第7話 王立ロンドール魔法学院
今回から魔法世界に転生した美野島或人改めアルトルース・ノルマンの物語になります!
転生した元・世界最強の異能力者の少年は、果たして魔法世界をどう生き抜くのか?
よろしくお願いします!
というわけで俺――美野島或人は死んだ。
まあ、最期の台詞どおり死んでもあの山羊の頭の骨を被った奴を倒せただけよかったと思う。きっとあいつを倒したおかげでブラックゲートは閉じただろうし、めでたく世界の平和は守られたに違いない。
正直油断したせいで敵の罠に嵌まってしまった……と思わなくもないが、死んでしまったものはしょうがない。俺は過去は振り返らない性格なのだ。
それにいまの俺には、いまの俺の人生というやつがある。
つまり俺はいま、新しい人生を歩んでいるのだ。
そう。いわゆる生まれ変わり――転生というやつである。
しかも聞いて驚くなかれ。俺が転生したのは元いた日本じゃない。というかそもそも地球ですらないのだ。
それじゃ一体どんな場所に転生したのかといえば。
「――それでは誇り高き王立ロンドール魔法学院に入学した新入生諸君がみな素晴らしい魔法使いに成長してくれることを願っています」
広々とした大講堂のなか、その最前に設えられた壇上に立つ老齢の男性――上等なローブを羽織った恰幅のいい白髭おじいさんが厳かに挨拶を締めくくる。
……いまお聞きのとおりだ。
すなわち俺は、魔法が存在する異世界というやつに転生を果たしたのである。
俺が第二の生を授かったのは、ブレンダ大陸と呼ばれる巨大な大陸のやや北西部に位置する大国メルトバール……のめちゃくちゃ隅っこのど田舎に領地を構える底辺貴族、ノルマン男爵家だった。
ちょっと大きな村程度の領地を治める弱小貴族のノルマン家だったが、それでも貴族は貴族。そして転生した世界――メルトバール国において、貴族であるということは同時にとある事実を示した。
それは、メルトバールにおける貴族とは魔法使いの血族である、ということである。
別に貴族しか魔法が使えないわけじゃない。平民にも魔法を使える人間はいるし(現にノルマン領内の民たちにも数名いた)、そもそもメルトバールにとって魔法とは文化であり、文明であり、人々の生活を支える基盤そのものだった。
というか前世の日本と比較して、メルトバールのテクノロジーレベルは遙かに前時代的だった。車もなければ飛行機もない。スマホはおろかまず電話がない。テレビもない。もちろんインターネットなんてものは存在しない。そもそもガスも電気も水道さえも通っていない。そうした脆弱なインフラを補うのが魔法という特殊技術なのである。
だからこそ魔法使いとしての実力がなにより他者の上に立つ資格の証明となる。そしてその証明と実践が繰り返された結果、現在の社会構造ができあがったのだろう。いや本当のところは知らないけど。
まあ要するになにが言いたいのかというと、魔法頼りの世界においては魔法の才能こそが力の象徴であり、翻って社会の特権階級たる貴族とは概して魔法の才に恵まれた血統の者たちであるということだ。
はてさてそういうわけで、弱小男爵家たるノルマン家も当然、魔法使いの家系である。
そしてその嫡男として生まれた俺――美野島或人改めアルトルース・ノルマンにもごく当たり前の事実として魔法使いとしての血が流れており、それはつまり俺にも魔法を扱うための素質が具わっていることを意味することになる。
在りし日のことだ。いずれは家督を継ぐことになる俺に、父であるナイトルース・ノルマンは言った。
「アルトルース、王立ロンドール魔法学院に入学して立派な魔法使いになりなさい」と。
そんな父の言葉に従い、今年で十五歳になった俺はついに田舎領地から足を踏み出して王都にある王立ロンドール魔法学院への入学を果たしたというわけである。
前世では異能力者、それも自分で言っておいてなんだが超最強の異能力者だった自分が転生先の世界で魔法使いを目指す。なんとも奇妙でおかしな話だと言えるに違いない。
大講堂での入学式を終え、案内された教室に向かう。全面の大黒板を中心とした段床式の円弧配列のレイアウトは、前世の大学講義室を彷彿とさせる造りだった。
入学初日特有の妙にそわそわした緊張感に包まれた教室の雰囲気にどこか懐かしい気持ちを抱いていると、やがて柔和な面立ちをした金髪翠眼の美青年が入ってきて黒板の前に立った。
大講堂で見た老齢の男性――学院長ほどではないが、それでも充分に威厳を感じさせる立派なローブ。予想に違わず、彼は学院の教師だった。
名をローレン・ダルタニアスというらしい彼は、ひとしきり自己紹介と今後のカリキュラムについての説明、そしていかにこの王立ロンドール魔法学院が素晴らしい学び舎であるかについての熱弁を終えたあと、ちょっとだけ悪戯っぽい子供じみた微笑をたたえて言った。
「さて、本来なら入学初日の今日はこれで終わりの予定ではありますが……皆さん意欲に満ちた目をしていらっしゃる。大変よろしいことです。それじゃここはひとつ、このクラスだけ特別に外で基礎演習をしましょうか」
それとなく周囲に目線を巡らせてみると、ローレン教師の言うとおりほとんどの生徒がやる気に満ちた顔つきをしている。
この学院に入学してくる生徒のほとんどは貴族の令息令嬢、つまりは家名を背負って一流の魔法使いを目指す志高い人間たちだ。そんな魔法使いの卵たちのなかに、ローレン教師の提案に異議を唱える者がいようはずもなかった。