表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名付けの檻  作者:
2/10

第1話 マジか……

 開いた口が塞がらない。


・・・マジかよ。


手紙の内容を疑いまくっていた数時間前の自分に教えてやりたい。


これ、ガチのやつだった って。


「こんばんは。君の担当者の セシル・アークロイト です。

これから君を学院まで案内するんだけど、ご両親はいらっしゃるかな?」


マジできた。


……本当にきた。


玄関前で軍服のようなものを着た背の高い男の人が自分に笑いかけている。


なんだか、前にも同じようなことが玄関前で行われていたような気がするのは気のせいだろうか?


・・・気のせいだと思いたい。


どこかの誰かさんと同じような道を歩んでいるだなんて、考えたくもない。


「えーと……。大丈夫?」


セシルさん?だっけな、が、困ったように目尻を下げて、僕に話しかけていた。


「あっごめんなさい。大丈夫です。ただ、ちょっと驚いていて。

初めてのことだったので……」


あっぶね。


全然話しかけられてるのに気づかんかったわ……。


セシルさんは一瞬悲しそうに目を細めたが、すぐにまた笑顔に戻った。


「で、ご両親は?」


「いません。ここには、数年前から僕1人です」


「あっ……なんか、ごめんね」


一瞬間が開いた。


セシルさんの哀れむような表情が辛い。


「全然気にしてないので大丈夫ですよ。それよりも、今から行くんですか?だったらさっさと行きましょう」


居心地が悪くなった僕はさっさと会話を切り上げた。


ただでさえ、これからのことを考えると頭が痛いのに、これ以上僕の頭痛が悪化するような話題を持ち出さないでほしい。


本当に。


デリカシーって言葉知ってる?


セシルさん。


僕は内心セシルさんに毒づきながら、その背中を追って歩き始めた。





 だいぶ歩いたな……。


森の中のちっさな村に住んでいた身としては、街に降りるだけでも大冒険だ。


全てが真新しく感じる。


周りを見渡せば、村では絶対に見なかったような赤煉瓦作りの立派な建物が立ち並んでいる。


何より、道がすごく安定している。


村の、獣道なのか、小道なのかもわからぬような、適当な道ではない。


きちんと舗装された道だ。


これなら、何時間歩いても足が棒になることはないだろう。




まあ、それはそうと、僕にはさっきから気になることがあるのだが……。




「それで、学院ってどこにあるんですか?」


「それわざとだよね?知らないって言ってるよ。僕。何度も」


笑顔がすっかり消えて不機嫌さ丸出しの顔のままバッと勢いよく振り返ったセシルさんは迫力があってなかなか見ものだ。


あちゃー。


ちょっとしつこかったかな?


怒っちゃったよ。




でもね、考えてみてほしい。


案内するとかって言っておきながら、本人がその場所を知らないって……。


ちょっと……というか、かなり問題があるのではないだろうか?




そう思って聞いたのに、


怒り出すなんて……。


「セシルさんひどいですね」


「うるさい!何度も言わせるな!」


まあ、ちょっと調子に乗って聞きすぎたのは反省してるけど。



「お前なんか軽くないか?」



それ抜きでも、この人結構ひどいと思う。


さっきの笑顔は何処へ?


そう思うのは、仕方ないと思う。







 「っと。この辺りかな……?」


突然、セシルさんが立ち止まった。


大通りから外れて、今は薄暗い路地裏のような場所にいる。


しかも、前は行き止まり。



・・・どういうことだろうか?



一体全体なんでこんなところで立ち止まったのだろうか?


「道にでも迷ったんですか?ここ行き止まりですよ?セシルさん、もしかして、ちょっとボケ……」


口を手で覆われたため、その先は言えなかった。


ちょっと言いすぎたかな?


