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シロクロ遊戯~死神さまのお気に入り~  作者: みなと


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6/6

情報をください

「どうして……」

「偽物、って」


 呆然としているノワールとブランシュに対して、そのメイドは二人を嘲るようにひとしきり笑ってから、動こうと体を思いきり捩る。だが、何かあってはいけないとウルツとエカードがメイドの両肩をがっちりと抑え込んだ。


「離しなさいよ! 私を誰だと思っているの!?」

「ただのニンゲン、でしょう?」

「それ以外に何かありますかねぇ?」


 はて、と首を傾げて問いかけるエカードとウルツは、愉しそうに見えるけれど、目の奥は一切笑っていない。

 主に対して牙を剥くのであれば、容赦なく叩き潰してやるからな、と殺気を今にも剥き出しにしそうだが、主たちの様子を心配する心が上回っているから、今は殺気を出さないだけ。


「……身代わり、かぁ」


 ぽつ、と呟いたノワールの目から涙がぽとり、と落ちた。


「ノワール……」

「酷いよね、皆」


 笑顔だけれど、止まることなくノワールの目からは涙が落ちている。

 少しだけ下を向いているから、とめどなく涙が溢れてくるとそのまま重力に従ってぽたぽたと落ちる涙を拭わないままで言葉を続けていく。


「だったら、あの時に殺してほしかった」

「……うん」


 ブランシュが頷き、二人はお互いの手をぎゅ、と握る。

 寂しい時、辛い時、楽しい時など、色々な時にこうして手を握りあっているが、今は二人揃って『辛い時』。

 いつか、ここから本邸に戻れるのではないかと、淡い期待を抱いていた。

 いつか、また両親が微笑みかけてくれると、兄や姉が笑いかけてくれて、温かな家族の元に戻れると、信じていた。


 だが、それはもう叶わないのだと、二人は早々に悟った。


 ならば、もう良いのではないか。

 期待を持つ必要がなければ、彼らのことを待たなくてもいい。待つ必要が一切ないのだ。


「死神が私たちの神様、っていうのは……何の意味があるんだろう、って思ってたけど……」

「そうだよね……。ねぇ、ノワール。私、いいこと考えた」

「なぁに?」

「だったら、もういいよ。幕引きをしよう?」

「……」


 あぁそうか、と言った張本人のブランシュも、言われた側のノワールも、あっという間に何かを悟って、お互いに頷き合う。

 そして、自分たちに対して『偽物』という言葉をぶつけてきたメイドを見て、にっこりと笑った。


「……その前に、情報収集しなきゃ」

「うん、そうだね。ちょうどいい人がこんなところにいるのだから……」


「「有効活用、しなきゃ」」


 揃った言葉に、エカードもウルツも、何かを悟ったのか頷き合う。


「……何、言ってるのよ気持ち悪い」


 呟いたメイドの方を、双子が綺麗に揃って、じぃ、と見る。


「あなたがどう思っても、別にどうでもいい」

「情報だけ、もらえたら良いよ」


 こつ、こつ、と双子はヒールの音を鳴らしながら歩いていく。

 ぴたり、と足を止めてメイドを見下ろす。目には一切の温度も感情もなく、無機質でガラス玉のような二人分の視線がメイドに降り注いだ。


「な……な、何よ!」

「うるさいなぁ」


 ひゅ、と手を振りあげたノワールは、遠慮なくメイドの頬を叩いた。

 ばちん!と音がして、メイドはぽかんとしてノワールとブランシュを見上げる。一体何が、と混乱しているようだが、そんなもの、双子は知ったことではない。


「……人を叩く、ってこんなに手が痛いんだねぇ」

「大丈夫?」

「うん。次は……」


 ノワールがくるりとエカードとウルツを見て、にっこりと微笑みかけてからすっと手を差し出した。


「道具を、使うから」

「あぁ、そうだね」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ぽと、ぽと、と血が落ちる。


「……ぁ……」

「寝ないでね?」


 ノワールは邸宅に置かれていた置物を振り上げ、遠慮なく振り下ろした。

 ごず、と鈍い音がしてから、それはメイドの側頭部を打ち付けることとなる。


 痛い、痛い、痛い。


 いきなりどうしてこの双子は、自分に対して遠慮のない暴力を振るうようになったのか。


 傷がどれだけ痛くても、いつの間にか治癒魔法で治される。

 そうしたらまた、ノワール、あるいはブランシュが容赦なくメイドを痛め付けてくる。


 これの、繰り返し。


「もう、知ってることは……」

「他にもあるでしょう? しっかり本邸でのことを教えてもらわないといけない。あぁそうだ、私たちが偽物っていうのはどういうこと?」

「だから、お前たちと同じ顔の……双子が……いて」

「それはさっきも聞いた」


 次はブランシュが鈍器を振りかぶって、遠慮なくメイドを殴りつける。


「……ぁ」

「私たちと同じ顔。声はまだ社交界デビューをしていなかったから、誤魔化しなんていくらでもできる。能力に関してはうまく家族揃って誤魔化している、ここまでは聞いた」

「もう、言えること、ない……」

「まだその二人の名前、聞いてないんだってば」


 また遠慮なく鈍器が振り下ろされた。

