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第3話 かつて最強の異能力者だった青年③

「さて、これでひとまず片付いたわけだけど、なんかやけにあっさりしすぎてるわね」


 神崎花恋の言葉に武藤省吾は小さく頷いた。


「おっしゃるとおりですね。ここ十年以上観測されていなかったブラックゲートが出現したのです。推定脅威度S級以上のゲートが、このような雑魚モンスターの群れを吐き出した程度で終わるとは到底思えません」


『確かにこれじゃどう頑張ったとこでレッドゲート未満ってとこだしね』捻子巻啓介の声。『本当にこれで終わりだったとしたら、S級異能力者の俺たちじゃなくても余裕でこなせちゃうレベルでしょ』


 とおちゃらけた台詞を発しつつ、ロボットの顔が頭上の夜空へと向けられる。


『まあ実際終わりじゃないんだろうけど。だってあれ、まだ全然閉じる気配がないし』


 少年の言葉どおり、東京の夜闇には依然として巨大な渦穴が開いたままである。

 神崎と武藤もブラックゲートを見上げる。


 そのとき、不意に漆黒の大穴が脈動した。それはまるで、胃からせり上がってきたものを嘔吐する直前のような――。


「どうやらもう一発くるみたいね」神崎が目つきを鋭くする。


「そのようですね。果たして次も同じ雑魚の群れでしょうか」武藤が眼鏡を押し上げる。


『もしくは……ボスキャラの登場かな』捻子巻はどこか期待するような雰囲気を声に滲ませる。


 そしてついに、次なる侵略者が時空の歪みの向こうから姿を現わす。

 まるで地中から這い出そうともがくように、他者を押しのけながら我先にと溢れ出したのは、剣と盾を手に鎧をまとう骸骨騎士の大群だった。


 先刻の地上型モンスターを遙かに超える数の骸が、もはや濁流のごとき密集体となって都庁に降り注ぐ。


 たちまち呑み込まれてしまう三人の異能力者。――しかし彼らを呑んだ骨人形の塊は、不意に膨張したかに見えた瞬間、激烈な爆炎とともに火の玉と化して爆散した。

 崩壊する都庁と燃えながら四散する異形の破片。赤々と照る夜のなか、やや離れたアスファルト上に無傷の異能力者三人が着地する。


 爆発を逃れ地上へと降り立った骸骨騎士たちが、燃える仲間の残骸をぞんざいに踏み砕きながら次々と立ち上がる。そのほとんどは人間と同程度の背格好だが、なかには大剣を手にした巨人の骸骨騎士が複数体交じっている。


「だいぶ爆砕してあげたのに、それでもまだとんでもない数ね」


 立ちはだかる異形の軍勢を前に、神崎が不満げに鼻を鳴らす。


「急に至近距離で爆発を起こさないでくださいよ神崎さん」冷徹な眼差しで骸骨騎士たちを見据えながら、武藤は苦言を呈した。「私たちまで巻き込まれてしまったらどうするんですか。それにあなたのおかげで都庁が完全に崩壊してしまったじゃないですか」


「はあ? なんで文句言われなきゃいけないのよ。私のおかげでずいぶん敵の数を減らせたって言うのに」


『そうだよ武藤のおっさん』捻子巻が神崎に加勢する。『あれに巻き込まれてるようじゃS級失格だし、建物のひとつやふたつ壊したっていいじゃんさ。大事なのは一匹残らずモンスターを倒すことだよ』


「捻子巻くんの言うとおりだわ。私たちの役目はゲートを通って現れるモンスターから市民を護ることなんだから」


 二対一で劣勢に陥った武藤は気まずげに押し黙る。それからひとつ小さく息を吐くと、改めて冷徹な眼差しを骸骨騎士の集団へと向けた。


「……わかりました。確かに最も優先すべきはモンスターの掃討です。そして仮にも今回はブラックゲート。いったん街の保全は考えずに敵の殲滅に集中しましょう。それに第二波の敵は先ほどの第一波よりも骨のあるモンスターのようですし」


 そう言って構える武藤を横目に、神崎はたまらず噴き出した。


「ぷはっ。なにそれギャグ?」


「……はい?」笑う神崎を横目に見返し、怪訝そうに眉をひそめる武藤。


『骨のあるモンスターっていうか骨そのものじゃんよ、武藤のおっさん』


「ああ、そういうことですか」


「武藤さんってたまに素で面白いこと言うわよね。でも、おかげでいい感じに力が抜けたわ」


 脱力した微笑をたたえながら、神崎はモンスターの軍勢に視線を戻す。


「さあ、おしゃべりはこのくらいにしてさっさとあいつらを片付けましょう。私たちの手にかかればあっという間よ。どうやらブラックゲートって聞いて身構えちゃってたけど、全然大したことない――」


 そのとき、三人の背筋に等しく怖気が走った。


 一瞬にして張り詰める緊張感。漆黒の夜空がいっそうの暗黒に染まり上がったかのような錯覚に陥る。さらに大気が重々しく変貌し、また同時に毒々しい瘴気までもが溶け込んだかのような感覚。重く苦しく、痺れて、普通に呼吸をすることもままならない。


 その元凶は、上空に在った。


 黒々とした渦穴の向こう側から、宙に浮いた人に似た形がゆっくりとこちら側の世界に現れる。


 それは異形頭の騎士に見えた。……否、山羊の頭骨を模した仮面を着けた絶対なる強者にして支配者――まさに《王》の姿であった。


 禍々しくうねる二本の角を生やした白面の下にどんな容貌が隠れているのか、窺い知ることはできない。ただ、身にまとう紫紺色の全身鎧は重厚かつおぞましくも豪奢の限りを尽くした装いであり、異様とも言えるほどの威容とともに見た者すべてを跪かせんばかりの威圧感を放っている。また、大柄な鎧姿を隠すように悠然となびく闇色の袖無外套(マント)の存在が、人ならざる山羊頭の異形の姿によりいっそう恐ろしい威厳を添えていた。


 神崎たち三人の異能力者は刹那のうちに理解した。

 いま自分たちを見下ろす存在こそが、ブラックゲートをブラックゲートたらしめる真の理由なのだと。

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