言いすぎたにしても、そんな手で口を押さえなくてもいいのにと思う。


そもそも、最後まで言い切れてないのだが………。


抗議の声を上げようとして、僕は気づいた。



なんか声がしてる……。



ザーザーという機械音の中に、微かに人の声が紛れている。


セシルさんもそれに気付いたのだろう。


片手は僕の口を押さえたままだが、もう片方の手で何か薄っぺらい機械のようなものを操作している。


「12:00 セシル・アークロイト 新入生を連れて参りました」



うん?



なんだ。お前もそっち側だったのか。


年頃の男子としては、悪の組織との戦闘が始まるのではないか? とか、これは……もしや!?何かかっこいいことが起こるのでは? とか、思っていたのだが、現実はそううまくはいかないらしい。


どうやら最初からここに連れてこられる予定だったようだ。


セシルさんが、薄っぺらい何かの端末を操作し終えると、こちらを向いた。


「君さぁ……。君の声のせいで危うく通信が聞こえないところだったんだけど。頼むから、黙っててくれない?」


懇願されてしまってはしょうがない。


そして、僕が調子に乗って、ボケたのでは? とかってことを言おうとしていたことには気づいていないらしかった。


まあ、聞かれてないならいいや。


そして、なんかごめんね。


ちゃんと反省してますよ、とでもいうかのように、申し訳なさそうな表情をとりあえず貼り付けておいた。


どこからか大きく息を吐くような音が聞こえてきたが、気にしないことにした。


「君さ、絶対反省してないでしょ……」


僕が本気で反省していないことに気づいたようだ。


まあ、いいじゃないか。


この年で、本気で反省したことある奴なんて、多分いないと思うよ。


そんな僕の様子を見たセシルさんは、諦めたような様子でこれからのことを話し始めた。







 「えーと、つまり、セシルさんが言っていることを整理すると、

今から学院に向かうけど、ちょっと場所知られたくないから眠っててくんない?

ってことになるんですけど合ってますか?」



「合ってる。めっちゃ軽い感じにはなっているけど……。

まあ、その認識で大差ないよ」



「わかりました。えっと、どうやって寝ればいいですかね?

セシルさんが子守唄でも歌ってくれるんですか?

それなら、僕は嬉しいな」



セシルさんの目が見開かれて、動きが止まった。



頬に当たる夜の風が心なしか痛い。



あれ?僕、なんか変なこと言った?



「どうしました?」



僕の言葉でハッとしたように、セシルさんが動き出した。


「あぁ。ごめんね。眠るのはすぐだよ。

ちょっと、この薬で眠ってもらうだけ。


・・・怖くないのかい?」


「怖い?なぜです?」


セシルさんは、別に悪い人ではない。


そのぐらい、僕でもわかる。


セシルさんは困惑しているようだった。


頭をぽりぽりとかいて、まるで、理解できないとでもいうかのようだ。


「いや、だって……。君は、手紙が来てからここに来るまで、大した説明がされていないのに……。

僕は今まで同じように新入生を案内してきたことが何度もあるけど、どの子も怪しんでついて来てくれなかったり途中で逃げ出そうとしたり、って感じで君みたいな子は初めてだ」


まあ、そうだよな。


普通、あんな手紙が急に来て、その日のうちに案内するのでついてきてください って言われても信じられないよな。


信じられる要素ないし。


「僕の場合は考えないほうがいいですよ。

多分、今までセシルさんが会ってきたような子の反応が普通だと思いますから。

僕は……、いえ、なんでもないです」


これは、まだ、言うべきことではない。


「学院。楽しみです。早く連れて行ってください」


僕はとにかく、さっさとこの話を終わらせたかった。


本当に、どうして今日はこうにも、頭が痛くなるような話題ばかりが出てくるのだろうか?


セシルさんも、ある程度知っているはずだろうに。


今日初めて会った時にしていたような困った笑みを浮かべているセシルさんに早くするように促す。


「ごめんね」


その言葉が聞こえたのを最後に、僕の意識は沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