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第2話 かつて最強の異能力者だった青年②

 言い終えると同時、地面に向かって爆炎を噴射した女性の躯体がさながらロケットのごとく超高速で上空に打ち上がる。


 炎をまとった女性が縦横無尽に夜空を疾駆し、軌跡をなぞるようにして無数の爆発が巻き起こる。そして落下していくのは、真っ黒に焦げたモンスターの死体。


『す、すごい……!』操縦士のひとりが感嘆の声をこぼした。『これがあらゆる敵を消し炭に変えるS級異能力者、灼熱炎舞の神崎花恋(かんざきかれん)の圧倒的戦闘力……!』


 その一方、ヘリの攻撃を掻い潜って都庁から地上へ降り立った無数の地上型モンスターの正面に立ち塞がる人影があった。


 くたびれたスーツを着込んだ三十路前後と思しき男は、革製のオフィスバッグをぞんざいに投げ捨てると、フレームレスの眼鏡を一度くいっと押し上げてから眼前の化物たちを睨み据える。


「久々に行きつけの店でいっぱい引っかけて帰ろうと思っていたのに、あなたたちのせいで今夜は休業確定です。過酷な現代社会を必死に生き抜く平凡なサラリーマンの私からささやかな幸せすらも奪うだなんて、これはあれですか、モンスターハラスメントというやつですか。まったく労基はなにをやっているんですかね」


「グキキキキキキキキキキキキ!」


 化物たちの威嚇などまるで意に介さず、男性はゆらりとした動作で腰を落として構えの姿勢をとる。


 男性に向かって猛然と襲いかかる異形の大群。

 それと同時、男性は地面を蹴り――そして姿を消した。

 次の瞬間、男性の姿はモンスターたちの背後にあった。


「――《万斬刀・己(バンザントウ・オノレ)》」


 たちまちモンスターたちの大群が血飛沫に染まり、全身を細切れに解体された無残ながらくたの山と成り果てた。


『化物の群れを一瞬で……!』また別の隊員がヘリのなかで目を見張る。『これがあらゆる敵を斬り伏せる無刀にして究極のひと振りたるS級異能力者、全身一刀の武藤省吾(むとうしょうご)の圧倒的実力……!』


 血の海に沈んだ化物の残骸へは振り返りもせず、S級異能力者たる武藤は都庁の外壁にへばりつく生きたモンスターたちを見上げる。


 と、そこに容赦なくミサイルが撃ち込まれた。

 着弾したミサイルが爆発炎上し、断末魔の叫びを上げながら墜ちていったモンスターたちがアスファルトに衝突してぐしゃりと潰れる。


 地面に落ちて死んだ化物よりも損壊した都庁を見てため息をついた武藤は、ミサイルが飛んできた方向へと目を向けると窘めるように言った。


「むやみに建物を破壊しないでくださいよ捻子巻くん。一般人が巻き込まれでもしたらどうするつもりですか」


 武藤の視線の先にあるのはヘリコプターではなく、したがってミサイルを放ったのはヘリコプターではない。


 武藤の視線の先に佇むのは――巨大な人型ロボットだった。

 乗用車やトラック、バイクや果ては自動販売機など、周辺に存在するあらゆる金属物質を変形させて無理矢理組みつけたように若干歪な形をした鋼鉄の巨人が、自身の存在を誇示するかのごとく仁王立ちしている。


『なに言ってんのさ武藤のおっさん。周辺市民の非難は完了したって端末に報告が入ってたでしょ。それに都庁なんか真下にシェルターがあるんだから逃げ遅れてる奴がいるわけないって』


 ロボットから聞こえる外部スピーカー越しのややくぐもった声は、先ほどゲームセンターから出てきた少年のものと同じである。そして実際、ロボット内部に設えられたコックピットのなかに彼の姿はあった。


「司令部からの報告も絶対とは言い切れないでしょう。あといつも言っていますが私はまだ二十八歳です。おっさんではありません」


『十七の俺からすれば余裕でおっさんじゃん。それにもし本当に逃げ遅れた奴がいたとしたら、それは俺らに間違った報告をした司令部の責任だね』


「仮に逃げ遅れた市民がいなくとも、可能な限り建造物等の保護にも意識を向けるべきでしょう。物的被害が少なければ少ないほど、復旧にかかる費用も少なくて済みます」


『そんなことまで考えてたら戦いに集中できないよ。それにモンスターとのバトルっていったらド派手にやってこそなんだからさあ』


「まったく君ときたら……」


 呆れた様子でもう一度ため息をつく武藤。それ以上、彼は少年になにも言わなかった。


『つーわけで遠慮無用でモンスターどもをぶち倒させてもらうぜ』


 鋼鉄の巨人が両腕を都庁に向かって突き出すと、ガシャコン! と音を立てて前腕部の装甲が開き、なかから円周状に無数の穴が開いたシリンダーが飛び出した。


『とくと味わいな雑魚ども! これが俺の力――《鋼鉄顕現(アイアンソウル)》が生んだ相棒の力だ!』


 シリンダーが回転し、数十発のミサイルが発射される。

 ――否、それは普通ミサイルではなく、自販機で売られているような缶コーヒーや缶ジュースだった。不思議な力を帯びた缶の弾丸が、まるでミサイルのような軌道を描きながらビルの外壁を這うモンスターたちへと向かっていったのである。


 相次いで缶ミサイルが化物たちの躯体を喰い破り、体内で爆発して醜悪な肢体を爆散させる。たとえ狙いを外れた弾丸が都庁を誤爆しようがまるで厭わず、むしろそれすら楽しむかのように、ただひたすら無差別な攻撃の嵐がビル外壁もろとも敵の群れを粉砕していく様はある種圧巻でもあった。


『通常兵器を遙かに上回る火力だ……!』また別の操縦士がヘリのなかで独り言つ。『これがあらゆる論理を逸脱した鋼鉄兵器を創造するS級異能力者、鉄魂付与の捻子巻啓介(ねじまきけいすけ)の圧倒的破壊力……!』


 いつしか戦闘ヘリの部隊は前線から大きく距離をとっている。しかしそれも当然のことだった。モンスターの周囲をヘリがうろついていては、却って彼らの仕事の邪魔になる。


 その事実を証明するかのごとく、たった三人の人間の手によって、数百にも及ぶ異形の大軍が、空からも地上からも一掃されていくのである。


 やがてすべてのモンスターが駆逐されるのと同時、各々戦闘を繰り広げていた三人の異能力者が図らずも都庁屋上に集結した。


 静けさを取り戻した東京の夜空の下、ふたりの人間と一体のロボットが向かい合う。仕事を終えたかに思える彼らの表情には、涼しげではありつつもいまだに凛とした緊張感が張っていた。

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