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シロクロ遊戯~死神さまのお気に入り~  作者: みなと


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嘘だといってほしい

「え?」

「帰ってきてないのよね、あの子」


 あの子、というのは前日、双子の住んでいる別邸に食料を届けたメイドのこと。

 いつもなら行って、すぐに帰ってきてから『いえーい、今日の戦利品!』とくすねたものの中から、お菓子だったり高級な果物をメイドをはじめとした使用人たちで分配しているというのに、まだそれがない。

 というか、そもそも帰ってきていない。


「帰ってきたけど、すぐどこかに出かけた……とかじゃなくて?」

「それなら外出届け出てるでしょ。出てないらしいわよ」

「え……?」


 その言葉に、使用人たちはざわめく。色々あるとはいえ、基本的に仕事は真面目にするメイドだったのだ。だが、今回に限り帰ってこないというのがおかしい……と悩んでいると、古くから仕えているメイドの一人が、がたがたと震えながら口を開いた。


「まさか、……あの双子が……?」

「そ、そんなこと……あるわけないでしょう!」

「けどよぉ……」


 ひそひそとした声は、波紋のようにじわりと広がっていく。

 それを遮るかのように、年若いメイドが机をばん!と叩いて立ち上がる。


「何言ってるんですか!」


 双子、は勿論ブランシュとノワールのこと。双子が何かしたとはすぐに考えつかなかったが、食糧を持っていく度に『あの、いつおうちに戻れるの?』とか、『いつになったらお父さまたちの怒りはおさまるの?』とか聞かれたけれど、二人に何か話しかけられても無視をしていろ、という命令に従っただけ。

 だから、自分たちは悪くないんだ、と憤っている若いメイドに、古くからのメイドは震えながら口を開く。


「あの二人は……死神に魅入られた子たちなの。だから、迂闊なことをしてはいけないと……あれほど言っていたのに!」

「はぁ? まったく……一体何を言っているんですか! 旦那様や奥様には、既に可愛らしい双子のお嬢様がいて、別邸の奴らは偽物だから今、罰を与えているんだ、って坊っちゃまから聞きましたよ!?」

「そ、そんな、こと」


 何を恐ろしいことを言っているんだ、と震えているメイドを尻目に、若いメイドはぐっと拳を握ってから声高らかに叫んだ。


「私が! この私が事件の真相を突き止めてみせましょう!」


 おおー!と叫んでいる他の使用人たちは、ブランシュとノワールが別邸に移ってから雇用された人たちだから、知らないのだ。

 だが、あの双子は基本的に無害だから何も恐れることはない、知識さえ与えなければ大丈夫だ、と言われていたけれど一体何があったのか、と古くからのメイドは一人、震える。


「大丈夫、よ……そう、きっと……」


「何ですか騒々しい」


 ざわついた雰囲気を壊すかのように、凛としたメイド長の声が響く。

 ハッとした使用人たちは慌てて休憩を切り上げたが、歳若いメイドは目をきらきらさせながらメイド長の元に駆け寄った。


「メイド長、この前別邸に向かった子が帰ってこないんですが~」

「……何ですって?」

「私、見てこようかな、って思ってるんです!」


 ぴく、とメイド長は反応した。

 この子に行かせて大丈夫なのか、いいや、それよりもあの双子のところに……と、メイド長の顔が曇る。


「……やめておきなさい」

「どうしてですか!?」

「……」


 メイド長の顔は、何が言いたげな雰囲気しかない。歳若いメイドは、釈然としないと言わんばかりに唇を尖らせたまま、また言葉を紡いだ。


「理由など、あなたが今、知る必要はございません。それよりも、あなたが今やるべき事はお屋敷での業務をきちんと、覚えることです」

「うっ……」


 ピシャリと言い放たれてしまい、歳若いメイドはぐぬぬ、と悔しそうにしているが、話は終わりだと言わんばかりにメイド長は彼女に背を向けてから手をぱんぱん、と鳴らした。


「さぁ、皆。業務に戻りなさい! いいですか、午後からはぼっちゃまの婚約者様がいらっしゃいますよ。お茶の準備など抜かりないように!」

「はいっ!」


 とてもいい返事をしたものの、その年若いメイドは、こっそりと本邸を抜け出して、ブランシュとノワールがいる別邸へと向かった。


「確か……こっちよね」


 別邸へと続く道は一本だけだから分かりやすいが、最低限の手入れしか行われていないために、雑草がこれでもかと蔓延っている。

 さくさくと雑草を踏みながら歩いていくと、古びた洋館が見えてくる。本邸よりは劣っているものの、マリオン侯爵家らしい豪奢な感じは伝わってきた。


「ふぅん……?」


 独り言を言いながら歩き、屋敷の敷地内へと到着すれば、そっと窓に近付いていって中をじっと見る。盗み見ることはしなくて良い、所詮いるのはまがい物の双子なのだから、と己に言い聞かせ、そのメイドは目を凝らす。

 外と中は反比例しているかのごとく、邸内は思っているよりも綺麗そうだった。


「……うーん……何でこんなにも中が綺麗なんだろう。双子が掃除でもしてるのかしら」


 はて、と首を傾げているメイドは、気が付かない。邸宅の二階から、じっとブランシュが彼女の姿を見ている、ということに。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「来た」


