第四章〜「高校生と弁護士の契約」〜
「荒波一です。」
俺は彼女の質問に答えた。彼女は寝起きのパジャマ姿、頭の寝癖も酷い状態でいかにも怠そうな感じだった。
「ちょっと待ってて、着替えてくるから」
そう彼女は言い残すと事務所の奥へと吸い込まれていった。
「あの人が、ここの事務所の弁護士さんか?」
俺は頭の中で想像していた人は男で眼鏡をかけていて、いかにもがり勉ですよという人を頭の中で描いていたのだ。まぁこの変な趣味からして、まともな人ではないと感じていたわけだが・・。
俺が考えにふけていると、全くといって別人のような彼女が事務所の奥から現れた。
くしゃくしゃだった髪をポニーテールにし、黒い女性用のスーツを着ている。よく顔を見ると美人である事は間違いない。また体型は女性雑誌のモデルさんに負けないくらい綺麗だ。
俺は彼女の姿に思わず見とれてしまった。彼女は彼女専用のデスクに座り口を開いた。
「私は夜井姫菜。26歳。職業は弁護士。趣味はプラモデル作り。お勧め漫画で『突撃機関車トマス』よ。アニメは、ほぼ全部大好きよ」
俺は確かにあんたの事は知りたいが、あなたそこまで聞いてねぇよ!と俺は静かに心の中で叫んでいた。
「で、何であなたはここにいるの?」
彼女はこちらを真っ直ぐ見た
「俺、助けたい人がいるんです。」
「それで私の所に訪ねてきたわけね?誰からの紹介なの?」
「千葉県警の風岡刑事さんから・・」
「風岡ぁ??あのマザコン刑事の野郎、私をまた巻き込むつもりかしら」
と夜井さんは頭を抱えていた。
「とりあえずどんな話なのか私に全力で話しなさい」
全力の意味がわからないが、とりあえず俺はこれまでの事を包み隠さず話した。
夜井さんは本当に頭が良い人なんだなと感じた。聞き上手というべきだろ。彼女は冷静に話を聞いてくれた。彼女の頭には俺の話を聞いて何を思ったのだろうか。
俺の話を聞き終えて、しばらくしてから夜井さんは口を開けた。
「まずいわね・・。その記憶がない美少女ちゃんは不利な状況よ」
「えっ?!でも風岡さんは大丈夫って・・」
「いい?今回あなたが巻き込まれた事件はとても大きなものよ。そこは分かってる?」
「もちろん分かってますよ。」
「警察ってのは世間体を異常に気にする体質なの。警官が殺されたってのは警察にとっては大きなダメージよ。
そこで挽回のため少しでも可能性がある者を捜すわ。あなたの話を聞く限り、疑いがあるのはその記憶がない子だけになるの。あれから随分時間がかかっているのに、何の手掛かりも見つからない。容疑者も定まらない。もしこのままこの状態が続いたとしたら、私が警察側ならその娘を起訴する事にするわ」
「何を言ってるんですか?!彼女はアリバイはないですけど、彼女は頭を誰かに殴られてるんですよ?」
「その美少女、確か無痛症って言ってたわね」
「はい、そうらしいですけど?それがなにか問題が・・・」
「大問題よ。いい?常識的に考えると、10代後半の少女が、警官を殺害出来るかしら?まず、無理よ。力の差が違うわ。でも、彼女は無痛症というある意味、その力の差をうめてくれる体質がある。彼女は頭を殴られようが痛みを感じる事はない。つまり被害者はどんなに抵抗しても、彼女の前では無意味と証明出来てしまうの。『彼女の頭の怪我は被害者を襲った時に、被害者が抵抗してつくったものです』って話せるしね」
俺は言葉を失った。確かに夜井さんの話してる事は正しい。だけど俺にはあの娘が簡単に人を殺せるような人とは思えない。
「何、暗くなってるのよ?誰も助けられないなんて言ってないじゃないからね。」
「じゃあ助けられるんですか?!」
俺は期待の眼差しで彼女を見た。
「当たり前じゃない?でも助けるためには私達が頑張らないといけないわ。」
「俺達が頑張る?」
「そう。彼女を助ける方法は一つ。頑張って真犯人を捜して、私達がそいつを裁判所に突き出してやるのよ」
と満面の笑顔で俺に言った。
口で言うのは簡単だが、かなり難しい事である。だがどんなに希望が小さい話でも、希望がある話という事には変わりはない。俺はあの娘を助けられるのだと思い、自然に嬉しさが心に駆け巡った。「それでいくらで私と契約してくれるの?あなたは記憶のない美少女ちゃんの代理人でしょ?この場合依頼料の請求はあなたでいいのよね?」
夜井さんの言葉で俺はフリーズしてしまった。そうだ。世の中は何事もお金が必要なのだ。今頃、気付く俺をただのアホと言われても仕方ない。
確か俺の財布にあったのは、約6500円くらい・・・。一般高校生の所持金なんてたかが知れてる・・・
「しょうがないわね〜。依頼金はあなたがここでバイトして払いなさい。そうすれば大丈夫でしょう?」
夜井さんは笑って真っ青になっている俺に言った。
「ありがとうございます!俺一生懸命頑張りますよ〜」
「じゃあ契約成立ね。」
夜井さんは右手を差し出した。
「はい。よろしくお願いします」
俺はその手を握った。
「さてと、あなたはもう帰りなさい。明日から学校でしょう?学校が終わったら真っ直ぐ事務所に来て、色々手伝ってね。明日から本格的に動くしね」
「分かりました。じゃあ今日は失礼します。」
「バイバイ〜。」
と夜井さんは手を振った
俺は帰り仕度をして事務所を出た。
外はすっかり夜になっていた。俺はこの人に会えてよかった。あの娘を助けられると心の中で思いながら帰り道を歩んだ
少し話を訂正さしてもらいました。
ご理解よろしくお願いします