04
「今日は亜空間に行こう」
筋肉痛が治り、十分に動けると判断した雄剛は、亜空間に入る。
すると亜空間から出た時のままの姿になっており、雄剛は目を瞬かせた。
「すごいな。革鎧の傷跡も治っている」
刃こぼれしてしまった短剣も綺麗に治り、刃が輝いていた。
「ゴブリンの巣はすべて破壊したと思ったが、今日はどのようになるだろうか」
迷いなく扉を開け、外に出る。
そこには、森が広がっていた。
光がさす美しい森だった。
どちらかといえば、手入れされているような、そんな印象を受ける森。
「ふむ。どんなモンスターだ? ファングウルフ? スティングビー?」
短剣を構えながら進むと、やがてなにか音が聞こえてくる。
――ぽよんっ。
――ぽよっ。
「……なんだ?」
視線を向ける。
それと同時――。
「ぷるるるるるるっ!」
「ぬおっ!?」
一閃。
短剣で襲いかかってきたなにか――ソフトスライムを切り付けると、べとりと革鎧に粘膜が付着した。
「ぬっ……なるほど、ソフトスライムだったか」
――――――――――――――――――――
【名称】
・標準名:ソフトスライム
・別名:青い滴
【分類】
・分類階級:軟体魔獣
・生息地:浅い森、湿地、遺跡、洞窟
・活動時間:夜間の方が活発だが、どちらも併せ持つ
【外見】
・体長・体重:約40~60cm/3~5kg
・特徴的な部位:半透明のゼリー状の体、内部に浮かぶ魔核
[挿し絵]
【習性】
・食性:雑食性(雑草、果実、獣肉、昆虫、人間の食糧、死肉、腐肉、汚物)
・性格: 温厚で好奇心旺盛、人間を見つけてもすぐには攻撃しない
・繁殖:分裂(条件が整うと小さな個体を吐き出すようにして増える)
・寿命:約3〜5年(魔力量で変動)
【備考】
・危険度ランク:F
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「昨日よりはるかに危険度が低いな。……なにかあるのか?」
首を捻ると、その直後、撃破したはずのソフトスライムが動き出し、雄剛は武器を構えた。
「回復……いや違う。そうか、魔核を捉えられていなかったか」
図鑑の内容を思い出し、雄剛はもう一度切り掛かる。
今度は魔核をしっかりと捉えた……はずだった。
ぬるんっ。
「ぬっ!」
雄剛の刃は通らず、めり込む――いや、ソフトスライムが雄剛の攻撃を、避けているようにも見える。
「なんと!」
ぴょんっ、ぷるるんっ。
逃げていくソフトスライムに、雄剛は驚きつつ、笑った。
「はっはっは! 本だけじゃわからないこともあるな!――力任せではダメらしい。もっと、鋭さを増さねば」
短剣を構える。
「それなら、イメージとしては刀だな。……うーん、子ども向けの短い刀はあったろうか?」
雄剛は踵を返し、武器庫に戻る。
並んでいる武器はどれも大人用で大きく、とてもじゃないが、いまの10歳の姿の雄剛には扱えないものばかりだ。
「む、短刀があるぞ」
引き出しを漁っていると、見つけたのは漆が塗られた短刀。
抜いてみると、逆手で持つのにもちょうど良い。
「ひとまず、これでいいか」
短刀を鞘に戻し、ベルトに刺す。
「これで切れるといいんだがな!」
もう一度、森に足を踏み入れる。
ソフトスライムの足音はしない。
どうやら逃げてしまったようだ。
「ふーむ……あまり長居はするなと言われたが、これは長丁場になりそうだ」
慎重に、耳を澄ませながら森を歩いていく。
数分歩いただろうか。
森が少し開け始め、奥から水が流れる音が聞こえ始めた。
――ぷるるんっ。
――ぽよんっ。
――ぽよっ。
それと同時に、ソフトスライムの鳴き声と足音も聞こえた。
「……慎重に近づいて……今だっ」
飛び出し、ソフトスライムに向けて短刀を振り下ろす。
パキン――ばしゃんっ!
魔核まで刀が届き、ヒビが入った瞬間、ソフトスライムの身体が水のようになり飛散する。
「ふうっ。これでやっと一体目だな」
そう呟いていると、雄剛の目の前に突然助けた青色のウィンドウのようなものが浮かび上がる。
「? これはなんだ?」
そこには、『ミッション:ぷるぷる奇襲大作戦』と書かれていた。
ぽん、とハンコが押されたようにクリアの文字が浮かぶ。
「ミッション? そんなものがあったのか」
やがて何もない空間から、鍵が現れる。
浮かんだそれを悩むそぶりもなく掴むと、ウィンドウは消えてなくなっていた。
「なに? ソフトスライムダンジョンの鍵……?」
あっ、と思い出す。
「そういえば、武器庫の扉のドアノブには鍵穴があったな。なるほど、これで任意の場所にいけるというわけか。……ならダークゴブリンはどうなったんだ?」
首を捻る。
しばらく考えて出した答えはこうだ。
「なんらかのミッションをクリアしないと、鍵が手に入らないため任意の場所、ダンジョンにはいけず、鍵を使わないとランダムに扉が繋がる……ということか?」
そう考えると辻褄が合うのだがな、と雄剛はつぶやく。
「……まぁ、悩んでいても仕方がないか。いずれまたダークゴブリンのやつらは出てくるだろう。まずは――」
ソフトスライムでの鍛錬。
100体倒すまで帰れない、それがいま、雄剛が決めたノルマだった。