第三話
配信開始から数時間が経った。復帰勢ラックなのか、それともただ単に俺が上手いだけなのか、毎試合かなりいい順位取れて順調にランクを上げていった。
「そろそろプラチナ昇格か……」
──早え
──まだ数時間しか経ってないぞ
──ズルか? ズルだ。ズルに違いない!
プラチナ──このゲームの五個目のランク。つまりあいつとパーティを組めるラインに、もうすぐ辿り着く。
正直自分でも驚いてる。あの時大口叩いたとは言え、このゲームは本来色々な運要素があって本来ここまで早くランクを上げることはできないのだ。
「ま、最後は景気良く激戦区に降りますか」
──あ(察し)
──こういうの死亡フラグって言うんですよね知ってますよ
──あいつ死んだな
コメントでなぜか死亡フラグが立ちまくってるが、それに構わず俺はあの憎き激戦区(一話参照)へ降りていく。
「うっわ、やっぱ敵めちゃくちゃ多いな」
相変わらずの敵マシマシ仕様。降下中に軽く周りを見てみたが、十人以上はいるだろう。コメントでの死亡フラグが加速いていく。
俺はそのフラグをへし折るために爆速で物資を漁りながら脳内で作戦を組み立てていく。
(足音の数から俺の近くにいるのは三人……よし。ならこうするか)
いい感じに装備が整ってきたところで、俺は敵がいるであろう五階建ての建物へ入っていく。
──お、行くか
──武器はサブマシンガンにショットガンとゴリゴリにインファイトする気ですな
──ただ回復が少ないか?
一階、二階、三階と登っていったところで、真上から響く足音が途端に止まった。おそらく敵もこちらに気付いたのだろう。
階段から四階へグレネードを投げ込み、爆発すると同時に突入。ダメージは与えられなかったが、爆発による煙で敵もこちらの姿が見えないだろう。
煙の中をスライディングで突っ切りながらショットガンをを構え、敵が見えた瞬間にフリックショット。すかさずサブマシンガンへ持ち替えて乱れ撃ち。少し外してしまったせいでシールドは割れてしまったが、とりあえず一キル目。
──上手い!
──ナイスキル
漁っている最中に、二つの足音がこちらに近づいて来た。
「やっぱ来るよなぁ」
──漁夫かあ
──来るの速いな
漁りを一旦中断し、回復を終えたところで一つの足音が土を踏む音から金属音へ変わる。どうやら一人がこの建物の中に入って来たようだ。
「あちゃーもう来たか。下でやり合ってくれることを期待したんだがな」
目論見が失敗した俺は、サブプランへ移行することを決定。まず階段へグレネードを続けてなげて敵を牽制する。
敵が足止めされている間に窓の方を見てみると、もう一人の敵がこちらの建物へやって来るのが見えた。俺をその敵を攻撃せずに再び階段の方へ戻り、手持ちのグレネードを投げ込みんだあと屋上へ向かいそのまま地上へ飛び降りた。
爆発音に紛れて一階で潜伏。直後、上から戦闘音が聞こえて来る。しばらくして戦闘音が止むと同時に上へ駆け上がって生き残った敵と撃ち合う。先ほどの戦闘で体力をほとんど削られたのか、あっさりと倒せた。
「よし……これで二キル」
──うっま
──よくそんな作戦思いつくなあ
──天才かよ
二人の物資を漁ったあと、即座に激戦区から離脱。あんなとこに居続けたら命が持たねぇ。
そんなわけで激戦区から離れた小屋で待機。特にやることもないので雑談タイムに突入。
「いやー昨日から復帰したけどやっぱ楽しいねえ」
──昨日復帰してこの強さなのか……
──ワイ、余裕で負ける自信ある
──嘘つけ、復帰勢の強さちゃうぞ
──昨日から復帰……もしてして?
──まさかお前が噂の!?
──お前だったのか!
チィぃぃぃぃぃ勘のいいガキ共がぁ! いや待て、こいつらのことだ。どうせノリで言ってるだけに違いない。
「ああ、噂になってるあれのこと? ないない、俺がそんな凄い奴に見えるか?」
──見えないわ
──疑ってすまんな
──ただのハゲだったわ
──ごめんなクズ野郎
バカな奴らだぜ。後半の悪口兄弟を再び処して再び移動を開始。その後も特に戦闘も起きず、試合は最終局面へ突入。
残る敵は二人。俺は目の前にある民家に入ろうと扉を開けた瞬間、目の前に映ったのはドア前でショットガンを構えている敵の姿……
「あ、失礼しました──ピィッ!?」
──声たっかw
──人間の声じゃねぇw
およそ人間とは思えない高音の鳴き声を出しながら、7年間積み上げた経験と反応で直撃を受けながらこちらも相手にショットガンを当て返す。
こちらは突然のガン待ちショットガンに、相手は反撃が予想外だったのか、互いにガバガバエイムになり、その後のショットガンを全弾外し、結果的になんとか勝利。
「ハァハァ……マジで焦ったあ」
──それはしょうがない笑
──よく勝ったなw
──相手のサブがスナイパーで良かったなw
突然のホラーを乗り越えた俺は息を整えながら、敵の物資を漁って行く。これで最初の死亡フラグもへし折れたことだろう。
「お、この敵めちゃくちゃ物資うめぇぞ、勝ったなガハハ」
──GGでした
──ああ、kirenの勝ちだ
──配信お疲れ様〜
ほら、リスナー達も勝ちを確信している。最後の敵を倒すべく意気揚々と扉を開けた瞬間──
パンッ!
「ピィィィィィィ!?」
──知ってた
──予定調和
──予測可能回避不可能な未来
こうして、乾いた銃声と共に頭をぶち抜かれた俺は、再び鳴き声を上げながら、リザルト画面へ移動した。
「あ、昇格してるわ今日の配信終わりで!」
──おいこら逃げんな!
──1位取れなかったら続けるんじゃないんですか!?
──そうだそうだ!
「るっせー! 上がれたからいいんですぅ!」
そうして終わりの挨拶をしようとロビー画面へ戻った時、なぜか待機画面には奴《sh1no》の姿が。
「くぁwせdrftgyふじこlピィ!?」
──は?
──え?
──ゑ
──マジ?
『昇格おめで──』
「黙れぇッ!!」
混乱しながらもまずは目にも止まらぬ速度でこのアホをロビーからキック!
コメント欄が驚きと困惑で埋まって行くが今の俺にはそれを気にする余裕がねぇ!
「はい今日の配信終わり! バイバイ!」
──あ
──ちょ
──待っ
数分後、通話がかかって来る。相手はもちろんあのボケナス。
『おーい。なんで俺キックされたんですかー?』
とりあえず俺が配信してたこと、そしてその配信にこいつが映り込んだことを一通り説明したら──
『え、何それめっちゃ面白いじゃん』
「こっちは何も面白くねぇんだよ!!!!!!!」
奴の笑い声と、俺の叫び声が家の壁を突き破り、夜の空に響き渡った。




