05
スライムを100体以上切り捨てた雄剛は、滑らかに剣筋が動いていることに気づいた。
「ふむ。昨日までの短剣での攻撃が剛の攻撃だとしたら、今日のは柔の攻撃だな」
剣と刀の性質上の要因もあるが、雄剛は自身の武器を扱う能力に、慣れてきたのがわかった。
「よし、戻るか」
亜空間から出て、雄剛は一階に降りる。
キッチンの棚に置いてあった水差しに、魔法で水を入れる。
夜に練習したおかげで、ある程度の魔法は使えるようになっていた。
コップと水差しを持って、書斎に向かう。
今日は植物図鑑を読んでから眠ることにしていた。
「空の草木、か。海は海藻だとしても、空とはどういうことなんだ?」
本を開く。
1ページ目に記されていたのは、サーリ草という草だった。
「名称の由来は諸説あり、古代語で地を意味する“sa”と命を意味する“ari”を由来としている説や、魔力を“探る”という古代魔術語“saar”から派生したという説がある」
サーリ草は人里、道端、城壁の陰などどこにでも生息する草だ。
日光、月光などの自然光で育つ草で、痩せた土地でも育ち、寒暖どちらにも強く、乾燥地帯でも成長する。
魔力回復作用もあり、草自体に即効性はないが、魔力回復ポーションを作る際の材料としても重宝されている。
魔力に対する感受性がとても高い草としても知られ、魔力の濃度により葉先の色が変わる。
「ふむ。ポーションか。そういうのを作るのも楽しいかもしれんな」
ページを捲る。
次に記されていたのは、アリヴィア草だった。
「……む。挿し絵が亜麻の花とそっくりだな」
アリヴィア草。
温暖な平原地帯や農村周辺、風通しの良い場所などによく見られる草花だ。
茎の中がまっすぐ中空になっており、成熟すると強靭な繊維を含む。
花の色は淡い紫色で、春の終わりから夏の初めにかけて咲き、小さな黄金色の実をつけ、少量の油が取れる。
水はけのよい土地に生息し、栄養のある土壌で育てれば繊維も丈夫になる。
「繊維を取るには、花が散った直後、実をつける前の茎を刈り取り、水で数日間浸けて繊維を柔らかくする……なるほど、亜麻とは違うな? ひとつの花から繊維も油も取れるわけではないのか」
さらに葉は乾燥させた粉末は軽度の消炎作用があり、傷薬である軟膏や、怪我を治すためのポーションを作る際の材料として取り入られることもある。
「ふむ! 糸を作る手順もこのページに書かれているな」
水に浸し、乾燥させた後、木槌などで叩いて外皮を剥がす。
長い針のような櫛で繊維を何度も丁寧に梳かし、不純物を取り除く。
そして出来た繊維を撚糸、撚って糸にすれば、完成だ。
「これで釣り糸が作れそうだ!」
他にも、強い糸は使いどころが多いだろう。
「糸、油、薬が作れるとは万能の花だな!」
今度作ってみようと決めて、次のページを捲る。
結局その日は空の草木の項目までいきつかず、夜が更けていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それからも雄剛は、亜空間での修行を積みつつ、ミッションも順調にこなしていった。
そして、転生してから1ヶ月が今日……雄剛は、9つめのミッションを達成した。
『無音の一撃』、ダークゴブリンの群れのリーダーを誰にも気づかれずに討伐するミッション。
『ぷるぷる奇襲大作戦』、ソフトスライムが攻撃を避ける、逃げるなどの行動をする前に一撃で仕留め、討伐するミッション。
『共鳴の咆哮』、ファングウルフが仲間を呼ぶ遠吠えをする前に、ファングウルフを討伐するミッション。
『暗闇で羽音を追え』、洞窟の明かりを全て消し、暗闇の中でナイトバット群れを討伐するミッション。
『病の根を絶て』、トキシックラットの群れを全滅させず、巣の奥の毒結晶を破壊するミッション。
『いたずら返し』、レッサーインプに武器を盗まれた状態でレッサーインプを討伐するミッション。
『完全破壊』、ボーンゾンビの頭部、胴体、両腕、両足の順で部位を破壊し、討伐するミッション。
『巣の主ごと焼き払え』、巣に火をつけた状態でポイズンスパイダーの女王を討伐するミッション。
そして今日クリアしたのは、『ツルハシの誇り』。
戦闘中にマインコボルトが落としたツルハシを使い、マインコボルトを討伐するミッションだ。
「これで残りは、スティングビーだけだな!」
スティングビー以外のミッションはクリアし、鍵を手に入れた。
そのため、雄剛はいつでも他の魔獣を相手することができる。
しかしスティングビーだけ、まだミッションをクリアするどころか、ミッションクリアのヒントすら掴めないでいた。
「うーむ……スティングビーはもはや1000体以上は倒している。それ以外のミッションから察するに、多く討伐するようなミッションではないだろうし……悩ましいな」
亜空間から部屋に戻り、雄剛はヒントを探しに、書斎で他の本を漁ることにした。
この書斎には、さまざまな本が置いてある。
貴族の礼儀作法が掲載された本や、国の歴史が記されたものなど、さまざまだ。
その中でも、雄剛は『魔獣』というシンプルな本を見つける。
「そういえば、まだこれは読んでいなかったな」
今日の本を決めて、雄剛は椅子に腰掛けた。