第7話 想定外の事態
あるから数十分後。
だいぶ教室内の空気も和やかになってきていた。
「おっ。今回は俺の勝ち〜」
「くそっ!今度こそ、負けんぞ」
・・・なんなら、騒がしい。
この学院も大概だけど、この状況で遊べてる僕らの方も結構狂ってるのでは?
とかっていう、恐ろしい考えが一瞬頭をよぎったが、気にしないことにする。
まあ、そんな僕らの平和な時間は、すぐに終わりを迎えたのだが。
ガチャ。
何気なく、誰かが引き戸を引いた。
「……え?」
そのまま、扉が開いた。
「……あれ?」
「え、開くんだけど」
空気が、凍りついた。
「は?」
「……嘘だろ」
「さっきまで開かなかったよな?」
廊下の音が、一気に流れ込んでくる。
足音、怒号、叫び声。
その瞬間。
「開いたぞ!!」
「逃げろ!!」
廊下を走り抜けていく、他クラスの生徒たち。
「うわっ!?」
「ちょっ、待て!!」
次々と、中央棟の方へ走っていく背中。
その光景を見た瞬間、僕の背筋が凍った。
——違う。
そっちは……。
「やばい!!」
思わず叫んだ。
「そっちは中央棟だ!!」
でも、声は届かない。
パニック状態の生徒たちは、ただ“出口がある方向”へと走っていく。
「……最悪だ」
ルーサが顔を歪めた。
「中央棟で戦闘してるって放送で言ってたのに……」
「止めなきゃ……!」
僕は立ち上がった。
「待て、ルシェル!」
「なんで!」
「僕、まだ名付け一回分は使える!」
「そもそもお前は一回しか使えねーだろ!」
「13が行ったところで、死ぬだけだって!」
「侵入者、名付け能力者なんだぞ!?」
分かってる。
分かってるけど。
「……フロアが施錠されてるって言ってたけど、教室の扉は開いてる。
だったら、あっちも閉まってる保証なんてない!」
「危なすぎる!」
「やめろ!!」
でも、もう止まれなかった。
俺は廊下に飛び出した。
「ルシェル!!」
背後で誰かの声がしたけど、振り返らずに走った。
階段を駆け下りる。
中央棟へ続く通路へ向かって。
——その途中。
「……っ!?」
階段の踊り場で、血の匂いがした。
倒れている生徒。
その上に、長い腕を伸ばす影。
「な……」
侵入者だ。
フロア内に、もう入り込んでいる。
「……あれ〜?」
歪んだ笑顔。
手には、鈍く光るナイフ。
「君も一年生?
この子もだよね〜? 全然対応できてなかったしさ
まあ、ちょっと遊んであげるよ」
ナイフが、僕に向く。
「……っ!!」
僕は必死に走った。
狭い階段。
追いかけてくる足音。
——違う。そっちじゃない。
・・・あの子を助けなきゃ行けないのに……。
でも、僕の体は全く言うことを聞かなかった。
そして、
ガンッ!
大きな音がした直後に、全身が床に叩きつけられた。
——足を滑らせた。
その事実に気づいた頃には、もう遅かった。
長い腕が伸びてくる。
鋭利な刃先が、迫る。
反射的に、目を瞑った、
のだが、
・・・何も起きない。
恐る恐る目を開ける。
「えっ?」
思わず声が出た。
だって、そこには、
侵入者が倒れていたのだから。
その前に立っていたのは、息を切らした男の人。
・・・知らない顔。
「君ら、大丈夫!?
ていうか、なんで外出れてんの!? 施錠は!?」
「……え?
あっ先生ですか?」
男は一瞬きょとんとしたあと、苦笑した。
「あー、ごめんごめん。そういや何も言ってなかったね」
そして、手を差し伸ばしてくる。
「僕はダウト。一年とは初対面だね。
ちゃんと教師だから安心して」
——-助かった……。
その言葉を聞いた瞬間、温かいものが駆け巡って、体の感覚が一気に戻ってきた。
ダウト先生は、怪我をしていないか、聞いてくる。
———怪我?
真水を上からぶっかけられたかのように、一瞬で頭が冷えた。
・・・あの子は?
僕が見た時、血を流していた。
「先生っ!上にもう1人いて、血を流してるんです」
「えっマジで!?」
先生は素っ頓狂な声を上げた後、急いで耳元に手を伸ばした。
そして、小声で何かボソボソと言っている。
「・・・その、血を流していた子って茶髪の子だった?」
「えっあっ、はい。多分……」
「さっき確認したらその子の方には他の先生が行ってるっぽかったから大丈夫。
傷も結構浅かったって」
「そうですか……」
なら、よかった。
いや、ちょっと待て。
本当によかったのか?
怪我してるのは事実だろ?
ダウト先生は、耳に手を当てて、また、小声でボソボソ言っている。
さっきまでは聞こえなかったけど、少しだけ内容が聞き取れた。
「施錠、やっぱりのいてます。
フロア内に侵入されてました」
やっぱり、施錠は最後までしておくつもりだったのかな……。
ってことは、
先生たち、施錠がのいてたこと知らなかったのでは?
まあ、安全管理はやってるって言ってたもんな。
実際は、少なくとも1人怪我し、安全もクソもないんだけどね。
うん。やっぱ、この学院おかしいな。
———来るんじゃなかった……。
冗談抜きで思う。
どこの世界線に、校舎内にわざと敵を入れて、挙げ句の果てに生徒に怪我させる学校があるんだよ。
狂ってる。
どう考えて狂ってる。
もう、明日から引きこもろう。
寮に。
そんなことを考えていると、
「了解です」
と呟く声が聞こえて、ダウト先生がこっちを見た。
「地下行こっか」
「・・・え、でも地下って、生徒立ち入り禁止って……」
ダウト先生は驚いた顔をして言った。
「え、なんで知ってんの?
一年って昨日入学したばっかでしょ?」
「クラスメイトから聞きました」
「君2組?」
「あっはい」
「じゃあ、あの子かなー。
名付け能力者の家系の子だし、知っててもおかしくはないか……」
ダウト先生は顎を触りながら、何かを考えている。
「ま、いっか。
とりあえず、ついてきて」
僕は黙って、頷いた。




