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名付けの檻  作者:
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第4話 測定結果、返却

 入学式終了後、昼食を終えたルシェルたちはクラス別にそれぞれの教室に向かっていた。


一年生は1クラス12名の3クラス構成で、ルシェルは2組。


教室に着くともうすでにブル先生が待っていた。


全員が席につくと、先生が話し始めた。


「さて、入学式前は名付省から来た国の犬どもが彷徨いていたため、碌に自己紹介もできていなかったな。

改めて、私は ブル・ゴエモン。

この2組の担任である。


入学を無事に終え、国の犬どもが帰った今、この学院の最高権力者は我々教員である。


よく肝に銘じておくように。

私からは以上だ。

貴様らの自己紹介が終わり次第、授業を開始する。


さっさと終わらせろ」




・・・なんか、薄々感じてはいたけどこの人やばいな……。




名付省の人って話を聞いた限りではエリートだったはずなんだけど……。


その人たちを、国家の犬呼ばわりか。


ねえ。先生、知ってる?


名付け能力者に関する都市伝説っていうのがあるんだけどね、


そこでは、先生たちのような教師も一応、国に従事するエリートの職員、先生が言う、国の犬扱いなんだよ?


無論、ルシェルからしたら所詮都市伝説だったため、今まで全く信じていなかったのだが。



「なんだ?黙ってないでさっさと自己紹介をせんか」



うん。



やっぱこの人、やばい。


しかも、これ絶対、入学式前よりも機嫌が悪くなってるよね?


まあ、とは言ってもこのまま誰も何も言わないままだと、何を言われるのかわからないので一応名前だけは言っておくことにした。


「ルシェル・ソーン です。

えっと、よろしくお願いします?」


誰か1人が拍手をしたことで、まだらに拍手が起こった。


僕が話したことで、他の子も話しやすくなったのだろう。


そこからは、ポツポツと名前が聞こえてきた。


「ギミック・ルクス……帰りたい」


「ソマリ・ブレイユ」


「ロース・ハウゼンだ。よろしく!」


「えっと、メルフィア・キースです。よろしくお願いします」


あれ?


あの子、初日に話した子だ。


メルフィアっていう名前だったんだ。


へえー。


「私は、ルーサ・シーソー。私と同じクラスになれるなんて、あんたたち、よかったわね。喜んでいいわよ」


うわ。


なんかすごいのがいる……。


でも、つかみはバッチリだな。


僕もなんか工夫して自己紹介すればよかったな。


その後も、一部ヤバそうなのはいたものの、自己紹介は続いていき、何事もなく終わった。


紹介が終わると、教室の後ろの方で腕を組んで壁にもたれかかっていたブル先生が、教卓の前まで移動してきた。


「さて、終わったな?」


先生は教卓の上に置いてあった封筒の束を持ち上げるとヒラヒラと振った。


「次に行くぞ。


今から、入学式で行った名魂の測定結果を返却する。

自分の名前が呼ばれたら、取りに来い」



・・・あ、来た。



これ、絶対みんな気にしてるやつだ。


名魂。


名付け能力者の燃料であり、才能の指標。


高ければ高いほど有利で、低ければそれだけ不利。


「ソマリ・ブレイユ」


「はい」


「ロース・ハウゼン」


「おっ、きたきた」


「メルフィア・キース」


「は、はい!」


次々と名前が呼ばれ、皆んなは前に出て紙を受け取っていく。


受け取った直後、ちらっと数字を見て、


「おっ」


「まあまあかな?」


「……ふーん」


と、それぞれ微妙な反応をして席に戻っていった。



・・・まあ、数値だけ教えてもらっても、そもそも基準がわかんないからな〜。



自分のがすごいのかどうかも判断つかないのだろう。


そして、


「ルシェル・ソーン」


来た。


前に出て紙を受け取り、自分の席に戻る。


深呼吸して、そっと紙を開く。


そこに書かれていた数字は、、、




[名魂値:13]




「……13?」


思わず声が漏れた。


見間違いかと思って、もう一度見る。



13。



どう見ても13。



・・・いや、低くない?



いや、落ち着け、僕。


まだ分からないぞ。


もしかしたら、10段階評価なのかもしれない。


僕のこれが低いのかどうかはまだ分からない……はず。



「おっお前どうだった?ちなみに俺52」



「私は、47でした……」



・・・低かった。



希望は潰えた。


いや、まだ、まだだ。


たまたま、周りが高かったパターンかもしれない。


が、そんな最後の希望もすぐに潰えた。




「ちなみにだが名魂はトレーニングを積めば積むほど伸びる。

だから、まあ、低くてもそう落ち込むな」




先生が僕をみているような気がするのは気のせいだろうか?




