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謎解きお年玉

作者: ウォーカー

 正月の三が日と言えば一年のはじまりであり、

どこの家でも親類である家族と家族が集まる貴重な機会だろう。

ここ山崎家でも、祖父と祖母から孫たちまで、親類一同が集まっていた。


 山崎家では新年の宴会の真っ最中。

祖父と祖母が使っているこたつ机に長机を付けてもまだ足りない。

それくらいの人数の親類が集まって、おせち料理を肴に談笑していた。

大人はそれで満足だが、

酒が飲めない子供たちにとっては、

正月の親戚の集まりなど、むしろ退屈で仕方がない。

普段は遠い場所に住んでいる、同年代の親類に逢えるのが楽しみではあるが、

子供たちだけで出かけることもできず、大した遊び道具もない。

大人たちの酒臭い笑い声を聞きながら、子供たちは退屈に過ごしていた。


 酒が飲めない子供たちにとって、正月の親類の集まりは退屈なもの。

それでも顔を出すのは、親に強制されたからだけではない。

正月には子供だけが楽しみにしていることがある。

そう、あれだ。

子供たちは機を見計らって、笑顔で声を揃えて言った。

「あけましておめでとう。お年玉ちょうだい!」

この時だけは、子供たちも満面の笑顔。

大人たちも酔いが回っていて、財布の紐も緩くなるというもの。

「おう、お年玉か。しようがないなぁ。」

そうして子供たちは、家族ごとにお年玉をねだって回った。


 山崎家には、三人の子供がいる一家がいた。

それぞれ名前を一郎、二郎、三郎と言った。

一郎は中学生、二郎は小学生、三郎は幼稚園に通う歳だ。

この三人の兄弟も、お年玉目当てに大人たちにねだっていった。

「伯父さん、伯母さん、お年玉ちょーだい。」

「ほら、お年玉だ。無駄遣いするんじゃないぞ。」

「うん、ありがとう。太一伯父さん!」

三人の兄弟は、お年玉袋を貰う度に、行儀よくお礼を言っていった。

他の親類の子供たちも同様で、

子供たちはお年玉を貰う時だけは行儀がよかった。

そうして子供たちは正月に付け込んで、大人たちにお年玉をせびっていった。

子供がいない家を除けば、大人にとってお年玉は持ちつ持たれつだ。

他所の家の子にお年玉をあげた分だけ、我が子がお年玉を貰ってくる。

だから大人たちの財布の紐は緩かった。子供たちは大喜び。

しかし、山崎家でのお年玉はそれだけでは終わらなかった。


 正月は子供が大人からお年玉を貰うもの。

お年玉を貰った子供はただただ嬉しい。

だがこの山崎家では、それだけでは終わらない。

子供たちに畏怖されている存在がいた。

その名を、悠路ゆうじ伯父さんと言った。

この悠路伯父さんは変わり者で、普段は世界中を旅している。

そして毎年、風変わりなお年玉を用意しては、子供たちを困らせていた。

