表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

第6話 かつて最強の異能力者だった青年⑥

今回で前世編は終了です!

 ふたつの影が闇に染まった空を縦横無尽に駆け巡る。


 或人の猛追を躱しながら、山羊頭の異形は立て続けに超常の攻撃を繰り出した。ビルをも溶かす巨大な灼熱の火球が、大気を引き裂くけたたましい雷撃が、大地を穿つ容赦ない氷雨が、或人を狙って放たれる。


「えらく攻撃の種類が多彩だな。まるでファンタジーに出てくる魔術師かなにかの魔法みたいだ」


 だが或人の涼しげな表情に変化はない。異形が放つ魔法じみた攻撃のことごとくが、狙っていたはずの或人に拒絶されて軌道を逸らして無意味に地上の街並みを破壊して消えていく。


「あんまり街に被害を出すのもよくないな」

 損壊したビル群を一瞥したのち、或人は逃げる異形を改めて視界に捉えた。

「鬼ごっこはやめだ」


 強制干渉によってあえなく墜落する山羊頭の異形。


 地に落ちた異形へと一瞬で追いついた或人は、間髪容れず連続で拳を繰り出した。

 或人の拳は敵に当たらない。だというのに化物は苦痛に呻き、顔を覆う山羊の頭骨と身にまとう装甲に亀裂が入っていく。或人の拳が触れる寸前、山羊頭の異形に強烈な衝撃が叩き込まれていくのだ。それは言うなれば拒絶の打撃だった。


 先ほどと同じく闇色の剣を握る黒腕を発現させて応戦する山羊頭の異形だったが、

「その攻撃はもう見飽きたよ」

 それすらも今度は或人が繰り出す拒絶の打撃の前にあえなく叩き折られた。


 為す術なく或人の攻撃を浴び続け……ボロボロの姿になった山羊頭の異形が地面に膝をつく。


「なんて強さだ……」一部始終を見ていた武藤が、驚愕を超えて半ば呆れたようにこぼした。「あの化物をここまで簡単に倒してしまうだなんて……」


 S級異能力者三人を蹂躙した強大凶悪な人型の化物を相手に完膚なきまでに圧倒してみせた世界最強のX級異能力者が、淡々とした表情で世界の脅威たる侵略者を見下ろす。


「ついに降参ってことでいいか」


 しかし応答はない。山羊頭の異形は、項垂れたまま、まるで譫言のようにぶつぶつと声にならない声を垂れ流し続けている。なにかしらの言語のような響きがあったが、異界の存在の言葉を或人が理解できるわけはなかった。


「なに言ってるかわかんないが。まあとにかく俺の勝ちだ」


 とどめを刺すべく、或人が敵に向かって手をかざしたそのときだった。


 山羊頭の異形の呟きが止まり、瞬間、異形を中心として半径数メートルの紅い円が浮かび上がった。

 未知の言語と奇怪な紋様が緻密に入り組んだ真紅の光を放つ輪形は――まさに魔法陣のごとく。


 そしてその魔法陣の内側に、或人は囚われた。


「ぐっ!」


 途端に或人を襲う未知の苦痛。咄嗟に胸を押さえた。なにかもわからないなにかに心臓を鷲掴みにされたような感覚。干渉を拒絶しようにも――一体なにを拒めばいいのか、その正体が或人には理解できなかった。


 皮膚を剥がされるかのごとき凄絶な苦しみを伴って、意識が肉体から強引に引き剥がされていく。


「我ガ呪術魔法ハ成ッタ。貴様ノチカラヲ魂ゴト肉体カラ引キ剥ガス。モハヤ拒絶ノシヨウモナイ」


 或人は目を見張った。紛れもなく異形は人語を話したのだ。


 驚愕する或人を山羊頭の異形が見上げる。

 山羊の頭骨の右側が一部欠け、わずかに異形の容貌が覗いていた。

 枯れた草木のように萎びた白髪と、その奥でぎらりと光る緋色の眼。


 いっそう或人は瞠目した。


「人、間……っ⁉」


「――ソノ眼」

 緋色の右眼はただただ食い入るように或人の眼球を見つめ続ける。

「ソノ眼コソ、我ガ悲願ニ必要ナチカラ。欲シイ、ソノ眼ガ……欲シイ」


 山羊頭の異形の瞳の奥に、或人は底知れぬ欲望と果てなき憎悪を見た。

 そして同時に久しく感じたのは……恐怖という名の感情だった。


 しかしすぐに振り払う。歯を食い縛って苦痛を堪え、或人は自分に課された最後の役目を果たすために力を振り絞る。


「どうやらまんまとしてやられたみたいだけどな……! お前みたいにヤバい化物をこのままこの世界には置いておけないぜ……っ!」


 或人の双眸に刻まれた紋様が白銀の煌めきを放つ。それはたちまち或人の全身を包み込み、苛烈な炸裂音を轟かせながら白銀の稲妻が迸った。

 見る見るうちに眩い輝きが山羊頭の異形を呑み込む。

 超至近距離での異能力の全力開放。あらゆる存在を拒絶する力が、周囲を巻き添えに対象を消滅せしめていく。


 鮮烈な赤光を放つ魔法陣と、苛烈な銀光を放つ或人の異能力。

 その中心、すでにほとんど消失した意識のなかで、しかし或人は力を行使し続けた。


「死んでもお前だけは倒してみせる――!」


 やがて或人の視界すべてが白銀に染まり、うっすらと影のように残っていた山羊頭の異形の輪郭が、まるで砂のように崩れて散っていく。


 ……倒した。


 その確信と達成感、そして安堵とともに、X級異能力者・美野島或人は、意識を完全に喪失した――。

ここまでで前世編は終了となります!

次回からは転生後の魔法世界編になります!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