第0話 プロローグ
学院内に設けられた円形闘技場の中心で、俺は相手と向かい合う。
周囲の観客――放課後の娯楽目的のために詰めかけていた生徒たちは、想定外の光景を前に誰もが目を丸くして絶句している。
「あんた……いまなにをしたの……?」
俺に護られるようにして背後に立つ少女――白銀色の長髪をした碧眼の少女もまた、半ば呆然とした表情で俺の背中を見つめている。
だが観客たちよりも、少女よりも、誰よりもその顔を驚愕の色に染めているのは、いましがたこちらにとどめの一撃――必殺の上級魔法を放ったつもりの少年にほかならなかった。
わざとらしく挑発的に口の端を吊り上げてみせると、眼前の少年は憤慨の形相を浮かべては屈辱を噛み砕くように歯を剥いた。
「なんだそのわけのわからない力は……! お前、一体どんな魔法を使ったんだ!」
……なるほど、魔法ね。
やっぱりこの世界の人間にはそう見えるのだろう。
だが答えはまったく違う。
「残念だが、これは魔法なんかじゃない」
なおも口端に小さく不敵な笑みをたたえたまま。
俺は久しく忘れていた感覚を徐々に思い出しながら、力漲る双眸を正面の相手に向けて言った。
「なあお前――《異能力》って、知ってるか?」