通常、お年玉と言えば、お年玉袋の中に現金が入っているもの。

しかしこの悠路伯父さんは、お年玉を現金で簡単には渡してはくれない。

例えば、お年玉袋に仕掛けがしてあって、

仕掛けを解かないと中身が取り出せないようになっていたりする。

その仕掛けは、渡す子供の年齢に合わせているとはいえ、難解な仕掛けで、

子供たちは悠路伯父さんのお年玉のために、毎年、謎解きに挑んでいた。

時には謎が解けずお年玉が取り出せないと、泣き出してしまう子供もいた。

そのため、悠路伯父さんは、大人たちに呆れられ、今では変人扱いだ。

今年も山崎家の子供たちに、悠路伯父さんのお年玉が謎解きを挑んできた。


 「どう?わかった?」「わかんないよー!」

悠路伯父さんのお年玉を貰って、あちこちの家族の子供が頭を抱えている。

やはり今年の悠路伯父さんのお年玉も、一筋縄ではいかないようだ。

一郎、二郎、三郎も、他の子供たちと同じように、知恵を絞っていた。

三郎が受け取ったのは、お年玉袋が入った箱だった。

箱にはカウントの付いた押しボタンがあって、注意書きが書いてある。

「お年玉の金額の分だけ、このボタンを押せ。」

三郎が試しにお年玉の入った箱を振ってみる。

すると、紙の音がするだけで、硬貨が入っている気配はない。

「じゃあこの箱の中はお札だから、少なくとも千円札、

 開けるにはこのボタンを千回も押さなきゃいけないの?うぇ~!」

三郎のお年玉は年相応に謎は単純なのだが、解くのに多大な労力を必要とした。

三郎は必死にボタンを叩き続けていた。


 三郎がボタンを叩き続けている横では、

二郎が悠路伯父さんのお年玉に挑んでいた。

二郎が悠路伯父さんから受け取ったお年玉袋の中は、

五百円玉が四枚ほど入った、透明なケースだった。

透明なケースの中は迷路になっていて、ケースを傾けると、

迷路の中を五百円玉が移動する仕掛けになっている。

四枚の五百円玉を出口まで移動させてやれば良い。

だがこれが中々難しくて、ただ移動させようとすると、

五百円玉同士がぶつかってしまって詰まってしまう。

それに迷路自体の複雑さも相まって、

二郎は未だにお年玉である五百円玉の一枚も取り出せずにいた。


 三郎、二郎がそれぞれ悠路伯父さんのお年玉に挑んでいる時。

一郎もまた、自身に課せられたお年玉という課題に直面していた。

一郎が受け取ったお年玉袋の中には、数学の問題が書かれた紙が入っていた。

三郎は幼稚園児、二郎は小学生であることを鑑みて、

二人のお年玉の仕掛けはおもちゃだった。

しかし中学生の一郎におもちゃは合わない。

悠路伯父さんはそう考えて、一郎には数学の問題を授けたのだった。

「悠路伯父さん、僕だけ勉強ってずるくない?

 僕、今日は教科書なんて持ってきてないよ。」

一郎の不満に、悠路伯父さんは言う。

「教科書が無くても、インターネットで調べれば良いだろう?

