第八章〜「親友」〜
俺達は千葉県警察署に向かう事になった。そこで車山は千葉県警察署で働いているらしい。
俺は夜井さんが走らせる車の中で事件のファイルを眺めていた。
殺されたのは土井薫、28歳。職業は警察官で少年犯罪対策課で勤務。仕事熱心で正義感が強く、近いうちに刑事に昇格をする予定だったそうだ。
事件の日は昼から巡回に出たまま、行方不明になっていたらしい。
発見されたのはその日の夜。死体になって発見されたわけだ。
死因は絞殺。ロープの跡が首に残っている。この点については俺は驚かされた。俺はてっきり刺殺されたものだと思っていた。
つまり、絞殺された後刺殺されたわけだ。
相当恨んでいたのだろうか・・・。
次に俺は今から会いにいく車山敏のファイルに目を移した。
車山敏。28歳。交通安全課に勤務。真面目な人できちんと仕事をこなしている人らしい。事件の日、この人も昼から巡回しに行っている。しかし、ちゃんと夕方頃には巡回を終え、また夜に巡回と、仕事熱心な感じが印象づけられる。
「なんで、車山は土井さんを殺したんだろう・・・」
「知りたい?」
隣で運転している夜井さんが俺の独り言に反応した。
「当たり前じゃないですか?!人を殺すにはそれなりの理由がありますよ」
「じゃあ久々に『彼』に頼みもうかな?」
「『彼』って誰ですか?」
「私の仕事仲間よ。あと一人いるのよ」
「えっ?!まじっすか?てっきり夜井さんと王間さんだけで仕事していたと思ってましたよ」
「私一人で弁護士の仕事は難しいの。せめて五人以上は必要なんだけど、私が気に入った人しか置かないから、全然、人いないのよね」
あんたのわがままのせいじゃんかよ・・・。でも気になるな。
『彼』って。
変なオタク美人弁護士、知的ハッカー大学生の次か・・・。
「さぁ、着いたわよ」
気が付いたらもう警察署に着いていた。
「はじめちゃんは、マザコン刑事に会って車山から話を聞かせてほしいと頼みなさい。私は『彼』にちょっと依頼したいから」
「いや、待って下さい!何で俺が・・・」
「アルバイト中でしょ?」
「はい・・・」
「大丈夫。ちゃんと私もすぐに行くわよ。」
俺は仕方なく、夜井さんから事件のファイルを渡され、先に車から出て警察署の中へと吸い込まれた。
―警察署内―
俺は受付で風岡刑事を呼んだ。
「荒波くん〜。
どう?(笑)上手くいってるかい?」
「まぁまぁですよ。あの、頼みたい事があるんですけど・・・」
「なんだい?」
「交通安全課の車山さんと話したいんですが・・・」
「何を話すの?」
「それは・・・」
「大丈夫だよ!僕は君の味方なんだからさ〜(笑)聞かないでおいてあげるよ。交通安全課の車山ね。了解!ここの二階に談話室があるからそこで話しなよ〜」
俺は風岡さんの言う通りに談話室で話す事にした。
―警察署内談話室―
「夜井さん、遅いなぁ・・・。すぐに来るって言ってたのに」
俺は一人で談話室にいた。風岡さんは車山を呼んでいる。
俺はだんだん、かなりの不安が心の中で渦巻き始めた。今から真犯人と話すと決まると怖くてたまらない・・・。
だって、そうだろう?相手は殺人犯かもしれない。
そうなら、下手な事をしたら何をしてくるか分からないのに・・・。
俺は夜井さんがなんとかしてくれるのだろうと思い込んでいた。しかし、この状況は俺自身がなんとかしなくてはいけないのだ。
「お待たせ。荒波君。こちらが車山さんだよ」
ドアから風岡さんと車山が入ってきた。車山はきちんと制服を着て正に警察官という感じだ。背は俺より少し大きい。体格はがっちりしていて、眼鏡をかけているが、似合っていないな。
「はじめまして。荒波一君」
「どうも」
「じゃあ僕は用事があるから(笑)」
と風岡刑事は部屋を出ていってしまった。あの野郎・・・。俺をとんでもない状況に置きやがったた・・・
車山は挨拶をすますと椅子に座り、話を切り出した。
「君は警察官殺人事件の時の・・・」
「はい、助けてくれてありがとうございます」
「いや、警察官の仕事として当然の事をしたまでだよ。それで今日は私にお礼しにきたのかい?」
「いえ、聞きたい事があってきました」
この時、俺は覚悟を決めた。あの娘。桃原空菜さんを助けるために・・・
「聞きたい事?」
「あなたは事件の日、何をしてましたか?」
「別に仕事をしていたよ。何故君がそんな事を聞くんだい?」
「僕はあなたが犯人だと思っています」
俺はなんてバカ正直に言ってるんだろうと心で嘆いていた。
「君ね、大人をナメるのも・・・」
「質問に答えて下さい。お願いします!」
俺は車山の話を遮って頭を下げた。
「・・・仕事をしていたよ。あの時は交番での仕事があったから忙しかったのは覚えてるな。聞きたい事はこれでいいかい?君ね、私が犯人とか失礼な事を言ってはいけないよ」
「はい・・・。気をつけます」
俺はふと車山の手を見た。指にはマメができているのだろうか。絆創膏がたくさん貼られていた。
「どうしたんですか?その指?」
「あぁ、これは仕事でね・・・」
「仕事?」
「力仕事みたいなもんだよ」
何かおかしいな。そんな指がマメになるほど何をしていたんだ?