 同じところを殴るのではなく、別のところを殴られるが、どこを殴られるのかが分からない恐怖が襲い来る。


「……もう、やめ、て」


 小さな声で懇願しても、双子は読み切れない笑顔を浮かべているだけ。


「どうして?」

「どうして、って……だって、これは単なる暴力、で」

「私たちもお兄さまにやられたし」

「ねー」


 くすくすと笑い合う双子の笑顔は、とてつもなく歪んでいるように見えるが、その双子を見守っているエカードやウルツは、うんうん、と微笑ましそうに頷きあっているだけ。

 止める気配は全くなく、むしろ『いいぞもっとやれ』と言っているような雰囲気すらある。


「マスター、手を痛めないように気を付けてね」

「はぁい」

「さて姫様、次は側頭部は避けましょう。そこは頭蓋骨が薄いので、下手をすればそのニンゲンは死んでしまうかもしれません」

「そっか、命の調整とかはしちゃいけないんだよね」

「はい、教えたことをきちんと身につけてくださっているようで、安心しました」


 にこにこと微笑んでいるエカードとウルツは、また回復魔法をメイドにかける。

 傷も治るし、痛みもない。

 だが、それは一時的にすぎない。遠慮なくまた双子は互いが手にしている鈍器を振り上げ、ぶん、と振り下ろす。


 メイドが持っている本邸の知識を全て聞き出すまでは、決して終わらない。


「そういえば、私たちここから出るなって言われてるんだけど……この敷地内から出ると、どうなるの」

「どう、って……」


 ぐわんぐわんと揺れる思考の中、メイドは必死に思い出す。

 言わないと殴られる。殴られないためには本邸の情報を事細かに教えるしかないのだが、教えきったあとのことを、このメイドは考えているのかどうか。


「どうも、ならない」

「え?」

「どうもならない、って……何それ」


 きょとんとした表情になった双子は、お互いの顔を見合せた。


「いやいや、だって『絶対に出るな』って言い含められたんだよ? 言われた時は小さかったから、純粋にただ信じていたけど……何かある、って思うじゃない。だから何かしているんだ、って思い込んでいたけれど……え、えぇ?」


 ノワールがそう言っている様子だけ見れば、メイドにあれこれ暴行を働いた、だなんて誰が思うか。


「……出ても、問題なかったのかな」

「ブランシュ、もしかしたらこのメイドは何か隠している可能性も……」

「だよねぇ、ノワール」


 用心深い、といえばそうなのだが、本当に何もしていないのだ。

 幼い頃に言い含められたことを、ずっとずっと双子は信じていた。この別邸にやって来るメイドたちだって、同じようなことを言っていた。

 双子が脱走しないように、『ここには魔封じの結界が展開されている。それは、二人の能力だけをピンポイントで封じるもの。もしここの敷地内から出ようとしたら二人の体にはとてつもない痛みがやってくるのだ』と、ずっと言われていた。

 メイドは平気なのか、と双子が聞いた時には笑いながら『私たちにはそうならないように特別な魔法がかけられているんですもの!』と自信満々に言っていたから、絶対に何かある。そう思っていたのに……と、ブランシュもノワールも、がくりと力が抜けたように座り込んでしまった。


「(もしかして……解放される……?)」


 二人からはこちらに対する敵意は感じられない、が……何やらしょんぼりとしている。

 おかしなことは言っていない、絶対に大丈夫だ、メイドは自分に対して必死に言い聞かせながら双子の様子を確認していたら、二人は鈍器をぽい、と捨ててメイドに視線を向けてきた。


「…………っ!!」

「……メイドさんが来たら、その特別な魔法のことを聞こうと思っていたけど……その必要はないみたい」

「期待外れだったねぇ……」


 双子は、どこまでも無邪気だった。


「なら、もう良いかなぁ」

「もう良いよ」


 うんうん、とお互いに頷きあってから、双子はそれぞれ自分を守ってくれている死神のところへと歩いていって、無邪気に告げた。


「あれ、もういいや」

「『刈り取って』くれる?」

「かしこまりました、姫様」

「OK、マスター!」


 刈り取る、とは一体何なのだろうか。

 何かの隠語かもしれないが、もしかしたらこれは自分が解放されるということではないか、と期待を抱いたメイドの思いは、打ち砕かれる。


「……え」


 ぐわん、とメイドの視界が歪む。

 椅子に縛り付けられたままだが、何だか目の前がぐるんぐるんと回っているような、不思議な感覚。

 それに伴って、耳の奥でずん、と何かが重たくのしかかる様な奇妙な感覚に襲われたかと思えば、メイドの意識はふっと遠のいた。


「(これ、なに)」


 ぱくぱくと口を開け閉めしていたが、言葉が出ないまま、がくん、とメイドの体から力が抜けきった。

 命を刈り取られた、とは気付かないまま呆気なく、苦しむことなく死を迎えたのだった。


 それくらいは情けをかけてあげたんだよね、と愉しげに笑っている双子の目の奥にあるのは、確かな狂気。


 色々なことが吹っ切れてしまった人間の強さは、底知れない。

 それを知らないまま、本邸ではノワールとブランシュもどきたちが、とても楽しそうに平和に、『家族』と食事を楽しんでいたのだった――。

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