 今は便利な時代になったものだなぁ。

 伯父さんが中学生の頃は、

 毎日重い教科書とノートを持ち運んでいたものだよ。」

そんな話に他の大人が食いついて、大人たちは昔話をはじめてしまった。

酒も入っているし、他の大人は期待できない。

一郎はスマートフォンで数学の教科書を調べつつ、

お年玉の数学の問題を解いていった。


 山崎家では今、宴会を楽しむ大人たちと、

悠路伯父さんのお年玉の謎解きに挑む子供たちとで分かれていた。

子供たちは酒が飲めないのだから、大人の宴会には加われない。

そんな時に与えられた悠路伯父さんのお年玉の謎は、

時間潰しにちょうどいい。

子供たちが悠路伯父さんのお年玉の謎解きに挑戦している間は、

子供たちの相手をしなくていいので、大人たちは宴会を楽しむことができる。

悠路伯父さんの謎解きお年玉には、そんな効果もあった。

こうして子供たちは誰一人大人に頼ること無く、

大人たちはわいわいと親類同士の宴会に花を咲かせていた。


 やがて、子供たちの中から、

悠路伯父さんのお年玉の謎を解く者が現れ始めた。

「やったあ!できた!」

「僕も!お年玉が出てきたよ!」

「悠路伯父さん、お年玉ありがとう。」

「おう、よくがんばったな。」

お年玉を手にして群がる子供たちに、悠路伯父さんは頭を撫でてやっていた。

その傍らで、まだお年玉の謎が解けない子供たちはたくさんいた。

一郎、二郎、三郎もそうで、

謎自体は解けている三郎は必死にボタンを叩き続け、

一郎と二郎はお年玉の謎に頭を抱えていた。

一郎は与えられた数学の問題そのものズバリをインターネットで見つけられず、

教科書を片手に試験を受けているような状態。

二郎は与えられたパズルに苦戦していて、

まだ五百円の一つも取り出せずにいた。

他所の子供たちの多くも、悠路伯父さんの謎解きに苦戦させられていた。


 大人たちの宴会は宴も酣。そろそろ酔いが回ってきた頃。

ようやく、残った子供たちが悠路伯父さんのお年玉の謎を解き終わりだした。

「やった、わかった!」

「よし!お年玉が出てきたぞ!」

お年玉を手にした子供たちは、悠路伯父さんにお礼を言いに集まった。

悠路伯父さんはひとりひとり、子供たちの頭を撫でてやっていた。

最後に、一郎二郎三郎がそれぞれ謎を解き終わった。

三郎のお年玉は千円で、ボタンを千回を叩かなければならなかった。

二郎のお年玉は五百円玉が四枚で、パズルを解くのに、

三郎が千回ボタンを押す以上の時間がかかった。

そして、一郎に与えられたお年玉の謎は、数学の問題を解くと、

電子マネーが受け取れるコードが出てくるというものだった。

「どうだい、今風のお年玉だろう?」

悠路伯父さんはウインクしていたが、一郎は複雑な顔をしていた。

それは、他の子供たちにも言えること。

「悠路伯父さん、お年玉を貰って文句を言うのは失礼なんだけど・・・」

「謎解きが大変だった割に、中身が少なくない?」

幼稚園児のお年玉が千円なのは良いとして、

小学生のお年玉が二千円、中学生のお年玉が三千円なのは、

今の物価を鑑みると、少々物足りない。

すると、悠路伯父さんはニヤニヤと笑みを浮かべて答えた。

「お年玉が少ないか?

 それはね、まだ謎解きが全部済んでないからだよ。」

「謎解きがまだ全部済んでない?」

「ああ、そうだ。

 俺はそれぞれの家のお年玉に、二つの謎を仕込んだ。

 一つは、個人個人で解くお年玉。

 そしてもう一つは共通で、家族揃って解く問題。

 一人っ子の家は、一人でも解けるようにしてある。

 さあ、残された最後の一つの問題を解いてみな。」

悠路伯父さんのお年玉の謎解きは、一つではなかった。

それぞれの家族に共通して、もう一つの謎が仕込んであった。

お年玉に秘められたもう一つの謎とはなんだろう。

悠路伯父さん曰く。

これは考えれば誰にでもわかる仕掛けだという。

今度は飲み食いに飽きた大人たちも加わって、

一家それぞれに謎解き大会が始まっていた。


 悠路伯父さんは、それぞれの家族のお年玉に、

二つの謎を仕掛けていた。

一つは、受け取った子供がそれぞれ解く謎。

そしてもう一つは、家族ごとに解く謎だという。

そしてこれは、個々の謎解きの事情を知らない人でも、

解くことができる謎だという。

「うーん、うーん。」

山崎家のあちこちで一家揃って頭を悩ませていた。

一郎二郎三郎もまた、謎解きに挑む一員だった。

「お前たち、自分たちのお年玉はもう貰ったんだよな?」

「うん。一郎おにいちゃん。」

「ちょっと、それを集めてみないか?」

「どうして?」

「だって、悠路伯父さんは、家族ごとに謎を仕掛けたって言っただろう?

