図書館 実験室にて
「できた・・・かな? 」
薄暗い実験室で、様々な種類の器具が置いてある机の前で少年は首をかしげた。
「う~ん、これならさすがのファウスト先生も寝ちゃうよね」
少年は少し得意げに言った。
「それを使ったら先生が起きなくなっちゃうから僕は使いたくないな」
後ろからフーシェが笑顔でやってきた。
「あ、兄さん」
シラーがさらに得意げな顔になった。
「シラー、それじゃファウスト先生の面白おかしい反応が見れないし逆にみんなが悲しんじゃうよ」
シラーは「あ、確かに」
と少しがっかりした顔になった。
「僕は先生を少しの間眠らせる薬を頼んだのにそれじゃ永眠させちゃうじゃないか」
シラーは少しうつむいて
「ゴメン兄さん。いつも僕は余計なものを作ってしまうんだ」
「こんなのムダになっちゃったな」
と自分の作ったのが殺人兵器と知ってか知らずかのセリフを吐いた。
するとフーシェは
「そんなことないさシラー、君はムダなことなんて何一つしてないよ。いや、そもそもこの世界にムダなんてものは
ないんだよ」
と両手を広げてシラーに語り始めた。
「どういうこと? 」
シラーは首を傾げた。
「シラーがそれを作ったおかげで僕は君にこの話ができるんだし、それを作ったせいでシラーはそんなに眠そうなんだろう? 」
フーシェは笑いながら語った。
「まったく、その話は耳にタコができるくらい聞いたわよフーシェ」
実験室の扉に寄りかかって少女が言った。
フーシェは後ろを向いて
「ルーアン、君もサボったのかい? 」
と笑顔で話しかけた。
「お姉ちゃんの授業よりはこっちの方が面白そうだったからこっそり出てきたのよ」
ルーアンは、今しがたフーシェを叱ったアン先生の妹で好奇心が旺盛の少女だ。
「シラーもいちいちフーシェのお願いを聞いてあげるなんて親切ね、ファウスト先生が炭疽菌とか言ってたけど、ど
んな薬なの? 」
ルーアンは興味津津でシラーに聞いた。
「僕もよくわかんないや、ただこの薬がドクロのマークと一緒に本に書いてあったから作ってみたんだし」
「本に書いてあるドクロって明らかに毒薬を示してるんじゃないの? 」
唖然としながらルーアンは答えた。
「まぁいいわ、二人共このあとは暇? 」
「僕は毎日が暇だよ」
とフーシェ。
「僕は、眠いからちょっと眠りたいかな・・・」
遠慮がちにシラーが答えた。
「よし、二人共暇なのね。じゃあこれから一緒に劇場に行きましょうよ。噂だと外国から来た人達が大きな船のなか
で劇をするらしいわよ」
ルーアンはシラーの言葉など聞こえなかったかのように言った。
「えっと・・・僕のセリフ聞こえてた、ルーアン? 」
ルーアンは頬を膨らませて
「なによう、女の子の頼みが聞けないっての? 」
フーシェは
「シラー、せっかくルーアンが誘ってくれたんだから行こうよ、じゃないとルーアンが泣いちゃうよ」
シラーは欠伸をしながら
「ふぁ~あ、わかったよ、でも劇ってお金がかかるんじゃないの? 」
ルーアンは自信を持って
「そこは大丈夫よ、お姉ちゃんがなんでか知らないけど昨日三人分のチケットをくれたから」
ルーアンは三枚のチケットを二人に見せた。
「さぁ、二人共行くわよ~、もう授業も終わったと思うから堂々と外に出れるわ」
そそくさと外に出ていったルーアン。
「劇って人を楽しませるためにやるお芝居だよね、見るの初めてだから楽しみだな~」
フーシェも笑いながら続いた。
「劇の最中に寝ないように気をつけないと」
シラーがまた欠伸をしながら出ていった。
危ない薬品を後始末もせず、机に放置したまま。