笑いもしない」

「我が子を可愛がりもしない」

「酷い女だ」

 ニュクスは目を閉じた。そして、再び開いた目には炎が宿っている。その炎は暗い。

 炎は話していた者達が離れると直ぐに鎮まる。だが、一度宿った炎は燻り続ける。

 ニュクスの顔は笑みを浮かべていた。

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