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名付けの檻  作者:
第一章 特別訓練編
13/15

第12話 特別訓練 スタート

特別訓練編スタートです。

 廃棄棟の5階、窓の割れた長い廊下。


埃の匂いと古びた木材の軋む音。


そこに、三十六名の一年生が無造作に座らされていた。


クラスも席順も関係ない。


ごちゃ混ぜだ。


「この訓練の目的はただ一つ」


低く、腹の底に響く声が廊下を震わせる。


「名魂を増やすこと。それ以外は不要だ」


腕を組み、壁際に立つブル先生の視線が、一人一人を舐めるように通過する。


「瞑想訓練を行う。精神統一により名魂の器を拡張する。———だが」


僅かに口角が上がった。


「それだけでは遅い。貴様らの伸びは、あまりにも遅い」


ざわり、と空気が揺れる。


「よって、本日より特別メニューを課す。瞑想と同時に、体力増加訓練を行う」


体力増加と瞑想を同時に行う、、、?

嫌な予感しかしない。

全員の背筋を冷たいものが通った。


「集中が切れた者。息が乱れた者。姿勢が崩れた者。即座に廊下全力疾走だ」


「は、廊下って……この長さをですか?」


廊下は異様に長い。


一直線。


逃げ場もない。


「当然だ」


ブル先生は瞬き一つしない。


「始め」


その一言で、三十六名が目を閉じた。


静寂。


呼吸を整え、意識を内へ沈める。名魂の器を広げる感覚を掴もうとする。


だが———。


「そこ。呼吸が浅い!」


怒号が飛ぶ。


「30往復!」


数人が飛び起き、一斉に全力で廊下を駆け出す。


足音が響き板張りの床が軋む。


ドンドンドンドン。

床に直に腰を下ろしているため足音と共に数人分の振動が一気に体を駆け巡った。


くそっ!!!

こんな状況で集中なんてできるわけないだろ!


「はい、そこアウト。ルシェル、お前は50往復な」


「はい!えっなんで!?」


「13のままでいいのか?」


「よくないです!」


「じゃあさっさと行け!」


教室に背を向け、走り出す。

数回繰り返したところで、息が上がり始める。


ああ、くそっ……。

今何回目だろ?


壁に到達。


くるりと方向転換。


太腿に鈍い悲鳴が走る。


減速と加速。


止まりかけた身体を無理やり捻じ曲げ、再び全力疾走。


「姿勢が崩れておる。走れ」


「息が荒い。走れ」


「今、雑念がよぎったな。走れ」


気付けば、廊下を走っているのは一人や二人ではなかった。


半数。


やがて三分の二。


最終的にまともに座っていられたのは数人だけ。


残りは死に物狂いで廊下を往復していた。


「なんでこんなことしなきゃいけないんだ!」


「名魂増やすために決まっておるだろう。何度も同じことを言わせるな」


「このっ……鬼教師め!なんで僕らだけっ?」


ブル先生はゆっくりと首を傾げた。


「心外だな。私の記憶では貴様らは先程の実践演習で我々教師の指示を破って外に出た挙句の果てに碌に対抗も出来ずに一方的にやられかけた無能だった気がするのだが……。そんな貴様らを私が直々にしごいてやろうと言っているのだというのに……鬼教師呼ばわりとは……」


視線が一人に止まる。


「コルン、お前あと三十往復追加な」


「はあ!?なんでっ……鬼!」


「優しい私を鬼と罵った罪でコルンは更に五十往復追加」


「増えてる!!」


「とにかく、その名魂量じゃ何もできん。負荷かけまくって増やしまくれ」


足が鉛のように重い。


方向転換のたびに、膝が悲鳴を上げる。


「なんで僕らだけなんだよ……!」


ブル先生は鼻で笑った。


「ああ、上級生の方がいいのなら、そっちに行ってもいいぞ? 二、三年はダウト先生、四、五、六年はエリナ先生にそれぞれ指導を受けているわけだが……自力で帰ってこれるなら構わん」


「何してるんですか?」


「そんなに気になるなら見てくればいいだろう……。二、三年は三階、四、五、六年は確か一階でやってたはずだ。行きたければ行けばいい。ただ、私の監視を抜けられたらの話だが」


一瞬の沈黙。


「行けるわけないだろ!!」


三十六人の絶叫が廊下に響いた。


「では走れ」


その日、まともに瞑想できていたのはほんの数名。


他は全員、走り続けていた。


名魂を増やすため。


潰れる寸前まで。

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