・・・やめてくれ。




僕から希望を奪わないでくれ。


「先生。だったら、平均はどのくらいなんですか?僕、28なんですけど……」


ギミックが手を挙げて、そんなことを聞いている。


「平均はだいたい30付近だな。

まあ、お前ら1年はどれだけ高くても50付近だから安心しろ。

俺もそれ以上の数値は見たことがない」


「そんなんですね。・・・まあ、死刑ではないか」



ギミック!?



なんてことを言ってくれるんだ?


28で死刑なら、13はなんなんだ。



即処刑か?



「・・・ルシェル君?」



メルフィアが心配そうにこちらを見てくる。



「だ、大丈夫?」


「う、うん……たぶん……」



まったく大丈夫じゃない。


むしろ終わった。


完全に負け犬スタートだ。


名魂は使えば伸びる。


でも最初の数値が低いと、そもそも使える回数が少ない。



・・・えっちょっと待って。



これ、詰んでね?


「ま、まあ最初は誤差みたいなもんだって!」


ロースがフォローしてくる。


「そうそう!ここから伸びるんだよ!」


「……誤差にしては低いけどね」


ルーサが追い打ちをかけてくる。



やめて。地味に刺さるから。







 ルーサの追い打ちを受けて、教室の空気が微妙に気まずくなったところで、ブル先生が、パン、と手を叩いた。


「湿っぽいのはそこまでだ」


そのまま教卓の前に立ち、面倒くさそうに言い放つ。


「名魂の数値は才能の指標ではあるが、それで全てが決まるわけではない。

伸ばす努力をしないやつは、どれだけ数値が高かろうと落ちこぼれる」



先生はそう言ってから、ちらりとこちらを見る。



・・・やっぱり、見てるよね?



「逆に言えば、低かろうと使い続ければ伸びる可能性はある。まあ、相応の根性は必要になるがな」


それから、先生は教卓の横に置いてあった大きなケースを開いた。


中から取り出したのは、金属製の盾だった。


ずっしりと重そうな、いかにも、普通の盾、という見た目だ。


「さて。次は実演だ」


その瞬間、教室の空気が一気に変わった。


さっきまでの沈んだ空気が、ざわっと色めき立つ。


「名付け能力とはどういうものか。言葉で説明するより、見せた方が早い」


先生は盾を床に立てかけると、懐から拳銃を取り出した。



・・・え?



ちょっと待って。


いきなり銃?


「まずは何もしていない状態からだ」


そう言って、先生は盾に向かって引き金を引いた。


乾いた銃声が教室に響く。


弾丸は真っ直ぐ飛び、盾に命中。



ガンッ、と鈍い音を立てて、盾に穴を開けた。



「おお……」



誰かが小さく声を漏らす。



「見ての通り、ただの盾だ。防御力はそれなり。銃弾は防げん」


先生は次に、盾に手をかざした。


「よく見ていろ」


そして、短く言葉を紡ぐ。


「———硬化」


瞬間、盾の表面が淡く光った。


「もう一度だ」


再び銃声。


だが今度は弾丸は弾かれ、床に転がった。


「おおおおっ!?」


「すげえ!」


「今のが名付け……!」


教室が一気に騒がしくなる。


先生は肩をすくめた。


「これが名付けだ。対象に名前を与え、その意味と役割を固定する。

そして、名付けられた対象はその名にふさわしい存在になろうとする」



そう言ってから、ニヤリと笑う。



「では課題だ。この盾を最強の盾にしてみろ」



———最強の盾。



一気に教室がざわついた。


「楽しそー」


「えっいいじゃん、やりたいやりたい!」


「え、でも、まだやり方ちゃんと聞いてないんだけど……?」



「やり方か……。


そうだな、先ほど、私が何か唱えたことに気付いたものは?


あれは、詠名という行為だ。

これをしないことには名付けは使えん。

そして、詠名とは、術者のイメージを言葉にしたものだ」



先生は淡々と続ける。



「文言に正解はない。だが、具現化できなければ意味がない。さあ、やってみろ」



・・・無茶振りすぎない?



