参夜
ニュクスは長椅子に身を投げ出していた。今日は夫・アトラスの新たな妻がやって来る日である。名前は確か、アイギーナといったか。
どんな女性だろう。顔は彼女より美しいのか。それとも、彼女が勝っているのか。
クレウテの娘。その髪の色は周囲と同じ様な色だろう。異質な色を持たない娘がやって来るのだ。多数派に属するのは、安心感を生む。アイギーナはこの好奇に視線を浴びせられる事は無い。
羨ましいとは思わなかった。思う必要など無いからである。ニュクスにとって、彼女という存在は憎しみの対象であるべきだから。
そう・・・違う処から、同じ目的を持ってやって来たのだから。
自分達に馴れ合いはいらない。ニュクスは自身に言い聞かせた。そして、哀れみは捨てる。
数日後、ニュクスはアイギーナと対面する事になった。大広間に向かう足取りは華麗で、見る者の目を釘付けにした。彼女を蔑む者でさえ、魅了される。美を集めた様なニュクスに敵う者は居なかった。
ニュクスは嘲笑いたいのを必死に耐えなければならなかった。この場で笑い出したら、直ぐ様離縁を申し渡されるだろう。それは避けなければならない。
もう直ぐ、アイギーナが待つ大広間に着く。ニュクスは笑みを作った。余裕の笑みを。笑みは鎧である。
完璧な笑みだった。しかし、それは崩れる。
広間に足を踏み入れたニュクスが見たのは、強い眼差しの女性。誰よりも、強く輝く瞳。負けたと、ニュクスは思う。彼女の眼に敵う者など存在しないと思った。
ニュクスはそれでも、認める訳にはいかない。必ず、使命は果たさなければならないのだから。
ただ、負けを認める事はしたくなかった。それは、使命の為だけではない。一人の女としての矜持でもあった。
「ニュクス、こちらがアイギーナだ。仲良くしてやってくれ」
アトラスの言葉にニュクスは微笑んだ。優雅な様の彼女を見たアイギーナ側の者達から溜息が零れる。仕方の無い事だ。彼女の容姿は極上であり、その極上の容姿を花が咲くように綻ばせたのだから。
その綻んだ花がどうなるのかは、まだ誰も知らない。