 ぽつ、と小さく呟いて、ノワールはブランシュのところに歩いていく。

 隣に立ってひょいと下を見れば、堂々と窓に張り付いて屋敷の中を覗いているメイドがいるではないか。何だろうあの人、と顔を見合わせた双子は、お互いに頷き合って、微笑んだ。


「ちょうどいいところだったね」

「うん。……ふふ、ちゃんと色々聞いてみよう」


 微笑み合って、二人は別々に動き始めた。窓から顔を引っ込めて、ブランシュはエカードと共に一階へ。音を立てないように、でも外で動き回っていつ見られてしまうか分からないから、慎重に邸内を移動していく。

 ノワールはウルツと一緒に移動して、メイドを捕獲するためにと動き始める。


「ウルツ」

「はい、マスター」

「あのメイド、私は知らないの」

「おや」

「だから……一番新しいことを知っているかもしれない」


 きゅ、とノワールは表情を引き締めた。

 一体、本邸で何が起こっているのだろうか。ブランシュとノワールは、誰が何と言おうと、このマリオン侯爵家の令嬢である。

 確かに貴族名鑑にも掲載されているはずだから、二人がパーティーなどに参加していないのであれば、誰かしらが気付いてくれるはずだ、と思っていた。


 だが、実際は異なっているようだ。


 であれば、きちんと『現実』を知らないといけない。そこにやってきた、最近入ったメイドであろう、あの若いメイドはちょうどいい存在かもしれない。


「ウルツ、私の姿って消せる?」

「勿論」

「やって」

「はい」


 会話は短い。

 ウルツは言われた通りに魔法を駆使して、ノワールの姿を見えないように魔法で細工する。


「足音なんかは聞こえてしまうので、お気を付けくださいね」

「大丈夫」


 姿は消えたものの、ノワールはにこ、と嬉しそうに微笑んだ。そして、静かに、足音を消している状態でいそいそとメイドの方へと近付いていく。


「(しかし……マスターはどうやってあのニンゲンを、って……)」


 別邸の裏口をそっと開けたノワールは、ウルツに見守ってもらいながらメイドに近付いていく。人というものは、何かに集中していれば反応速度はあまりよろしくはない。


 ――だから。


「……えい」


 とても小さな声で、だがしかしとても楽しそうに、ノワールは近くにあった大き目の石を拾い上げて、容赦なく振りかぶってメイドの側頭部を思いきり殴り飛ばした。


「が、っ」

「……ありゃ、やりすぎちゃったかな」


 どさ、と倒れたメイドを、何の感情もこもっていない目で見ながら、ノワールは頬を掻いている。


「マスター、そこそこ容赦なくいきましたね?」

「うん」

「死んではいないようなので、そこはご安心を」

「良かった」


 駄目なら、どうせまた来る。それを話していたこともあってか、ノワールは無邪気な様子で微笑んでいる。

 姿こそ消しているが、その笑顔が分かるウルツは、自分のことのように嬉しそうに微笑んでみせた。


「さてマスター、これ運びましょうか」

「お願いできる?」

「そのつもりでやってまいりましたので」


「ノワール、こっちは準備できているから安心してね」

「ブランシュ!」


 メイドが覗いていた窓から顔を出して微笑んだブランシュは、恐らくこの辺にいるであろう、とあたりを付けてからノワールに声をかけた。

 ノワールはウルツにもう一度お願いしてから姿を見えるようにしてもらい、倒れているメイドを指さす。


「死んではいないから、ちょっと事情を教えてもらおう」

「そうだね」


 にこにこと微笑んでいる二人は、メイドを邸内に引きずって連れ込んでから、居間まで運んで行った。

 双子は、笑みを消さない。


「やっと、事情を聞けるね」

「そうだね、思ったより早めに機会がやってきた、っていうところ?」


 あはは、と笑っている双子はとても無邪気だが、手にしているものがそれぞれ物騒ではある。


「……ねえ、起きてくれる?」


 ノワールが、ウルツに用意してもらっていた、氷水をメイドにぶっかける。回復魔法をかけておいたから、傷に関しては問題ないだろう。

 起こすためだし、まぁ良いか、くらいの認識しかない。


「……っ」


 氷水の冷たさに、メイドが薄ら目を開け、目の前に立っているブランシュとノワールを見て、慌てて下がろうとしたものの、椅子に縛り付けられているから身動きはとれない。


「な、何するのよ! ……って、何だ……偽物のお嬢様たちじゃないですか」

「……にせ、もの?」

「偽物に偽物、って言って何が悪いわけ!? ここを占拠していて、心から鬱陶しい存在だ、っておぼっちゃまが言っていたわ!!」


 彼女の言う『おぼっちゃま』というのは、ブランシュとノワールの兄であるフリストだろう。だがしかし、一体どうしてそんなことに……と考えていたが、メイドがげらげらと笑いながら更に言葉を紡いだ。


「あっはっは、理解できません、なんて顔しないでよ! だって本邸にはお嬢様たちがいるんだからねぇ!」


 その言葉に、ブランシュもノワールも、表情がなくなった。


「お嬢様たち、って」

「言葉通りよ! この、偽物! まがい物!」


 罵ってくるメイドの言葉が、ぐるぐると回る。

 想像したくはないが、まさか。


「私たちと……同じ顔の偽物が……存在しているの……?」

「なん、で」


「あーーー理解してない系? ちーがうっての!! 偽物はお前らだよ、ばーっか!」

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