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魔法世界の落ちこぼれ最強異能力者  作者: 夜方宵@MF文庫J/講談社ラノベ文庫より書籍発売中
初章 転生、そして落ちこぼれ同士の出逢い
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第19話 お父様を侮辱するな!

 やがてセルシリアの順番が回ってくる。

 教壇の前に立ったセルシリアにクラスメイトたちの視線が注がれる。よく見てみると、彼女のこめかみにはうすく汗が滲んでいる。


 やっぱり緊張しているらしい。いや、これは緊張というよりも、こわがっている……?


 小鳥をじっと凝視していたセルシリアは、胸に手を置いて深呼吸をすると、覚悟を決めた表情で杖を構えた。


「この声に耳を傾けし者、いま一刻を我に捧げよ――《指示の魔法(ダイレクト)》」


 しかし、詠唱を終えてもなお変化はなかった。俺のときと一緒だ。魔力は光輪を成さず、小鳥はセルシリアのことなど知らぬ顔でせわしなくきょろついている。

 どうやらセルシリアも失敗してしまったようだ。

 セルシリアの顔が悔しさに歪む。食い込むほどに強く唇を噛みしめる様は、彼女が自分自身に抱いている怒りの強さを思わせた。


 その様子を見て俺は思い出した。

 そうか。セルシリアは言っていた。ハインヘーゲル家の祖先、初代魔導八賢のひとりであるベンデッダ・ハインヘーゲルは召喚使役魔法を極めた魔法使いだったと。

 きっとセルシリアにとって召喚使役魔法は特別な魔法に違いない。だから彼女は緊張していたし、恐れていたのだ。偉大な先祖が得意としていた魔法を大勢の人前で失敗することは許されないと。


 しかし結局、彼女は失敗してしまった。


「恥ずかしい」


 セルシリアの言葉ではない。

 刺々しい侮蔑を乗せた台詞を投げつけたのは、やはりというべきか、ミハエル・ウォンテッドだった。


「初級の使役魔法すらろくに使えないとは、お前は本当に本当に《召役の魔導》ベンデッダ・ハインヘーゲルの血を継ぐ魔法使いなのか? 人前で無様をさらしてほかの初代魔導八賢の直系子孫である僕たちの名誉にまで泥を塗るのをいい加減やめてもらえないか」


 氷柱のように冷たく鋭いミハエルの眼差しを背中で受け止めるセルシリア。

 すると無言を貫くセルシリアに苛立った様子でミハエルは立ち上がった。


「いまの体たらくを見て確信した。偉大なる初代魔導八賢ベンデッダ・ハインヘーゲルの血は完全に死んだ。もはやハインヘーゲル家には、誇り高き魔法貴族を名乗る資格などない。そんな人間がこの王立ロンドール魔法学院に在籍しているなんて実に不愉快だ。いますぐ荷物をまとめて出ていってはくれないか」


 そこでようやく振り返り、セルシリアはミハエルを睨み返した。


「嫌よ。あんたになにを言われようと私は学院を辞めたりしない。私には、この学院で魔法を学ばなきゃいけない理由があるんだから」

「ふん、お前みたいな没落の血が魔法を学んだところでなにを為すというんだ」

「決まってるでしょ。世界で最高の魔法使いになって、魔導八賢の称号を取り戻すのよ。そうしてもう二度とあんたやほかの誰にも私たちを――ハインヘーゲル家を侮辱させないようにしてみせるんだから」


 セルシリアの力強い眼差しがミハエルを射る。

 ミハエルは切れ長の目をわずかに見開いた。


「お前が魔導八賢に……?」

 怪訝そうに眉をひそめていたミハエルは、やがてわざとらしく嘲笑を浮かべた。

「くくく……あははは! なにを言い出すかと思えば、初級魔法も満足に扱えない落ちこぼれが魔導八賢になるなどと戯言をほざくとは恐れ入った」

 口許に嘲笑をたたえたまま、ミハエルは嫌悪を込めたような鋭い眼光をセルシリアに飛ばす。

「軽々しく魔導八賢になるなんて口走るなよ没落の血族が。いま言っただろう、ベンデッダ・ハインヘーゲルの血は完全に死んだと。お前の無能がなによりの証拠だ、セルシリア・ハインヘーゲル。お前の家に魔導八賢の称号が渡ることは、未来永劫あり得ない」

 柳眉を逆立てるセルシリアを前にしても、意に介さずミハエルは続ける。

「そもそもだ、お前は自分の父親の愚行と醜態を忘れたのか? あの男ほど愚かな魔法使いはほかにはいない。魔導八賢の称号を剥奪されたのも当然のことだ。そしてお前という存在がそれを証明している。なにせあの男の血を継いだお前がこれほど無能なんだからな。……まったく、自らが愚かであるばかりか子どもまで出来損ないだとは、あの男――セルトロア・ハインヘーゲルはこの世で最も低劣な魔法使いだったと言わざるを得ないな!」


 その瞬間、セルシリアの双眸に憤激が灯った。


「お父様を侮辱するな!」

 これまで見たことがないほど怒りに染まったセルシリアがミハエルを睨み据える。

「お父様は低劣な魔法使いなんかじゃない! お父様は誰よりも高潔で、誰よりも魔法を愛していて、この世界で一番尊敬できる素晴らしい魔法使いだったわ! お父様こそ、誰よりも魔導八賢に相応しい人だったんだから! 本当のお父様を知らないくせに勝手なことを言わないで! いますぐ発言を撤回しなさい、ミハエル・ウォンテッド!」


 ミハエルに向かって杖を突きつけるセルシリア。

 しかし恐れる素振りもなく、見下した表情でミハエルはセルシリアを睨み返す。


「ふん。僕に発言を撤回させたいというのなら、力尽くで撤回させてみるがいい」

「力尽くで……?」


 眉根を寄せるセルシリアにミハエルは言った。


「その杖を使って自身の実力を証明する。それが誇り高き魔法使いのやり方だ」

「それって……」

「ああ、決闘だ」


 決闘。つまりセルシリアとミハエルで魔法を使った戦いを行うということか。


「この王立ロンドール魔法学院には生徒同士の決闘についての規定がある。僕に発言を撤回させたいなら、決闘でこの僕を倒してみせろよ出来損ない。もし万が一僕に勝つことが出来たなら、そのときは謝罪でもなんでもしてやる」


 意地の悪い挑発だ。

 ミハエルはセルシリアが首を縦に振れないのをわかっていて言っている。

 入学初日にミハエルが見せた上級魔法の凄まじい爆裂が蘇る。あんな強大な魔法が使えるミハエルにセルシリアが勝つなんて不可能だ。セルシリアだってあの魔法を見ていたし、自分と相手との実力差は重々承知しているはずである。

 泣く泣く引き下がるセルシリアを嘲り笑ってやるのを、ミハエルは待っている。


 だが、しかし。


 ミハエルの予想に反して、そして俺の予想にも反して、セルシリアはミハエルを見据えて答えた。


「わかったわ。やりましょう、決闘を」

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