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プロローグ

安原(やすはら)雄剛(ゆうごう)さん。あなたには異世界に転生してもらいます」


 目覚めると、雄剛の普通よりも勝気そうな顔面の上を、美しい顔面が覗き込んでいた。


「……ぬおッ!?」


 慌てて飛び退く雄剛に、美しい顔面はにこりと笑っていた表情を少し瞬かせた。


「おやおや、驚かせてしまいましたね」


「ああ、とても驚いた! あなたは?」


「私は……貴方のような人間の言う、神のような存在です」


「神?……ふむ! なるほど? つまりあなたは、俺のこの後を決める存在ということだな?」


「理解が早すぎてこちらが混乱してしまいそうですが、はい、そうです。ところでどうしてそう思われたのですか?」


「うむ! 意外にも思われるのだが、俺はいわゆるラノベというものが大好きでな。死んだ後に神と出会うといえば、そういうことだろうと」


「なるほど。ここまで冷静な方は初めてですよ」


「褒め言葉として受け取っておこう! では、俺はどうなるのだろうか?」


 雄剛がそう問いかけると、美しい顔面は微笑む。


「あなたには異世界に転生してもらいます」


「異世界? ああ、そういえばさっき言っていたか! すまない、少し混乱していたようだ!」


 大きな声でそう言う雄剛に、美しい顔面は頷く。


「いえいえ。こちらこそ、混乱している状況で大事なことを伝えてしまって申し訳ありません。実は人間が私の元に来るのは久しぶりなのですよ」


 そう伝える美しい顔面に、雄剛は少し考えるそぶりをしてから、なるほど! と合点が言ったように問いかけた。


「差し詰め、何人もあなたのような存在がいて、あなたが人間を担当するのは久しぶり、ということだろうか!」


「はい、大体はその通りですね。詳らかに説明するとすれば、私は異世界転生を担当する者であり、そのような人間の方はなかなかいないのですよ。ざっと10000年ぶりでしょうか」


「なんと! 10000年か」


 途方もない数字に、雄剛は驚く。


「10000年前はどのような方が転生したのだろうか? というか、10000年前に人間がいたのか」


「ここと現世では、時空が歪んでいるのですよ。あなたよりも少しだけ未来に生きている少女でした。ごく普通の少女です」


「それは不思議だな! で、異世界転生ということは、俺に使命とか、なにかがあるのだろうか? ちなみに俺が好きなのはスローライフ系だ!」


「それはよかった。あなたに望むことは、ただひとつ。異世界に転生して、その生を終えるまで暮らすことです」


「その生を終えるまで?」


 きょとん、と首を捻る雄剛に、美しい顔面は笑みを絶やさない。


「ただ生きるだけです」


「ただ生きるだけか」


「好きなように」


「……好きなように。それは……素晴らしい言葉だな」


 ふっと笑みをこぼす雄剛。


 美しい顔面は手を振りかざした。


 青い惑星が映し出される。


 だが、それは雄剛の暮らしていた惑星(せかい)ではないようだった。


「これは?」


「地球のような惑星です。しかし、地球とは違い、魔法という力が命を繁栄させ、科学は発展していません。あなたたちの世界の言葉で言うところの、ファンタジーな世界ということです」


「ふむ! ファンタジー、魔法、好きな響きだ。この世界の基礎知識などはいただけるのだろうか?」


「では、転生先に本を用意しておきましょう。口頭でも簡単に説明しますか?」


「そうしてくれるとありがたい!」


 ぱあっと顔を輝かせる雄剛に、美しい顔面は1度目を瞑ってから説明を始めた。


「人間や亜人、動植物が酸素を吸って生きているのなら、魔人や魔獣は魔力を吸って生きています。前者が光の種族、後者が闇の種族です。どちらが正義か悪かではなく、ただ光と闇のそれぞれの種族があります」