そう思いつつも、クラスの何人かはすでに前に出ていた。


「じゃあ、俺から!」


ロースが盾の前に立ち、深呼吸をしてから叫ぶ。


「———最強の盾!」


盾は、何も変わらなかった。


次の瞬間、先生が撃った弾は普通に貫通した。


「えっ」


「失敗だな」


「いやいやいや!今の絶対それっぽいじゃん!」


「イメージが雑だ」


次はメルフィア。


「———っ絶対防御!」


盾は少しだけ光ったが、弾は普通に貫通した。


「……だ、だめでした」


「抽象的すぎる」


「じゃあ俺!」


ギミックが前に出る。


「———鉄壁!」


今度は少し硬くなったのか、弾はめり込んだものの、完全には止まらなかった。


「お、惜しい!」


「惜しいが、最強ではないな」


そんなやり取りが続き、名魂を使い果たして座り込む生徒が増えていく。


「もう一回やらせて!」


「名魂足りない!」


「頭ふらふらするんだけど!?」


次々と名魂切れで倒れていく生徒たち。


「ちょ、名魂ってHP制だったの!?」


「RPGじゃんこれ!」


ブル先生は淡々とまとめに入る。


「今ので分かったことを言ってみろ」


誰かが指を折りながら言う。


「名付けには限界があるっぽい」


「数回使ったらできなくなった」


「曖昧な名前はダメっぽい」


「盾は盾だから攻撃系は多分無理」


「無茶苦茶なやつは通らない」



ブル先生は腕を組んで頷いた。



「まあ、大方その認識で構わんだろう。

だが、いくつか補足させてもらう。

まず、盾に攻撃系の名前を授けてもうまくいかなかったのは名と、それを名付ける対象に相性というものがあるからだ。

いくら名付けても性質を変えることはできん。


あと無茶苦茶なやつは通らないとか言ってる奴もいたな。

それは、名は世に存在する概念からしか選べないからだ。


毎年、この時期の一年は、


名はなんでもありの超絶能力、


などといった理解不能な勘違いをしている阿呆がいる。

もし貴様らの中にそんな輩がいるのであれば、今すぐにその認識を改めろ」


先生は盾を掲げると、笑みを浮かべた。



「さて、改めて問おう。この盾を最強にするにはどうすれば良いと思う?」



僕たちは顔を見合わせた。



「みんなでいっぱい名付けるとか?」


「……名魂、足りなくない?」


「でも、片っ端からかけまくるしか思い浮かばないけど……」


「全員でやっても無理ゲーだろ。

だって、俺なんて数回使っただけでヘトヘトなんだぜ?」


自然とみんなの視線がブル先生に集まる。


「そういうことだ。名付けは万能じゃない。だが、」


銃をしまい、生徒たちを見据える。


「使い方次第で、戦争の流れすら変えられる力だ」


講堂に、静かな緊張が落ちた。


「だから国は、お前たちを育てる」


その一言で、僕たちはようやく自分たちがどんな場所に来たのかを理解した。







 ・・・最強の盾、か。


みんなの意見を聞きながら、僕はさっきの授業を思い返していた。


絶対防御。


ダイヤモンドの盾。


鉄壁。


どれも間違っていないはずなのに、弾は普通に貫通した。


理由は単純だ。


先生が言っていた通り、「最強」という概念が重すぎるからだ。


だったら、どうする?


防御力を上げる?


硬さを極限まで高める?


弾を弾く性質を持たせる?


・・・いや。


それって、全部「弾を防ぐ」前提の発想だ。


でも、そもそも、


弾が当たらなければ、防ぐ必要なんてないんじゃないか?



いや待てよ……。



あるいは、、、



「ルシェル、どうしたんだ?」



気がつくと、ロースが心配そうに僕を覗き込んでいた。




「いや、なんでもない。ちょっと考え事してただけだから」




「あんま思い詰めんなよ、数値が悪くたって、俺はお前の友達だぜ?」



・・・あっそっち?



ごめんなさい。


全く別のこと考えてました。


でも、そうだよな。


俺の数値じゃ、一回出すのギリギリだもんな。


燃費悪すぎるし。




あとで先生に名魂の伸ばし方教えてもらおう。




「そうだね。ありがとう」




ていうか、



・・・こいつの友達認定早いな。



僕ら、今日入学式でほぼほぼ初対面だよね?



まあ、そんなこと言う必要がないと思ったのでルシェルはそこはツッコまなかったが。


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