プロローグ
「イタッ」
という声とひっぱたかれるようなバシっという音が室内に響いた。
叩かれた少年フーシェは笑いながら叩いた女性に目を向けた。
「アン先生痛いな~、今ので先生がストレス解消できたなら僕は嬉しいけど、その様子じゃまた小じわが増えるよ」
その声に周りの少年たちも笑い出した。
それを一喝するように
「うるさい! まずは私の授業で寝ていたことに対して謝りなさいフーシェ! 」
とメガネをかけた緑髪の女性、アンはまた持っていた本でフーシェを叩いた。
対して金髪で笑顔の少年フーシェは
「だから先生、そんな風に怒るとまた小じわが・・・、ごめんなさい」
今度は本の角ではたこうとしたのでフーシェも素直に謝った。
アンは今にも叩こうとしたが構えたが、それを抑えた。
「全くもうあなたは。何のためにこの部屋にいるの? 」
ここは「ラヴェンナ」と呼ばれる港町の唯一の図書館でとある一室。町の住人はこの部屋の存在は知っているがあまり近づこうとしない。その主な理由はそこでは「錬金術」や「魔法」というものが日々行われていると噂されているからだ。
「騒がしいな、子供相手にムキになってどうする」
部屋全体が本棚に囲まれた部屋、その入口に立っているにはこの図書館の館長で、立派な髭を自慢してる老人だった。
「ファウスト先生、すいません」
と頭を下げるアンの傍ら、
「やぁファウスト先生。今日こそは先生の髭を真っ白から、真っ青に染めさせてよ」
とフーシェが笑いながら話しかける。
それに対して館長は、
「ワシをからかっている暇があったらさっさとシラーの奴を止めてこい。あいつはまた実験室で何か作っているぞ。 見たところ、おそらく炭疽菌だろうな」
その言葉にアンは目を丸くした。
「炭疽菌って、殺人兵器じゃないですか! なぜシラー君を止めないのですか! 」
ファウストは難しい表情で、
「あいつがワシの言葉をまともに聞いた試しがあったかね。シラーを止められるのはフーシェだけだ」
フーシェは立ち上がって、
「しょうがないな~シラーは、あんなの作っても誰も笑わないってのにさ」
そしてファウストの横を通り過ぎる時に、
「ヒゲのことは諦めないからね」
と笑顔で言って走り去って行った。
その言葉にファウストは、
「寝言は寝てから言うものだ」
と渋い顔をして言った。
アンは本を開いて、
「さぁフーシェ君はいなくなったけど、授業は続けるよー」といって授業を再開した。
しかし、 その声が届いてない一人の生徒は既に部屋から静かに出てフーシェのあとを追った。