第5話 ルシェルの災難
その日僕らは理解した。
そして後悔した。
———こんなとこ来るんじゃなかった…。
と。
まあ、
半ば強制的に連れてこられたようなものなので、後悔するというのもなんだか違う気がするが……。
◎
「あー、疲れたー」
「もう……。無理」
チャイムが鳴った瞬間、教室中から疲れ切った声が聞こえてくる。
「やりすぎた……」
入学2日目にして、僕らは、ヘトヘトに疲れていた。
授業は座学、実習はなかったにも関わらず、だ。
理由は単純。
昼休みに、名付けで遊びまくったからだ。
◎
「おお、すげえ。
どんだけ破いても、破れねえ紙ができたぞ!
ほら、見てみろ」
目をキラキラさせながら、ロースが実演する。
が、無惨にも……、
「・・・破れたね」
はい、残念。
「あれ?さっきは成功したのに」
「あんた、ついにそんな幻覚まで見るようになったの?」
おお、言わずもがな、ルーサは辛辣だな。
・・・そのうち誰か泣くぞ?
「いや、もう一回だ。ほれ、いくぞ!」
と、何度も挑戦している。
・・・名魂切れても知らねーぞ。
成功すれば、した分だけ名魂が削られるというのに……。
まあ、でも、失敗するだけなら名魂自体は消費されないからなー。
理論上は、挑戦するだけだったら何度でもできちゃうんだよな。
まあ、そもそも論として成功しようが失敗しようが、根こそぎ体力と気力は持っていかれるので、どっちにしろキツイけど。
でも、どっちにせよ、僕には関係のない話だ。
だって、僕、そもそも一回分しかできないし。
一回でも使って成功させたら、その瞬間、僕はその日は動けなくなる。
13だぞ?
他のクラスの一年に昨日寮で聞いても、こんな数字のやついなかったぞ?
悲しすぎる。
まあ、他のみんなは思う存分挑戦していたけどね。
・・・最低でも20は欲しかった。
そんな僕の嘆きをよそに、教室内はどんどん、騒がしくなっていき、
結局、チャイムが鳴った頃には、皆、名魂を使い果たしていた。
一部の名魂温存組を除いて。
まあ、ルシェルはそもそも数値が数値なので、温存せざるを得なかっただけなのだが。
「僕も、やりたかった……」
ほら、本人もこう言ってるし。
◎
そして、今に至る。
ほぼクラス全員が、暑い夏に溶けたアイスのようになっており、ホームルームに入ってきたブル先生は言わずもがなの呆れ顔である。
「お前らなぁ……。
名付けはオモチャじゃないんだぞ」
先生は大きくため息をついた。
「名付けは燃料制だと言っただろう。考えなしに使えば、そりゃ枯れる」
「だって楽しかったんですもん……」
誰かがそう呟くと、教室のあちこちから同意の声が上がる。
「机に『超絶頑丈』って名付けたら壊れなくなったし」
「水筒の中の水は『噴水』になった」
「ノートが『絶対に破れない』になった」
「……お前らは本当に学ぶ気があるのか?」
ブル先生は額を押さえた。
「まあいい。今日はこれで終わりだ。
さっさと寮に戻って休め。
明日は筋肉痛と頭痛で動けなくなるだろうがな」
「えぇ……」
「それと———」
先生はドアに手をかけてから振り返る。
「名魂は命綱だ。遊びで使い切るな」
そう言い残して、教室を出ていった。
その瞬間、、、
「……よし、寝る」
「動けん」
「帰寮?無理」
ボロ雑巾のようになった僕らは、誰一人として立ち上がる気配を見せなかった。
僕も正直、限界だった。
一度も名付けはしていないので名魂自体は消費していないが、それとこれとは別だ。
僕は、普通に授業で疲れた。
なんていうんだろう。
思い出したくもないが、精神を削ってくる授業だった。
……本当に、思い出したくもないが。
「なあルシェル……今日の晩飯、俺の分も取ってきてくれ……」
「いや無理だよロース。僕も歩くのしんどい」
「じゃあ誰かおぶってくれ……」
「帰れ」
そんなくだらない会話をしていた、
その時だった。
———キィィィィィン……ッ
耳をつんざく不協和音が、学院中に響き渡った。




