第三話
「なんで!?エンジョイ大会のはずだったよな!?なんでそんな奴らが集まってんだ!?」
『いや、それがさあ…… 仲のいいプロとか猛者に今回のこと話てみたら、ノリでめっちゃ集まってきた☆』
「何してくれてんだテメェ!とういかそんなノリで来て大丈夫なのかプロ!?」
『大丈夫じゃない? 今暇な時期らしいし。知らんけど』
「知らんけどじゃねえよ!テメェのせいで俺は化け物共と戦う羽目になったんだぞおおおおおお!!」
なんでただの復帰エンジョイ勢がこんな化け物の巣窟にぶち込まれなきゃダメなんだ!ボコられるの確定じゃねぇか!
……あれちょっと待って。俺ってネットでsh1noの謎の相方としてあちこちで話題になってるんだろ?
「おいsh1no、一応聞くが今の俺がそのプロやら猛者やらと戦ったらどうなる?」
『間違いなくボコられるだろうね』
「……まぁそこはいいわ。問題は次。その大会って公式の実況とか配信ってされる?」
『うん。毎年恒例の奴だからほぼ確定でされると思うよ』
「……なら、その配信で俺がもし戦犯かまして負けたらどうなると思う?」
『まあ数ヶ月はネットの玩具コースかも?』
「すぅぅ今から棄権することってできますか?」
『無・理☆』
「────」
目の前が真っ暗になってデスクの上に突っ伏した。もうだめだ。来月にはSNSの海に俺の無様な死に様が漂ってるんだろうな……。
『……まぁ頑張って』
「ふざけんな!!」
俺はデスクを叩いた。というかコイツ、どこまで他人事なんだ。
「マジで無理だって……このままだと、笑い者確定じゃねえか……!」
『じゃあ強くなれば?』
「そう簡単に言うなバカ!お前と違ってこっちは一般人なんだよ!ゲームから離れてたし、感覚も鈍ってんだよ! 一ヶ月程度でどうにかなるわけ──」
『なると思ってるけど?』
「……は?」
顔を上げると、画面の向こうからは変わらぬトーンのsh1noの声が返ってくる。
『だってお前、元々強かったじゃん』
「……いや、だからそれは昔の話だって」
『大丈夫大丈夫。どうせ一ヶ月後にはまた強くなれるから』
「……根拠は?」
『昔のお前がそうだったから。何回も飽きて、やめて、それでまた戻ってきて』
相変わらずの淡々とした声が返ってくる。だけどその声には、どこか揺るがない自信があった。
『最初はボロボロだったけど、たった数日でまた強くなって、追いついてくる。お前は、そういう奴だって知ってるから』
「……そんな信頼されても困るんだけど」
『俺が信じるのは勝手だし』
「お前ほんと……マイペースすぎるだろ」
呆れながらも、少しだけ胸の奥が軽くなるのを感じた。
こいつの言葉には、根拠なんてない。ただの感想、ただの「知ってる」というだけ。でも、その「知ってる」が、なんだか妙に俺の心を揺さぶってくる。
「お前……ほんと、いつもそうやってさ。さらっと無茶言うよな」
『んー? 無茶かなあ?』
「無茶だわ、復帰したばっかの奴に一ヶ月後にプロ達と戦えなんて」
『でも、その無茶に乗ってくる来たのがお前だろ?』
画面越しのsh1noの声は、いつもの調子だった。軽くて、ふざけてて、だけどどこか真剣で。
「──あーもう、クソッ……!」
──ズルいよ、こいつ。こんなこと言われたら、逃げる気も失せるじゃねぇか。
「……分かったよ。やってやる。マジで一ヶ月で仕上げる。絶対に、戦犯なんかにならねぇ」
『なら、早速練習、始めちゃいますか』
「だな。あ、でも一言だけ言わせろ」
『ん?』
「俺が負けて笑われても、全部お前のせいだからな。ちゃんと責任とれよ」
『任せて。しっかり話題広めた元凶として死ぬほど煽り散らかしてあげるから』
「ッ!! この悪魔ああああああ!!!」