 だったら、お年玉に手がかりがあるかもしれない。」

「なるほど、そうだね。」

一郎二郎三郎は、それぞれのお年玉を集めてみた。

集まったのは、

数学の問題と、電子マネーのコード、

五百円玉が四枚とパズルケース、

千円札が一枚と、ボタン付きの箱、

それと、お年玉袋が三つだった。

「この中に、手がかりがあるはずだ。」

一郎の言葉に、三郎が言う。

「ねえ、おにいちゃん。

 他のみんなは、違う謎解きだったんだよね?」

「それはそうだ。

 そうでないと、みんなで答えを見せ合って解けてしまうから。」

「なるほど、だとすると、個々の謎解きは関係ないな。」

三郎の言葉に二郎が続いた。

どの家にも共通の謎なのだから、共通しないものは除外していい。

お年玉の金額もそれぞれ違うし、硬貨だったり紙幣だったりするので、

今回の謎解きから除外していいだろう。

すると残るのは・・・。

「お年玉袋、だね。」

一郎二郎三郎の三人は、お年玉袋を覗き込んだ。

三つのお年玉袋の中身は、もう既に取り出されていて空っぽだ。

お年玉袋の外側を見てみる。

最初、お年玉を貰った嬉しさで気が付かなかったが、

よく見ると、悠路伯父さんのお年玉袋は、ただのお年玉袋ではない。

紙や新聞紙のようなものを切って貼ってして作ったお手製のお年玉袋だ。

「こんなにいろんな紙を混ぜるなんて、材料が足りなかったのかな?」

確かに、お年玉袋は継ぎ接ぎだらけ。中には外国語や数字が見える。

「・・・外国語と数字?これだけは三つのお年玉袋に共通してる。」

「共通?じゃあもしかして。」

「あわせてみよう!」

そうして一郎二郎三郎は、それぞれのお年玉袋を分解してみた。

糊付けが甘かったのか、お年玉袋は容易に分解することができた。

そこには折り紙もあれば、新聞の切れ端もあり、そして・・・。

「数字の書いてある紙はあるか?」

「僕のにもあった!」

「ぼくのも!」

「合わせよう!」

数字の書かれた紙を合わせると、それは紙幣になった。

「これ、お札だよ!お札が三つに分けられてたんだ!」

「なんで受け取った時に気が付かなかったんだろう。」

「仕方ないさ。これは外国の紙幣なんだから。」

一郎二郎三郎が、お年玉袋に込められた謎を解いたところで、

悠路伯父さんが膝を打った。

「お見事!俺が仕込んだ謎を良く解いたな。」

悠路伯父さんは立ち上がって周囲を見る。

他の家族も同じように、お年玉袋を分解して、

中に仕込まれていた外国の紙幣を組み立てていったところだった。

一郎がぶーぶー文句を言う。

「悠路伯父さん、ひどいや。

 こんな謎、言われなきゃ気が付かないって。

 外国の紙幣なんて、見たこと無いんだから。」

「はっはっは。すぐわかったら意味がないんだ。

 この謎はね、俺から子供たちへのメッセージなんだ。」

「どういうこと?」

悠路伯父さんは咳払いをして、改まって言った。

「つまり、家族はバラバラだと力を発揮できない。

 俺は独り身だからよくわかる。

 家族は集まってこそ家族としての力を発揮できるんだ。

 それを示すため、俺はお年玉袋それぞれに、分けられた紙幣を入れた。

 それが集まった時、即ち家族が力を合わせた時、謎が解けるように。

 これからもみんな、家族を大事にして、力を合わせて過ごしてくれ。」

子供たちは何が何やらポカーンとしている。

家族の力とは何か、子供たちがそれを知るのはまだ先だろうから。

しかしそれを知っている大人たちからは、やんややんやの大喝采。

「よっ!悠路、たまには良い事言うねぇ!」

「どうしてそれでお前には嫁さんがいないんだろうねぇ。」

「お前はお前で、うちはうちで、力を合わせていこう。」

そこで祖父が重い口を開いた。

「悠路の言うとおりだ。

 この山崎家、普段は離れ離れでも、

 いざとなったら力を合わせて生きていこう。」

「そして悠路ちゃんは、早くお嫁さんを見つけましょうね。」

祖母の言葉に、大人たちはドッと笑い合った。

山崎家の正月はまだまだ続いていく。

山崎家の人たちが力を合わせることを忘れないかぎり、

ずっと、ずっと。



終わり。


 今年も新年が始まったので、三が日の話にしました。


正月の楽しみといえばお年玉、と言えるのは限られた間だけ。

大人にとってお年玉は、子供にお金を取られる渋い行事です。

だったらせめてお年玉をあげる側にも楽しみを、

そして家族の大切さをメッセージとして伝えられたら。

そんな内容の話にしました。


お読み頂きありがとうございました。


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