「ふむ?」


「光と闇はいつも争いあっています。ふたつの種族は戦うよう定められているのです」


「それはなぜ? 仲良しこよしとまでは行かずとも、共存はできないのか?」


「光の種族には理性があります。しかし、闇の種族には理性はありません。その違いを、どちらも理解できないのです」


「そうなのか……」


「あちらの世界の神は共存をお望みではないようです。このまま競わせ、惑星を発展させていく。それが狙いのようなのです」


「なるほど! それならば、俺もそうすべきだな。光の種族に転生するなら、光の種族として生きよう。闇の種族に転生するなら、闇の種族として生きようじゃないか」


「雄剛さんは、光の種族の人間に転生していただくことになっております。10歳の少年の姿となります」


「10歳か!……楽しみだな。ちなみに、俺の記憶は残るのだろうか?」


「望まれるのなら」


「もちろん希望する! 俺はそういうのに憧れを持っていたのだ。で、相場では能力等が与えられるところだが……」


 ちらりと美しい顔面を見ると、美しい顔面は頷いた。


「そちらも、望まれるのなら」


「ならば、生活に苦労しない程度の軽微な魔法を使える能力と、武器を上手く扱える能力をお願いしたい! できるだろうか?」


「もちろん。では、全属性魔法を少しだけ扱える能力と、全ての武器を扱うことのできる能力。この2つでよろしいですか?」


「ああ! 構わない!」


 望みすぎたかとも思ったが、雄剛は現代日本で生きてきた、サバイバル術などを知らない身。


 魔法で解決するなら、そうしたいというのが本音であった。


「ちなみに、あちらにいけばすぐ使えるようになるのだろうか?」


「慣らしは必要です。あちらの世界ではレベルという概念は存在しませんが、努力しただけ結果を得る可能性は高くなります」


「可能性は高くなる、か……ふむ、正直なのは好ましいな」


「ありがとうございます」


「地道に使えばいいのだな」


「そういう事です。ああ、いくら武器を誰よりも上手く扱えると言っても、体力が有り余っているわけではありません。もちろんそこは、肉体に見合ったものになりますので」


「なるほど! 運動はしていると自負してはいるが、さすがに戦うとなるとたしかに肉体は心配だ。もうひとつ望みを言ってもいいだろうか?」


「叶えられる範囲のものでしたら」


「あちらの世界に慣れるために、1年ほど命の危険なく過ごしたい! その間に肉体を鍛え、世界の基礎知識を詰め込み、勉強しよう。人と会わないようにもしてほしい」


「なるほど、その程度なら。でしたら転生先はドートの森にしましょう。1人で十分暮らせるほどの広さの家を作り……1年ほどは食糧や消耗品を定期的に届けます。食糧庫では、食材のみ時が進まないように。家の周囲に魔獣等が近づかないようにもしておきましょう。ああそれと……これも私からのプレゼントです。受け取ってください」


 美しい顔面が差し出したのは、手のひら大の黒い球体。


 真っ黒ではなく、いろいろな色を反射しているのがみてとれる。


「これは?」


「亜空間です。これに触れ、入ることを望めば中に入ることができます。物は中に持っていくことはできません。この亜空間の中は、想像の世界なのです」


「想像の世界? というと」


「この亜空間に入れば、たとえば水が入ったコップを想像すれば、それが出てきます。ですがそれは幻想に過ぎませんので、お気をつけください。わかりやすく言えば、仮想世界、ということです」


「仮想世界か。時間の流れは?」


「等倍です。1時間入れば、1時間時が経っています」


「それは逆にありがたい!」


「この亜空間の中で本物なのは自身の肉体のみです。裸な自分を想像すればそうなりますし、服を着ようと想像をすればそうなります。ただ結果を想像するだけでは、自分の肉体には何の影響も受けません」


「亜空間の中で筋トレをしたら、それは肉体を鍛えたことになるのか?」


「本物は肉体のみ。そのほかは幻想に過ぎませんが、動けば体力は減り、疲れ、成長します」


「なるほどな……パッと思いついたのは、ジムなのだが。トレーニング器具を使った負荷はかかるのだろうか?」


「すべては想像です。負荷がかかった想像をすれば、そうなるでしょう。ただ……」


「ただ?」


「トレーニング器具を細部まで想像するのは難しいでしょう? なので、よければこちらでプログラムを組みますが」


「なんと! 良いのか?」


「もちろん。私も久しぶりの転生のお手伝いということもあって、なんでもして差し上げたいのですよ。では、筋肉トレーニングができるプログラムと、仮想世界で魔獣等と戦うことのできるプログラムを組みますね」


「それはありがたい! 感謝する。さすがにぶっつけ本番で戦うのは恐怖心が勝つからな! 亜空間では死ぬことはないのだろうか?」


「ないとは言い切れません。先ほども言いましたが、亜空間内のすべては想像です。与えられた傷もすべて幻想に過ぎず、死ぬことをただ想像をするだけでは死にはしません。ですが、等倍で過ぎる時間の中、夢中になれば餓死するかもしれません。傷を負い、出血多量等を想像すれば、ショックで死ぬかもしれません。そこにはお気をつけください」


「なるほど。亜空間内で死を想像しないようにすることにしよう。餓死に関しては……時間をしっかりと管理すればいいだけのこと!」


 美しい顔面は優しく頷く。


「亜空間については、家の2階の部屋に設置しておきましょう。それでは、最後にご質問はありませんか?」


「そうだな……聞きたいことは大体聞けた。感謝する!」


「いえいえ。それでは、転生を開始しますね」


「ああ!」


 雄剛の了承を確認して、美しい顔面は手を振る。


「それでは、いってらっしゃいませ」


 雄剛の身体は光の粒子となり、やがて、その場には美しい顔面だけが残った。


 美しい顔面はしばらくそこに佇んだのち、つぶやく。


「久方ぶりの会話でしたが、なにか不備はありませんでしたでしょうか?……しかし、明るく元気な方でしたね。彼なら、あの世界を謳歌することができるでしょう」


 にこりと微笑み、美しい顔面もその場を後にした。

不定期で更新していきます。

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