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「主に行動、習性や攻撃手段、弱点、耐性などの、討伐前提での情報を書き記したものか。なるろど、これは早く読めばよかったな」
その中でもスティングビーのページを探し、見つけた。
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【名称】スティングビー
【行動・習性】
主な行動パターン:索敵後突撃 → すぐ離脱 → 遠くで旋回を繰り返す
活動時間帯:昼間に活発、夜は巣に戻る
性格:警戒心が強く、群れで行動すると凶暴化する
特殊行動:稀に体色が青白く光る“監視個体”が出現する
【攻撃手段】
通常攻撃:空中からの針突き
特殊攻撃:毒針攻撃
使用頻度・威力の目安:連続で3回攻撃することが多く、毒の蓄積値が高い
【弱点・耐性】
弱点属性:風属性・氷属性
耐性属性:毒・麻痺・植物系魔法
特記事項:飛行中の動きが非常に素早いため、遠距離攻撃か罠が有効
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「なるほど、監視個体、か」
そういえば巣の中で何度か見たかもしれない、と思い出す。
「監視個体と言うのであれば、外の監視を担っているのか? その個体は外で見たことがないが……もしや、俺を視認した時点で、監視個体は巣に戻る……? なるほど、いいヒントを得たな!」
雄剛は本を閉じ、明日に備えて早く眠ろうと、寝室に向かう。
「明日はスティングビーの監視個体を外で倒し、どうなるか見てみよう。いい予感がする」
そう言いながら、雄剛は機嫌良く眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、雄剛は朝食を終えて、亜空間に入る。
鍵がない場所はランダムに選ばれるが、雄剛はすでに10個の部屋のうち9個の部屋の鍵を手に入れているため、鍵を刺さずに扉を開けると、確定でスティングビーの部屋につながる。
果物のなる木が多い森。
日は高く、この部屋では日は落ちない。
「……む。さっそく羽音だな」
木の影に隠れながら、慎重に森の中を進む。
ミッションの攻略により、気配を察知したり、気配をなるべく消したりなど、現代では身につかないことが、身につき始めている。
雄剛は気づいていないが、彼自身の五感の感度は向上し、周囲の環境に徐々に敏感になっていた。
「……いた」
6匹のスティングビー。
その中に監視個体はいないようで、雄剛は引き続き気配を消しながら森を歩く。
「次のは…… いないな」
次に出会った5匹の部隊の中にも監視個体はいない。
「またいないぞ。これは長くなりそうだ」
はぁ、とため息を吐く。
目を強くつむって気合いを入れ、雄剛はまた探し始めた。
しばらく探し回っていると、スティングビーの羽音が聞こえ、慣れたように身を隠す。
雄剛の視線の先、そこには、通常個体のスティングビーが3匹と、青白く腹の部分が光る、特殊個体が1匹いた。
(あれだ……! とうとう見つけたぞ!)
雄剛は唇を湿らせ、短刀を鞘から抜く。
木の影に隠れ、スティングビーの視界に入らぬように距離を詰め……背後から、一閃。
「ギチチチッ!?」
監視個体が刃に切り裂かれ、ボトリと亡骸が落ちる。
それに対し、雄剛にようやく気づいたスティングビーは、鋭い速さで雄剛に針を向ける。
「お前のパターンはもう心得ている。背後から毒針だ」
雄剛に針を向けた個体とは違う個体が背後に回り、腹を光らせた次の瞬間、毒針を発射する。
予想通りの展開に、難なく避けながら、短刀で敵を切り裂いていった。
「……ふむ。これでどうなるか、だが」
切り捨てた亡骸には目もくれず、雄剛はスティングビーの巣がある方角に目を向ける。
すると一瞬、空気が震え、強い風が吹いた。
「っ……なんだ?」
――キィィアアアア……ッ!
悲痛な叫び声が響き渡る。
「この鳴き声は……女王蜂か?」
スティングビーの女王が、追い詰められた際に発する叫び声だった。
何度も聞いたことのあるそれだが、今日の叫び声は、一段と大きい。
「混乱……いや、動揺か?」
――バババババ……。
ヘリコプターのような轟音が近づいてくる。
「これは……」
女王蜂。
スティングビーたちの女王が、自ら狩りに赴いたのだ。
女王蜂の複眼が、ぎょろりと雄剛をとらえる。
「ッ――」
瞬間、毒針が唸りを上げて射出された。
「ッ、いつもとは違う戦闘パターンのようだな……っ!」
「ギィーーッ!」
女王蜂が連れているスティングビーたちも、雄剛に飛び掛かる。
しかしそれを難なく切り捨てると、女王蜂は苛立ったようにガチガチと牙を鳴らした。
「ふんッ……!」
空中に飛び上がり、スティングビーを2匹切り裂く。
その着地と同時だった。
女王蜂が叫び声を上げ、羽をさらに激しく羽ばたかせる。
空気が震え、いや、吸い込まれているような感覚。
雄剛は第六感が働き、本能的に身を屈める。
次の瞬間、女王蜂から無数の風魔法が放たれる。
それは木を切り裂き、薙ぎ倒し、雄剛の体を掠めていった。
「ッ」
数少なかったスティングビーは、女王蜂の無差別な攻撃に倒れる。
相対する女王蜂の姿は、今まで見てきたどの部屋のモンスターよりも、強い力を発していた。
「ふむ! これは手強そうだ」
呟き、ニヤリと笑う。
雄剛は忍ばせていたもう一本の短剣を抜き、両手で武器を構えた。