「もう話はすんだかい?私はこれで失礼するよ」
車山は立ち上がった。
「待ちなさい」
ドアから夜井さんが入ってきた。
「夜井さん!」
「ごめんね、迷子になってたわ」
「大事な時に何やってんですか?!」
「しょうがないじゃない。迷うもんは迷うもんよ」
「あの・・・あなたは?」「失礼しました。車山さん。私は弁護士の夜井と申します」
「君も私を犯人と訳がわからない事を言うのかい?私はちゃんとアリバイもあるんだよ」
「なら、その手のマメは何ですか?」
「これは仕事で・・」
「何の仕事ですかね?しっかり説明してもらいたいわ。」
「警察官は下働きが多いんだよ」
車山さんはいらいらしながら言った。
「分かりました。質問を変えてあげます。あなたは殺害された土井さんと高校の同級生だったんですか?」
「それは・・・」
車山は驚いた顔で夜井さんを見た。
「嘘をついても無駄ですよ。調べれば簡単に分かる事。しかも大学も同じで、警察学校も同期生。土井さんを知らなわけないですよね?」
「・・・・・・」
沈黙が部屋の中で続いた。
夜井さんはとんでもない人だ。あっさり立場を逆転させ、警察官を尋問している。しかも車山が土井さんと同級生の情報には俺もびっくりした。どこからそんな情報を手に入れたんだ?
「土井は私の親友だ。土井を殺したやつを私は許さない・・・。帰ってくれ。君達に話す事はないんだ」
車山は苦しい顔をして言った。
夜井さんは言葉を聞いて何か考えた表情を見せた。
「わかりました。あなたの頼み通りに帰りましょう」
「夜井さん!何言ってるんですか?!」
「はじめ、帰るわよ」夜井さんに鋭い目で睨まれ、俺達は仕方なく帰る事になった。
警察署内から出た俺は夜井さんに不満をぶつけた。
「なんで帰ったんですか?!あの人絶対何か隠してますよ!」
「あのタイプの人はね、決定的な証拠を見せないと口を割らないのよ」
「証拠?決定的な証拠なんて見つかるはずないじゃないですか?!手がかりもないのに・・・」
「手がかりならあなたが見つけたじゃない?」
「俺が?何を?」「彼の指のマメよ」
「指のマメ??」
「いい?この事件の謎は何故、あの公園なのか?何故、桃原空菜はあの場所で意識を失って倒れていたのか?この二つがキーポイントなの。空菜ちゃんの事はまだ分からないけど、公園の事は説明出来るわ」
「本当ですか?!」
「私の推測にすぎないけど、犯人をまず車山に仮定するわ。はまず彼が土井さんを殺害した後、遺体を隠そうとしたの。でも遺体を隠すのは大変。しかも自分の仕事をしている最中だった。遠出して山でも、川でも棄てようとは普通は思うけど、仕事中は無理よ。
そうなると、自分のアリバイを作るにはどうすればいいか?簡単よ。自分の職場の近くに死体を隠せばよかったの」
「そうか。それなら、アリバイが作れる。じゃあ車山が勤務している警察署の近くに?」
「それが風岡に聞いたんだけど彼、つい最近交番での仕事に戻りたいと志願して交番勤務になったの。しかも例の公園の近くでね」
「でも土井さんの死体はもうバレてるじゃないですか?発見されないように隠そうとしたんですよね?」
「彼が隠そうとしたのは彼が犯人と言える決定的な証拠よ」
「じゃあ公園にその証拠が・・・」
「あるわね」
「待って下さい。結局、車山さんの指のマメとこの公園の事とどう関係しているんですか?それに公園って言ってもあそこは結構広いですし、そんな証拠らしいものなかったですよ。
埋めたんじゃあるまいし・・・」
俺は自分の言った言葉によって理解された
「まさか証拠を埋めたんですか?」
「そう!埋めたのは彼を犯人と決める決定的な証拠を埋めたのよ。しかも相当な力仕事をしてね。その時になれない事をして指にマメを作ったんでしょう」
「でも、何故マメを作ってまで埋めたんですか?それに埋めなくても捨てたり出来るじゃないですか?」
「そこが私の中でひっかかってるのよね・・・。仕方ないわ。証拠発掘にでも行きましょう!」
「今からですか?!」
「今からよ。夜になったら面倒だし、今から一仕事、頑張りましょうね」
「マジっすか・・」
「さぁ行くわよ。」
俺達は車に乗り込み、例の公園に再び向かう事になった。