第3話 入学式!
「これより、ノクターン王立総合学院、入学式を挙行いたします。
新入生、入場」
その言葉を合図に、真新しい制服に身を包んだ新入生たちがキビキビと講堂に入ってくる。
女子は白いリボンのついた紺色のセーラー、男子は真っ黒な詰襟の制服で両者とも胸には学年章と学院章が光っている。
どの子も皆、背筋をピン、と伸ばし、名付省の国家職員に見守られながら入ってくる。
「2、4、6、8……36。今年は36人。やっぱ、ちょっと少ないかな?」
講堂の二階部分で男2人が話をしていた。
2人とも中に着ている物こそ違うものの、同じような短めのマントを羽織っており、片方の男は新入生の頭を頭上から数えながら、楽しそうに口角を上げていた。
「いや、こんなもんだと思いますよ」
対してもう片方の男は、なんてことない、とでも言いたげな様子でだらしげに柵にもたれかかっている。
「去年はもっと少なかったでしょう」
「まあ、それはそうだけどさ〜
っと、あっぶねー」
男はプシュっという音と共に、溢れないようにすぐにジュースを流し込む。
2人のうち、片方はスマホのようなものを弄りながら新入生を見下ろしており、もう片方は柵によたれかかって缶ジュースを開けている。
すぐ下では厳かな式典が行われていると言うのに、2人ともそんなことはあたかも行われていないかのような態度だ。
「それはそうと、ブル先生、一年団でしょ?しかも、担任じゃなかったっけ?行かなくていいの〜?」
下を見るともう既に新入生の入場は終わっており、式は呼名に移っていた。
新入生の名前が呼ばれるたびに、制服の銀ボタンがキラリと反射して輝く。
それを見ながら、ブルと呼ばれた男は鼻を鳴らした。
「統括も、毎年やってるんだからもうわかっているでしょう?
こういった行事は国が主体なので、行ったところで……ね。
まあ、名魂の測定ぐらいは見に行ってもいいですが」
「まあ、あれも結局データ全部取られるしね」
「どちらにせよ、式中はあいつらの元には行きませんよ。
行く意味あんまないですし、ここの方がよく見えます」
「そうだね〜。毎年、こういう行事は教員は関係ないしね〜。
・・・変な話だよね。学院の入学式なのにそこの教員が関われないって」
「今さら言っても仕方ないでしょう……。
私が学生の頃からそうでしたし」
統括と呼ばれた、男は缶ジュースを片手にニヤリと笑う。
「でも、明日から可愛がってあげるつもりなんでしょ?」
「・・・細かい教育に関しては、現場に一任されてますからね。
登録が終わったら、後はもう……、こちらの領分です」
彼らは不敵に笑っていた。
◎
「これより、名魂の測定を行います。名前を呼ばれた新入生は壇上へ」
———きた!いよいよだ。
いよいよ、名魂の測定が始まる。
ルシェルはこの項目が楽しみで仕方がなかった。
昨日、担任の先生からこの説明を受けた時は嬉しさで跳ね上がりそうになった。
名付け能力者にとって、名魂の数値を知ることは自らの限界を知ることと同意義だ。
この数値は本人の努力次第で伸ばすことも可能だが、反対に、サボっていればすぐに落ちる。
だからこそ、最初の数値を知ることほど重要なことはない。
真面目にやれよ。
という風に、先生は言っていた。
先生の話を聞く限りでは、どうやら、名付け能力というのは、そもそも、
対象の意味と役割を固定する行為
であり、
名付けられた対象は、
その名にふさわしい存在になろうとするらしい。
まあ、難しくて言っている意味はよくわからなかったが、その辺りは授業で詳しく教えてくれるらしい。
まあ、簡単に言うと、名付けることによって、色々炎を出したり、水を出したりっていうかっこいいことができるらしい。
そして、名付けるのには名魂というものを消費するらしい。
自分の限界がなんとかって言ってたのは、多分、一度に名付けることができる数とかに制限があるのだろう。
そして、この名魂の測定が終わり次第、僕らは正式に国家に名付け能力者として登録される。
この登録が終わるまで、学院からは出られないという話だったので、シンプルに嬉しい。
何が嬉しいって、それが1番嬉しい。
そんなことを考えていると、ちょうど前の列の最後の子が席に着くのが見えた。
もうこんなところまで順番が来ていたらしい。
「続いて2組。ルーサ・シーソー」
いよいよ、僕ら2組の順番が来た。
測定ってどうやるんだろう?
他の子達が壇上で、何か機械のようなものを握らされているのは見えるが、具体的に何をしているのかはここからはよく見えない。
壇上にいる軍人のような格好をした人たち……、多分、国の役人だと思う、が、一人一人、手際良く記録を取っていっているように見える。
「コルン・サース」
うわ……。
隣の子が席を立った。
やばい。
ちょっと緊張してきたかも……。
自分の番が迫ってくるにつれて、自分の心臓の音が強く聞こえるようになっていくのがわかる。
「ルシェル・ソーン」
立ち上がった瞬間、一気に顔が熱くなったような気がした。
そのまま、まっすぐ引かれたカーペットの上を歩いていく。
自分が鳴らすコツコツ、という足音と、式典服のようなものに身を包んだ怖そうな人たちの視線が相待って、息が早くなる。
壇上に繋がる3段ほどの階段に差し掛かると、一気に視界が眩しくなった。
そのまま、落ち着いた足取りを意識して前に進む。
壇上に着くと、1番偉そうな服を着た人が握力を計る機械のようなものをこちらに差し出してきた。
「力は入れなくていい。軽く握って」
———軽く握る
失礼がないように気をつけて受け取ると、言われた通りに軽く握る。
———力入れない
力を入れないでいいとは言われたものの、緊張のせいで手が強張って、意識しないと力一杯握りしめてしまいそうだ。
・・・なんか、嫌だ
唐突にそう思った。
なにか、足りない。
そんな気がする。
機械を握って記録が出るのを待つだけ。
ただ、それだけの行為のはずなのに、いい、と言われるまでの時間が、とてつもなく長い時間のように感じた。
・・・おかしい。
他の子も、こんなに時間はかかってなかったはずだ。
自分の体感時間が長いだけなのか、はたまた、本当に時間がかかっているのかその判断が僕にはつかなかった。
「ああ、もういいよ」
そう言われて、僕はゆっくりと機械を返して、そのまま壇上を後にした。
「……すごいな……こんなことが……」
去り際に、なんだか不穏な言葉が聞こえていたような気がするが、気にしない。
・・・うん。気にしない。
気にしちゃダメだ。
まだ、数値自体は聞いていないんだから良い方の可能性もある。
こういうのは、気にしないのが1番なんだ。
彼がその結果を聞いてその心が挫けそうになるまで、あと数時間。




