EP97 投獄
森の奥で蜘蛛の魔物にやられた後、気づけば俺は暗い鉄の檻の中にいた。
「……ぐっ……」
頭が重い。どれだけ寝ていたのだろうか。
はっと目を覚ますと、隣に人影があることに気づく。
濃いオレンジブラウンの髪――ウルフカットのショート。
高校生ほどの少女のように見えるその子は、檻の外を不貞腐れた表情で眺めていた。
身につけているのは擦り切れたワンピース。布地はほつれ、色も褪せている。
「……やっと気づいた。丸一日も寝てたよ」
俺をちらりと見たその瞳は、不審者に向けるものと同じだった。
状況を確認する。俺は檻の中に閉じ込められている――それはいい。
問題は、どうしてか少女も同じく囚われているということだ。
なんとも訳のわからない状況だった。
「えっと……君が助けてくれたのか? 俺の名前はハトヤ。君は?」
「ボクはメルヴェ。……もう何十年もここに捕まってる」
「な、何十年!?」
目を剥いた俺に、彼女は檻の外を指差した。
「あいつらだよ」
その先には――俺を捕らえたレールスパイダーがうごめいていた。
「……殺されるわけでもなく、ずっと捕まってる? 一体なぜ……」
そう呟いたとき、ふと身体に妙な違和感を覚えた。
「……なんだ……? 天力が……吸われてる?」
「すごいな! すぐ気づいたなお前。まぁ、ボクもすぐに気づいたけどね!」
メルヴェは薄く笑うが、どこか表情は曇っている。
「どういうことだ……?」
「どうやらボクたち、こいつらの餌になってるみたいなんだ。
普通は空気中の天力を食うだけの魔物なんだけど……こうした方が効率がいいって覚えちゃったらしい」
檻の中でただ生かされ、天力を吸い取られる囚われの獲物――そんな現実に、背筋が冷える。
「……なるほど。バッテリーのエネルギーを取りに来たつもりが、とんでもない事になっちまったな」
「バッテリー? お前……村から来たのか?」
「ああそうだ。村の頼みで、エネルギーを取りに」
「……そっか。村のみんなは元気だった? 作業台とかも心配で……」
「大丈夫。村のみんなは元気だったし、作業台も俺が直しておいた」
「ほんと? よかったぁ……」
安堵の笑顔。その一瞬で、俺は彼女の正体に気づいた。
「……メルヴェ。もしかして君が“神様”か?」
そう問うと、彼女は胸を張り、自慢げに笑った。
「そうさ! 村では神様って呼ばれているよ!」
――やはり。神様の正体は、この少女だったのだ。
外見も言動も年下にしか見えないが……何十年も囚われていたのなら、俺よりずっと年上ということになる。
だが今は、細かいことを気にしている場合じゃない。
俺はひとつ気になることをぶつける。
「ここから脱出したい。だがその前に、気になることを聞いていいか?」
「なんでも聞いて……ずっと暇だったからさ!」
檻の中、二人きり。奇妙な神様との対話が、始まろうとしていた。




