裏町にて
港から離れた薄暗い裏町にて一人の白衣を着た女性はブツブツ独り言をつぶやいていた。
「まったく、ここは一体どこなのよ。少し人間観察に勤しんでたら兄さんはどっかに行っちゃうし、おまけになんか辛気臭いとこらに来ちゃったし。これじゃ私が無能みたいじゃない」
CERNの科学者グロリア・ピニンファリーナは親指の爪を噛みながらラヴェンナの裏町をさまよっていた。
(こういう人気のない陰気な場所は嫌いよ・・・・故郷を思い出してきちゃうじゃない。あの嫌な思い出と一緒に)
グロリアはだんだん兄と離れたことへの不安と嫌な思い出のせいで段々イライラしてきた。
「まったく、そもそもこんなところに来るほど私は暇じゃないのに。上の老いぼれ達は外に出ないからどんどん体が動かなくなってくるのよ。さっさとこんなこと終わらせないといけないのに~、ん?」
さらにイライラが高まったグロリアの前に見るからに不良の雰囲気を纏わせた数人の青年が立ちふさがった。
「よぉ、お姉さん。こんなところに散歩かい? 困るんだよね~、俺たちのシマに堂々と歩いてもらっちゃ。許して欲しいなら金目のものをさっさと・・・?」
一番前の青年が言葉を止めたのは、目の前にグロリアが落とした純金の腕輪に目が釘付けになったからだ。
明らかに貴族でなければ持ってないような腕輪を投げたグロリアは、
「ほら、これでいいのかしら? さっさと道を開けなさいよ」
と言って何事もなく歩き、青年達は腕輪のこととグロリアの雰囲気に押されて自然に道を開けてしまった。
しかし、すぐに我に返った青年達は
「ちょっと待て~い! 」
「こんなので俺らを誤魔化せるとでも思ってんのか~! 」
「どうせ偽物だろうが~! 」
「え、そうなの? 」
「いや、知らねぇけど! 」
「いっそのこともっと置いてけや~、グホッ!・・・」
グロリアの肩を掴んだ青年は顎に向かって上げられた蹴りでノックアウトした。
「なによ、あんたらは?
人がせっかく恵んであげたものを偽物呼ばわりして、挙げ句の果てに私に触れようとしたの? 」
グロリアの怒りはついに頂点に達した。
「な、なんだよやんのか? 」
「こ、後悔しても知らねぇぞー」
青年達はナイフを取り出してグロリアに向けた。
対するグロリアは
「やかましいっ、こっちはてめぇら相手にしてる暇ねぇんだよ!」
と男顔負けの迫力で言い返した。
「こ、この野郎がー」
ナイフを向けて突進する青年に
「誰が『野郎』なんだ、クソガキッ!」
青年に対し、グロリアは懐から出したフラスコを顔に向けて思い切り投げた。
顔に見事直撃してフラスコは砕け散った。
「いってー。・・・あとくっせー! なんだこれ? 」
「アンモニアも知らないのかしら、無能ね」
グロリアはうめいてる青年の顔に渾身の回し蹴りを放った。
目を白黒にして吹っ飛んだ青年。
「これで少しは頭がまともになるわよ」
少し顔を歪めるグロリア。
「大体人間の顔なんて一番骨が厚いとこなんだから蹴る方も痛いのよ。あ~イライラするっ」
・・・五分後
一人の青年を残して自らの手(脚)でノックアウトさせたグロリア。
残った青年は震えながら
「す、すいませんでした~。お、俺はこいつらの中でも一番下っ端で・・・あの・・ひぇ~」
グロリアがずんずん近づいてきたので思わず座り込んでしまう青年。
そんな青年の襟を掴んで引き上げたグロリア。
「あんたはあの中で唯一まともそうだから聞くけど港はどっちかしら?
グロリアは青年を睨みつけながら聞いた。
驚きながら青年は
「え、こ、ここをまっすぐ行けば市場に出ますから、そ、そこから港も見えると思いますよ」
「そう、あなた名前は? 」
「え? 俺はカマロですけど」
「カマロね、覚えておくわ」
そう言ってグロリアはカマロの襟を離して港へ歩き始めた。
カマロはズルズル落ちてなんで名前を聞かれたのか戸惑っていた。
グロリアは
「もし、この街を壊してもあの男は逃がしてあげようかしら」
と普通の人間では考えないようなことに思考を働かせていた。
・・・数分後
なんとか立てるようになったカマロはグロリアの投げた腕輪を貰おうと探したが、いくら探してもそれは見つからなかった。