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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第二部 第一章 開拓編

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EP94 謎の村

 俺ははむまるに跨がったまま、ゆっくりと村の入り口へ近づいた。

 そこには一本の槍を構えた若い男性が立っていた。


「こんにちは」


 声をかけた瞬間、男は目を見開き、反射的に槍を突き立ててきた。


「誰だお前は!」


 慌てて手を上げ、敵意がないことを示す。


「驚かせてすいません。相棒のはむまるとともに旅をしていた者です。まさか、同じ人族の住む村があるとは思いませんでした」


 俺の言葉に、男は怪訝そうに俺を見つめたが——やがて視線が俺の耳で止まった。

 しばらく凝視した後、目の色を変える。


「……同族か……! 大変だったな。とりあえず、村長に会うといい」


 さっきまでの警戒心は嘘のように、態度が一変した。槍を下げ、俺を中へと招き入れる。


 村の内部はこぢんまりとしていた。

 木で作られた簡素な建物が八つほど並び、畑や井戸も見える。生活感がしっかりとある村だった。


 だが、俺の目を奪ったのは別のものだ。

 村の中心部に、見覚えのある装置がいくつも並んでいた。


「……作業台……?」


 それはまさしく俺が「創造の目」で作り出したものと同じ作業台だった。しかも、一種類ではなく複数。

 村人たちはそれを当然のように扱い、武器や道具を作り出していた。


「これは一体……」


 言葉を失っていると、周囲の人々もこちらに気づいたようだ。

 不思議そうな目を向けてくる大人たち。

 そして、はむまるを見て興味津々で駆け寄ってくる子供たち。


「きゅー!」


 はむまるは愛嬌たっぷりに返事をし、子供たちの歓声を浴びていた。


「村長! 村外の人を見つけたので連れてきました!」


 先ほどの男が声を張り上げると、一軒の家から杖をついた老人が姿を現した。


「……ほう、珍しいこともあるもんじゃ」


 皺深い顔に知恵の光を宿した老人は、静かに俺を見つめ、そして頷いた。


「中へどうぞ。……お前は警備に戻りなさい」


「はっ!」


 男は槍を抱え直し、再び門へと戻っていった。

 こうして俺は、村長の家へと足を踏み入れることになった。


 案内されて村長の家に入ると、そこは昔の日本家屋のような内装だった。

 木の柱が組まれ、土間の奥には囲炉裏が切られている。

 黒く煤けた梁が天井に走り、壁際には棚や道具が整然と並んでいた。

 外の未来的な電子パネルや作業台とのギャップに、俺は思わず息を呑む。


 座布団に腰を下ろすと、村長はじっと俺の顔を見つめ、やがて視線を俺の右目に固定した。


「……お主、先導者じゃな」


 静かに放たれた言葉に、俺は思わずたじろいだ。

 まさか、自分の口からではなく相手の口からその単語を聞かされるとは思っていなかった。


「……先導者。ええ、その通りです」


「そうか……この時が来たんじゃな……」


 村長は遠くを見つめるような眼差しをしたが、俺には状況がまったく飲み込めない。


「すみません。貴方がどこまでご存じなのか分かりませんが……ここは完全な無人島だと聞いていました。ですが、実際にはこうして人が生活している……驚きを隠せません」


「……ふむ」


「あなた達は一体いつからここに?」


 俺の問いに、村長は立ち上がり、奥の棚から何かを取り出した。

 それは、タブレットのような薄い機械だった。


「これは電子端末と言い、先祖代々受け継がれてきたものじゃ」


 俺は本か古文書の類が出てくると思っていたので、思わず目を丸くした。


「やけにハイテクだな……」


 しかし、村長が触れても、画面は光らなかった。


「……なんの反応もないですね……。」


「そうなんじゃ。バッテリーを交換せねばならんのじゃが、それに必要なエネルギーを得られなくてな。わしの祖父が亡くなる直前から、何十年も使えぬままじゃ」


「バッテリー……エネルギーか。そういえば近い項目を見た気もするな」


 俺は考え込む。だがそれより気になる点があった。


「……すみません、その……祖父が亡くなった、というのは殺されたという意味ですか?」


「いや? もう歳じゃったからな。ちょうど八十歳で旅立ったわい」


「八十歳で!? えっと……ここにいる人たちはみんな天族じゃないんですか?」


「天族……? 電子端末で見た気がするが……なんじゃったかな」


「……なるほど。電子端末、これが使えるようになれば、あなたたちのルーツが分かるかもしれないな」


 俺がそう呟くと、村長は真剣な目でこちらを見つめた。


「おぬしは旅をしてきたんじゃろう? 相当腕が立つとお見受けする。どうか、バッテリーに必要なエネルギーを取ってきてくれんか?」


「もちろんだ。俺も気になって仕方がない。ただ……どこに行けば?」


「ここから北へ真っ直ぐ行くと、神の都と呼ばれる奇怪な場所がある。しばらく進むと石の壁が見えてくるはずじゃ。そこに金属の梯子があって、それを登れば入れる」


「岩の壁……真っ直ぐだな」


「都の中心部に、青く発光する玉がある。それを収集キューブで取り込めば、必要なエネルギーが手に入る」


「そこまで分かっていて、なぜ誰も行かないんだ?」


「恐ろしい魔物が出るようになったのじゃ……村一番の戦士もそやつにやられてしもうた。それ以来、近づくことを禁じておる」


「……なるほど」


「そして、そやつが現れると同時に、神様も現れなくなった……。村を支える作業台も、止まるのは時間の問題じゃろう」


「神様?」


「ああ。この村を見守ってくれているお方じゃ。数十年に一度はやってきて、作業台の修理をしてくれておった」


「……それ、神様というより出張エンジニアだな」


 苦笑しながらも、俺は興味を抱いた。


「その作業台、ちょっと見せてくれないか?」


「よかろう」


 村長は頷き、立ち上がる。

 家を出ると、子供たちがはむまるとじゃれ合っている姿が目に入った。

 はむまるが「きゅー!」と鳴き、子供たちが笑い声をあげる。

 その光景に、俺はほんのひととき、心を和ませながら村長の後を追った。

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