第14話 どうしろと???
指差す先。
そこには———。
食材の山に混じって、明らかに方向性の違うものが無造作に置かれていた。
薄い札。
木札のようなそれに太い字で一文字ずつ何かが書かれている。
粘。
膨。
破裂。
甘。
辛。
「・・・」
ロースが顔をしかめた。
「……は?」
ルーサの頬がひくりと引きつる。
「いやいやいや。ちょっと待って。何あれ。明らかに食材じゃないでしょ」
机を見回しても、どこもかしこも同じような状況。
肉はある。
野菜もある。
小麦もある。
——でも。
「塩は?」
誰かが言う。
「胡椒は?」
「油は?」
「水は?」
カチ、とコンロを捻る音。
火はつかない。
一瞬の静寂。
ロースが横で叫んだ。
「調味料ないのにどうやって調理しろと!?」
「ガスも水もないってどういうこと!?」
「飯って言ったよな!?」
一斉に騒ぎ出す一年。
その騒ぎをふっと小さな笑いが切った。
ダウト先生が手をぱん、と一度だけ叩く。
「うるさいなあ。
誰が“普通に調理しろ”って言ったの?」
机の札を一枚、指先で弾く。
“甘”。
「今回の課題は調理じゃないよ」
ルシェルが眉を寄せる。
「……じゃあ何なんですか」
「応用」
にこ、と笑う。
「名付けの」
空気が変わった。
名付け。
でも、名付けと調味料がないことがうまく繋がらない。
ロースが低く唸った。
「……意味わかんねえ」
ダウト先生は気にせずに机を順に指差していった。
「酸。甘。辛・・・。
調味料に変わりそうなのはいっぱいあるね。
確かにこれは食材じゃない。
でも、これで味を作れるかもね」
ルーサが目を見開く。
「素材の性質の範囲内で名付けをすれば、その性質を増強することができるってこと?」
「そうだね。限界を見極めるってこと」
ダウト先生はさらりと言う。
「考えてごらん。砂糖に辛味は足せないね。でも玉ねぎの辛味は増やせるよね?」
みんなの顔に納得の色が浮かんでいく。
ロースがボソッと呟いた。
「肉を極端に甘くはできないけど、旨味を膨らませることはできるってことか……」
ダウト先生が笑みを深めながら時計の針をさした。
「制限時間は9時まで。
覚えておいて。
名付けは万能じゃないし、素材の限界は越えられない。
でも、触れられる範囲はある
それを見極めてごらん」
僕の喉がひくりと鳴ったのが分かった。
ダウト先生が大きく息を吸った。
「はい、じゃあ始め!
・・・って言いたいところなんだけど、その前に1人紹介しておきたい人がいるんだよね。
君らのサポートをしてくれる先輩だよ。僕のクラスの子なんだ」
先生がそう言い終わった瞬間、食堂の奥の扉がぎい、と重苦しい音を立てて申し訳程度に開いた。
誰かが入ってくる。
思い足音。
ゆっくり。
ゆっくり。
入ってきたのは———、
「カイ・ハウジング」
ボソッと呟いた彼の顔色は言わずもがな悪い。
でも笑っている。
不気味だ。
「……一年のサポート、ですよね?」
引き攣った顔で下手くそな笑みを浮かべている先輩の声は見事なまでに枯れている。
・・・地下ホールで騒いでいた人と同一人物だとは到底思えないほどに。
先輩の姿を認識したダウト先生は軽く手を振る。
「うん。じゃっよろしく」
一年の誰かが小声で言った。
「え、あの人死にそうじゃない?」
ハウジング先輩は聞こえているのに、笑顔のまま。
マジで不気味なんだけど……。
ねえ、何があったんですか?
あの元気はどこにいったんですか?
でも……、
「何作ります?」
その問いに三十六人の胃袋が同時に鳴った。
そうだよね。
ハウジング先輩のことは、気にしなくていいかもしれない。
だって、、、。
ご飯は食べたい。
なんとしてでも。




