第七章〜「犯人の名前」
「おはようございます、はじめ君」
下から降りてきたのは王間さんだった。
服装は昨日着ていたものと同じ。室内にもかかわらずニット帽を被っていた。目は充血していて眠たそうでもある。
「おはようございます。王間さん。あの、朝食作ったんで良かったら食べてください」
俺は味噌汁に御飯と納豆、焼き魚、玉子焼きという定番な日本の朝食をテーブルに並べた。
「はじめ君、見た目より随分料理が出来るんですね?」見た目は余計ですよ・・・確かに料理出来なさそうな顔してますけどね・・・
王間さんは俺が朝早く起きてしまい、とてつもなく暇だったので作った朝食を黙々と食べ始めた。
「今日ははじめ君、夜井姉さんと一緒に仕事して下さい。」
「仕事って今度は何を調べるんですか?」
「決まってるじゃないですか?犯人ですよ」
王間さんは眠たそうに俺の質問に答えてくれた。
確かにあの娘を救うには犯人を捕まえて、無実を証明すればいい話なのだ。ただそう簡単には出来ない話なわけだけど・・・
「おはよう。みんな」
夜井さんが上から降りてきた。仕事服である黒いスーツを着ていていた。準備万全のようだ。
「おはようございます。例の書類、全部片付けときましたから」
「ごめんね〜、わざわざ徹夜にさしちゃって」
「大丈夫ですよ、今日は午前授業なしですし。
私は朝食食べたら寝る事にします」
「わかったわ。」
夜井さんはテーブルの上にある朝食に目を向けた。
「へぇ〜おいしいそうな朝食じゃない?はじめちゃんが作ったの?まぁ私が作った方が断然うまいけどね」
料理が出来るなら自分の事務所ぐらい片付けられる立派な女性になれよ
朝食を食べ終わると王間さんは夜井さんにさっき話していたファイルを渡し、事務所の上に上がっていった。
夜井さんは中をバラッと確認し、何かを理解したようだ
「さて、まず現場に行きましょう」
事務所を出たのは朝9時過ぎ。
王間さんは今日は一日中寝るそうだ。
俺は事務所の外に出ると赤い高級スポーツカーがそこには置いてあった。
どこでこんな高級車を出してきたのか俺には全く理解出来なかったので夜井さんに質問したら
「私は四次元ポケットを三枚もあるのよ」
と誤魔化されてしまった。
車が道をひたすら走らせる間、俺はふと心にひっかかっていたある質問をする事にした。「夜井さん、一つ聞きたい事あるんですけどいいですか?」
「なぁに?彼氏は募集中よ?」
「そんな事じゃないですけど、どうして夜井さんはこんなに人のために頑張れるんですか??」
あまりにも失礼な質問だとわかっていたが、俺他人様のためにそこまで頑張るのが面倒くさいと感じてしまう。いちいち人にかまっていたら、時間がないものだ。でも夜井さんは俺のために、いや他人のために頑張って助けようとしている。夜井さんは俺の人生の中でも珍しいタイプの人なのだ。
車内は俺の一言でしばらく沈黙になったが、
夜井さんはしっかりその重い口を開けた
「じゃあ、あなたは何故あの娘、桃原空菜を助けるの?」
「それは・・・」
「好きだから?頼まれたから?あなたの答えはどちらもでしょ?私はね、人間っていう生き物が大好きなのよ。そりゃ嫌いな人もいるし、憎たらしい時もある。だけど人に頼まれたり、助けを求められたりしたら、私は必ずその人を全力で助けようと思ってるわ。私は人を助ける事によって自分がここで生きてるって実感出来るのよ」
夜井さんは笑って言った。
「あなたも近いうちに分かるわ」
俺はいつ理解出来るのだろうと考えてしまった。
「さぁ、着いたわ」
公園に着いたのは10時5分。近くに車を停めて俺達は立ち入り禁止のテープを無視して公園の中に入った。
この公園は広く、周りは森に囲まれていて、遊具もしっかりしていて豊富だ。この公園から家が近い俺は小さい頃、よくここで遊んでいた。ただ、高校生になってからは初めてだけど。
砂場があるのは公園の中央に位置している。砂場の砂がすっぽりなくなっている。
「警察が犯人の髪の毛とかがないか探すために全部砂は回収したのよ」
横から夜井さんが話しかけてきた。
「それで何かわかったんですか?」
「出てくるのはただの血が混じった砂よ。見つけるのは至難の業」
俺は空っぽになった砂場を見つめた。
「さて、ここに来た理由は現場検証。
あなたが事件の日に見た事、感じた事を全部話して」
「そう言われても、前に話した通りですよ」
「なら私から質問させてもらうわね」
「あなたは事件の日、悲鳴を聞いてこの公園に入った。そしてここで死体と桃原さんを見つけた。それからどうしたの?」「死体見るのって初めてで、驚いてただ黙って見てました」
「空菜ちゃんは??」
「彼女も黙って死体を見てました」
「つまり二人とも腰抜かしちゃったのね?」
「はい・・・」
「じゃあ、いつ警察を呼んだの?」
「いや、俺じゃなくてパトロールしている警察官が俺を見つけて呼んでました」
俺はこの事を言った時、心に何かが引っかかったと感じた。なんでだ?何かおかしいぞ・・・。
「あなたは実際、危ない状況にいたのよ。」
そうか、夜井さんの言葉で俺は理解した。
「そのパトロールしてた警官が・・・」
「真犯人の可能性が高いのよ。この公園は夜だと公園の外から中を見ても木々に囲まれているから、見る事は出来ないの。見るには入口と出口から入らないとしっかり確認出来ないのよ」
「つまりその警官は公園にずっと隠れて、俺達を見てたんですか?!」
「そういう事になるわね。まさかとは思って、昨日の夜、冬美に県警のパソコンにハッキングしてもらって、事件の日の出勤記録、パトロール記録、事件に出動した人の名前と顔を調べて、アリバイがない人が三人該当したのよ。これ見てくれる?」
夜井さんは俺にファイルを渡した。そこに警察官の服装をした男が三人。
「わかる??」
俺は必死に思い出していた。俺は必ず顔を見たのだ。確かその人は・・・・・・・・・・
「・・・メガネをかけてました。
優しく声をかけてくれた人です。」
「はじめって良い記憶力してるわね。あなたのおかげで一歩真実に前進よ!」
三人の警察官のうち、メガネをかけていたのは
「車山敏・・・」
俺は犯人の名前をまたつぶやいた
「じゃあ会いにいくわよ〜」
夜井さんはニヤリと笑った。
都合上で一時的に休載して申し訳ないです
読んでくれたら幸いです